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希少な命、次世代につなぐ

希少な命、次世代につなぐ
【夢を追う】ツシマヤマネコ飼育員・永尾英史さん

2017年9月12日(火) 産経新聞

目頭から額への特徴的なライン、しなやかな動き。
ツシマヤマネコだ。
環境省のレッドリストで絶滅の恐れが極めて高い「絶滅危惧IA類」に分類される。
福岡市動物園で繁殖に取り組む飼育員の永尾英史さん(43)は「目標は野生に帰し、次の世代へと命をつなぐこと。
1匹でも多く、繁殖を成功させたい」と力を込める。

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《今年4月、2匹の子ネコが生まれた。1匹は死産。もう1匹は元気だった。成猫に育てば、動物園にとって平成27年以来、2年ぶりだ》
ツシマヤマネコは人間にストレスを感じやすく、毎日エサをやっていても威嚇されるし、近づきすぎると引っかかれます。
特に子ネコが生まれたときは神経を使います。
母ネコはデリケートで、ちょっとした物音で育児放棄する可能性もあるからです。
幸い、今のところ、母ネコはしっかり育てています。
子ネコは今の時期が一番かわいいですね。
母親にべったり甘えています。
平成16年にツシマヤマネコの正担当になりました。
以来、ずっと繁殖に取り組んでいます。
動物園では12年に初めて子ネコが誕生し、今春の繁殖で通算50匹になりました。子ネコが生まれたときの感動は変わりません。
家でネコは飼ったことがなく、どちらかというと犬派でしたが、今ではネコ1匹1匹に強い思い入れを持つようになりました。
ただ、生まれた50匹のうち、成長したのは30匹です。
喜びもありますが、厳しい現実もあります。

《園内の小高い丘に、ツシマヤマネコ舎はある》
動物園にいるネコは、子供を含めて8匹で、公開しているのは1匹だけです。
野生のネコは基本的に単独行動なので、一匹ずつ部屋を分けて飼育しています。
繁殖は、雄と雌を同居させるところから始めます。時期は毎年1~3月です。
会わせるときは、慎重に相性を見極めます。
神経質なネコは、相性の良い相手しか受け入れません。
相性の良いペアを見つけるのは難しい。
まず、雌がいない状態の部屋に、雄を入れます。
雌の部屋のにおいをかがせ、「今から一緒になるんだぞ」という合図です。
金網越しの「見合い」もさせます。
互いに鼻を近づけて、においをかぎ合ったら、良い感じです。
こうした動きをみて、同居を試みます。
雄は割と、どの雌にも近づこうとするんですが、雌は「この雄なら」と思わないと、寄せ付けない。
好みのタイプがあるんでしょうね。
雄が雌を追いかけたときに、距離を縮めるのを雌が許すかどうかもポイントです。
こちらがペアにしようと思っても、会わせた瞬間、とっくみあいのケンカが始まることもあります。
ひどいときは、かみ殺してしまう。
けんかが続けば引き離しますが、けんかの後、仲良くなるケースもあるのです。
多少のけがでは、様子を見守るようにしています。
雰囲気がよければ、一緒にいる時間を少しずつ長くし、交尾に結びつけます。
引き離すか、一緒に過ごさせるか、少しずつ見極められるようになりました。
平成12年に初めて子ネコを産んだ「ふみ」は、それから7年連続で11匹を産みました。
今年1月に推定20歳で死にましたが、体力もあり、母ネコとして本当にすごかった。
敬意を表して、「ふみさん」と呼んでいました。
交尾をした日から、おおよそ63日後に出産します。
最近はレントゲンやエコーでおなかに何匹いるか分かります。
順風満帆に進んできたわけではありません。
私が担当を引き継いだころは、繁殖の波に乗っていたのですが、平成21年を最後に、繁殖が一時、ストップしてしまった。

《福岡市動物園にツシマヤマネコが初めてやってきたのは平成8年だった》
ツシマヤマネコは、長崎・対馬だけに生息し、推定100匹程度と言われます。
減少した理由は、生息域が開発で狭くなった上、交通事故に遭ったり、野犬に襲われたりしたためと言われています。
絶滅を防ごうと、環境庁(現環境省)が、ネコを人工繁殖させて自然に帰す保護計画を策定しました。
この試みのため、動物園に捕獲されたネコがやってきました。
先輩方は、かなり苦労しました。
種類が近いベンガルヤマネコを参考に、手探りの飼育です。
エサの種類や量さえ分からず、ネコが食べそうなものをいろいろ与えたそうです。
池や植栽など飼育環境も整え、寒い冬でも三脚を立ててネコの動きをビデオカメラで追っていました。
飼育日誌には、2時間ごとの行動記録や、エサの残り具合が記されています。
4年後、待望の子ネコが誕生したとき、私は副担当でした。
そのときの熱気はすごかった。
母ネコを刺激しないよう、飼育員にはピリピリしたムードもありました。
その後も順調に繁殖が続いたのですが、平成21年以降、子供が生まれにくい、生まれても育たないケースが続きました。

《ツシマヤマネコを飼育する全国の動物園で、対策を話し合った》
そのころ、全国各地の施設にネコを分け、繁殖させる分散飼育が行われていました。1カ所で飼育していると、感染症などの危険性が高まるからです。
うちには7匹ほどいたのですが、相性や体調面、妊娠しにくい-などの理由でうまくいっていなかった。
そこで、対馬の環境に比較的近い福岡市動物園と、長崎県佐世保市の「九十九島動植物園森きらら」に、繁殖に適した年齢のネコを集めることにしたのです。
うちも数匹を受け入れました。
1匹のメスに、複数のオスがお見合いできるようにするなど、改善に取り組みました。
26年、子ネコ3匹が生まれ、2匹は元気に育ちました。
順調に成長したのは5年ぶりでした。
苦しい時期は乗り越えましたが、今年も成長しているのは1匹だけで、まだ十分とはいえません。

《飼育担当を引き継いで13年、試行錯誤は続く》
失敗もあります。
正担当になった翌年、赤ちゃんが誕生してワクチン接種をし、そのとき体重などの測定もしたんです。
ところが、次の日、母ネコが子ネコをかみ殺してしまった。
触りすぎたのでしょう。
人のにおいが付いて、自分の子と思えなくなったんだと思います。
配慮が足りませんでした。
その後は、子ネコに触れた後は、母親のフンを子供の体に付けて、戻すようにしています。
動物園の役割は、繁殖の成功に加えて、誕生したネコを野生に戻せるように飼育することです。
エサは、鶏肉や馬肉、カンガルーの肉などに加えて、ネズミとヒヨコを生き餌で与えます。
捕まえて食べるという野生の習性を失わせないためです。
食いつきは全然違います。
生き餌の方が本能に動かされるのでしょう。
現状では数を増やすことに力点が置かれ、野生復帰に向けた本格的な議論は、これからです。
ツシマヤマネコにはファンも多く、赤ちゃんが誕生したときは、みんが喜んでくれる。
毎日エサをやっていても、全然なつかない。
そんな「こびない姿勢」が、かっこいい。
来園者の期待に応えられるよう、今後も慎重を期して、育てていきます。

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