人気の動物病院「なぜ」 ペット保険詐欺事件
2013年11月21日 読売新聞
◆飼い主の書類送検も検討
全国的にも例をみないペット保険詐欺事件の舞台となったクラーク動物病院。
年中無休をうたい、院長が逮捕された20日も普段通り営業が行われていた(草津市新浜町で)
腕が良く、顧客の信頼も厚かった獣医師がどうして――。
保険会社からペットの保険金をだまし取ったとして草津署が草津市のクラーク動物病院の病院長を逮捕した保険金詐欺事件。
病院長の奥村滋容疑者(46)は県内でも屈指の規模を誇る動物病院を経営する敏腕獣医師だった。
病院はこの日も普段通り診療が行われ、ペットを連れた数多くの顧客が訪れたが、「信じられない」と困惑が広がっていた。
(まとめ・池内亜希)
同署の発表では、奥村容疑者は2011年4月、脱臼した犬の診察に訪れた飼い主に保険へ加入させた上で、保険が有効になった日以降に、脱臼が発症したとする、うその診療明細書などを作成。
同年5月、保険会社から飼い主に対し、約29万円を支払わせ、保険金をだまし取った疑いが持たれている。
奥村容疑者は容疑を否認しているという。
クラーク動物病院が絡んだ保険金請求に不審な思いを抱いた東京の保険会社からの告訴を受け、同署は昨年12月、捜査を開始。
脱臼した犬は、診察を受けた11年4月21日以降に手術や入院を重ね、飼い主は保険会社に約37万円を請求。
この8割弱が支払われていた。
保険会社に提出する診療明細書などには、脱臼の発症が、保険が有効となった同23日以降の日付で記されていた。
保険加入の際、提出する書類には、けがや病気の有無などを問う欄があるが、「なし」の回答になっていた。
同署による任意の事情聴取に対し、飼い主は「事実でない記載がなされていたのは分かっていたが、病院側の勧めに従って書類を作り、保険会社に提出した」などと説明。
同署は飼い主についても書類送検を検討しているが、さらに病院側が他にも組織的な犯行に及んでいなかったか、余罪も追及する構えだ。
関係者によると、病院は1998年、開院。
その後、大津市内にも分院を設け、今年夏現在で、獣医師8人、動物看護師8人、さらに複数のトリマーが所属し、年中無休で営業。滋賀を代表する動物病院としてペット愛好家の間では知られた存在だった。
病院長が逮捕された20日も、病院にはペットを携えた顧客が相次いで訪れた。
猫の診察で訪れた草津市の女性会社員(44)は「院長は腕だけでなく人柄も良くて病院は人気を集めている。今後の治療に影響が出ないか心配」と不安そうな表情を浮かべた。
2か月前から犬の通院を続けているという別の女性は「思いの外、ペットの医療費は高くつくので私も保険に入っている。でも病院が恣意(しい)的に保険を悪用するのは明らかにルール違反だ。もう別の病院に変えようかと思う」と憤っていた。
◆背景に治療費高額化
ペットの保険事情に詳しくペット法学会副理事長を務める吉田真澄弁護士によると、「ペット保険」が普及し始めたのは1990年代後半のこと。
ペットを「家族の一員」と見る人が多くなり、医療設備や技術が高度化し、医療費も高騰。
それに伴い、ペット保険は掛け金、支払金とも高額化の一途をたどっているという。
吉田弁護士は、今回のケースについて「病院の親切心と飼い主の罪の意識の低さが招いた結果では」と推測する。
そして「獣医師が個人的な後ろめたい利益を追求したのではなく、顧客である飼い主の負担軽減につながれば、と軽い気持ちで犯行に及んだ可能性もある」と分析する。
ただ、「こうした不祥事が相次げばペット保険という制度そのものの土台が揺らぐことになる。詳しい背景は今後、明らかになると思うが、あまりに軽率で不誠実な行為だった」と警鐘をならす。