ロンドン版「猫の恩返し」 人生を救われた路上の演奏家
2017年9月4日(月) 朝日新聞
自著が原作の映画「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」が公開中のジェームズ・ボーエンさん
■「猫の恩返し」で人生を救われた ジェームズ・ボーエンさん
傷ついた野良猫を助けたら、その猫に人生を救われた。
2007年春、ロンドン。
路上でギターの演奏を終えてアパートに帰ると、脚をけがした猫がうずくまっていた。
放っておけず、動物病院に連れて行き、1日分の稼ぎで薬を買った。
「それから、僕らは離れられない関係になった」
猫をボブと名付けた。
それまでは絶望的な道を歩んできた。
両親は離婚、自身は薬物に依存。
路上で演奏して暮らす日々だった。
ある日、出かけようとすると、ボブがついてきた。
追い返してもぴたりと寄り添い、ついには肩に乗ってきた。
そのまま演奏していると、人だかりができた。
英国王立動物虐待防止協会に通報されたこともあるが、「ボブは自分の意思でついてきていると協会も認めてくれた」。
1人と1匹はSNSでも話題になり、出版社から執筆依頼がきた。
ボブとの関係をつづった本は続編を含めて1千万部が売れた。
映画化もされ、「ボブという名の猫」は日本でも上映中だ。
印税のほとんどを、飼い主のいない犬猫保護の基金や薬物依存症関係の団体などに寄付。
いまは動物愛護団体で働き、ホームレスの就労支援の活動に関わる。
「ボブが僕を家族に選んでくれなかったら、こんな人生はなかった。ボブが僕を助けてくれたように、今度は僕が誰かの役に立ちたい」
(太田匡彦)
【写真多数】ボブとジェームズ・ボーエンさん
映画「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」
野良猫を助けたつもりが、助けられたのは自分だった・・・
世界をほっこりさせた心温まる感動の実話がついに映画化。
しかも猫本人登場の奇跡!
いま日本は空前の猫ブーム。
猫の飼育数がいよいよ犬を上回るのではないかと言われているほどで、人気猫の写真集やグッズの売り上げなど、猫の経済効果、いわゆる「ネコノミクス」はとどまるところを知らない勢いだ。
思わず癒されるモフモフ感、マイペースな姿やくるくる変わる表情・・・。
CMや動画など、既に多くのアイドルが存在するが、最も注目したいスター猫の一人(匹?)が、この映画の主人公「ボブ」である。
本国イギリスではもはや大スターのボブ。
彼を主人公にしたノンフィクション「ボブという名のストリート・キャット」が12年3月にイギリスで出版されると、ザ・サンデー・タイムズ紙のベストセラー・リストに76週間連続でランクインする記録を樹立。
30を越える地域で出版され、販売部数は世界中で500万部、続編2冊を合わせると計1000万部を越える大ベストセラーとなっている。
最近では、10代のための最高の読み物の一つとして、『ハリー・ポッター』や『ハンガー・ゲーム』といった名だたる作品とともに挙げられ、彼らの物語は、日本のテレビ番組でも「奇跡の猫ボブ 人生ドン底男ジェームズとのキズナ」として紹介され、大反響を呼んだ。
ストリート・ミュージシャンとして生計を立てていた、ホームレスのジェームズ。
薬物依存で親にも見放され、生きる希望も持てずにいた彼の前に現れたのが一匹の茶トラの猫、ボブだった。
出会った瞬間から不思議とジェームズに懐いたボブは、ジェームズに生きる希望とチャンスをもたらす。
拾った猫に救われて、捨て鉢の人生が一変。
まさに「猫の恩返し」とでも言いたくなる衝撃のストーリーだが、驚くことに実話。
もっと奇跡的なことにボブ本人も劇中、ボブ役としてほとんどのシーンを撮影、愛らしい姿を披露しているのだ。
ジェームズの肩に乗って散歩したり、演奏中のギターの上でうっとりしたり、お得意のハイタッチを見せたり・・・。
その姿は猫好きな人はもちろん、そうでない人さえきっと、キュンとなるだろう愛らしさである。
ボブの相棒、ジェームズに扮したのは『アタック・ザ・ブロック』、『タイタンの戦い』の英国美形俳優ルーク・トレッダウェイ。
本作でカメオ出演を果たしたジェームズ自身が「僕の人生そのもの」と賛辞を贈るほどの熱演を見せた。
彼を献身的にサポートするヴァルには人気ドラマ「ダウントン・アビー 華麗なる英国貴族の館」でゴールデングローブ賞最優秀助演女優賞を受賞したジョアンヌ・フロガット。
つらい過去を持つガールフレンドのベティには『One Night One Love ワンナイト、ワンラブ』でもルークと共演しているルタ・ゲドミンタス。
メガホンを取ったのは、『シックス・デイ』『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』『ターナー&フーチ/すてきな相棒』のベテラン、ロジャー・スポティスウッド。
製作陣に『英国王のスピーチ』のポ―ル・ブレット、ティム・スミス、『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』のダミアン・ジョーンズら。
ロンドンプレミアでキャサリン妃も絶賛!
カメラはボブの生き生きした表情はもちろん、さまざまな面を見せるロンドンの現状もしっかりと映し出している。
ブランド店の立ち並ぶファッション街や華やかな観光名所の数々、対照的にジェームズたち低所得者層の暮らす地域の危なく虚ろな空気・・・。
原作に登場した場所すべてでロケを敢行したという本物の背景が、ハッピーでかわいいだけでなく、ホームレスの窮状や薬物依存者の絶望なども率直に描いた、嘘偽りない物語をリアルに伝える要素の一つとなっている。