台湾でペットの殺処分廃止、アジアではインドに次いで2番目
2017年6月10日(土) @DIME
No-killへの挑戦 殺処分廃止へ大きく動き出した台湾
生きているものは他の命を摂取して生きながらえている。
それは、人も同じである。
その一方では、命を慈しみ、必死に他の命を助けようとすることもある。
生き物というのは、不思議なものだ。
人生観や倫理観、動物観などを語り出せばきりがないので、ここでは割愛するが、“殺処分”・・・何度目にしても決して気持ちのいい言葉ではない。
ある人は、「それも必要悪だ」と言った。
はたしてそうなのだろうか?
筆者には、いろいろな意味でバランスが崩れている結果のように思えるのだが。
犬は友にもなり、家族にもなり、かけがえのない人生のパートナーになり得る。
猫とのつかず離れずの関係は、心に豊かさを与えてくれることだろう。
そんな犬や猫たちを、“処分”することは、心が痛い。
殺処分を完全に無にすることは難しいとしても、限りなくそれに近づけることは不可能ではないはずだ。
そのために、私たちは何ができるのだろう?
台湾では2015年2月の動物保護法の改正時に、2年後には収容動物の殺処分を廃止する(伝染性の病気や治療が難しいという病気などの場合は除く)という条項も含まれていたそうだ。
TAIPEI TIMES、およびフォーカス台湾NEWS CHANNEL(国営通信社である中央通訊社)によると、2年が経った今年の2月4日から、それが施行されたということである。
こうした殺処分廃止は、アジアではインドに次いで台湾が2番目である。
ちなみに、台湾における公営動物収容所の殺処分率は、2007年~2016年までの10年間で74.57%から12.38%まで下がり、譲渡率は13.45%から74.86%に上昇。
2015年に台湾で初めて殺処分を廃止した台南市でも、2010年の譲渡率が13.4%だったのが、2016年には66.5%に上がったということだ。
また、ペットのしつけ方や動物保護について人々が学べる場となる『Pet Exercise and Education Park』が2019年にオープン予定で、同市はそれに巨額の投資をする他、動物福祉基金も設立するという。
しかし一方では、殺処分の廃止は動物収容所のキャパを超過させてしまう可能性があり、現場スタッフは厳しい対応に追われることになるのではないか、それよりもペット飼育に関する教育啓蒙や、不妊去勢手術およびマイクロチップ装着の実施率を上げるなどを優先したほうがいいのでは?というような反対意見もあるようだ。
現場スタッフと言えば、1年ほど前のこと、台湾の動物収容所に勤務していた獣医師が、世間から殺処分していることへのバッシングを受け、それを苦に、自らの命を絶ったという悲しい出来事があったことはまだ記憶に新しい。
先日、筆者はある保健所を見学させてもらえるチャンスを得たのだが、実際に殺処分に関わる経験をしたスタッフのストレスは言葉に尽くせないものがあり、本人が気づかないうちに体にもいろいろ影響が出るという話だった。
そして、「殺処分“ゼロ”という数字にばかり目が行き過ぎると、それに至るまでの過程でややもすると大事なことを見過ごしてしまう可能性もある。後世にもしっかり残していけるような道をつくらないと」という話にも考えさせられるところがあった。
ここでも筆者は“バランス”というものを考える。
アニマル・ウェルフェアの概念が浸透し、殺処分がなくなり、人と動物とがよりよく共生していける社会。
1つの大きな目標を実現しようと思った時、中には意見が批判になってしまうこともあるだろう、互いの考え方や捉え方にすれ違いが生じることもあるだろう。
こと人というのは自分の立場や思い込みで物事を考える生き物であるのだから。
だからこそ、一方向からだけの圧力だけではダメで、一部の人たちだけが携わるのではなく、一人一人が自分のできそうなことを、できる範囲で、協力し合って積み重ねていかねば。
日本のペット環境は今度どう変わっていくのか。
殺処分はなくせるのか、人にも動物にも暮らしやすい社会がつくれるのか。
それは何より私たち一人一人の“意識”にかかっているのだと思う。
文/犬塚 凛