<熊本地震>年越しはビニールハウス 81歳女性と14歳犬
2016年12月31日(土) 毎日新聞
ビニールハウスの家で大みそかを過ごす松野ノブ子さん。餅や野菜、卵など元日に作る雑煮の具材をそろえ準備を済ませた=熊本県益城町で2016年12月31日午後5時28分、和田大典撮影
「私はビニールハウスに入っとるばってん、チャッピーは新築の犬小屋に入っとります。あはははは」
熊本地震で震度7に2度襲われた熊本県益城(ましき)町の小池の集落にある畑で31日、松野ノブ子さん(81)の元気な声が響いた。
昨年4月16日の本震で自宅が全壊し、約40平方メートルのビニールハウスで寝泊まりする生活は8カ月を超えた。
“相棒”は同6月に次男博則さん(56)の家から預かった14歳の老犬。
ハウスでの年越しとなったが、ノブ子さんは苦労も明るく笑い飛ばす。
長男武則さん(57)の家族と3世代5人で暮らしていたが、地震後は自宅近くの畑にあるハウスとテントで避難生活を始めた。
長男家族は昨夏に仮設住宅に移ったが、戸外で犬が飼えず、ノブ子さんは自ら望んで犬とハウスに残った。
日よけシートを重ねたハウス内には畳とカーペットを敷いた。
孫の友人が電気の配線工事をしてくれ、エアコンに電子レンジ、テレビ、冷蔵庫と大抵のものがそろっている。
パソコンデスクを利用して神棚も作り、仏壇代わりの台には3年前に亡くした夫の位牌(いはい)と写真、地震1カ月後に死んだチャッピーの兄弟犬の写真を飾る。
神棚や仏様に朝一番にご飯とお茶をあげる。
夕方には長男家族の仮設に出向き、夕食や入浴、洗濯を済ませてハウスに戻る。
その際、長男の妻の浩子さん(56)か孫の浩司さん(33)が交代で同行し、一緒に泊まる。
昼間は近所の人たちが立ち寄り、ひとしきり話の花を咲かせる。
「不便はなかし、寂しゅうもなか。野菜ば作るけん、できた野菜は近所にやりますでしょうが。だけん、入り口にこそっとアメを置いていく人もおられるですもん。田舎のおもしろかとこですたい」
オレオレ詐欺の電話も撃退した。
「オレオレて言う孫はうちにはおりまっせん。もうちょっと勉強してから電話しなはりまっせ」
大みそかは浩子さんとハウスで雑煮を作った。
その後、長男家族の仮設に行ってソバを食べたが、夜はまたハウスに戻ることにした。
「元旦に、神様と仏様に一番に雑煮を供えたいから」と。
もうすぐ損壊した次男宅の補修が終わり、チャッピーが引き取られる。
その後は長男家族に合流するが、日中はハウスで畑仕事をしながら過ごすつもりだ。
自宅跡地に浩司さんが住宅を建て、夏には移る。
1年後の新居での年越しを今から楽しみにしている。
「鬼に笑われるかもしれんばってん」
【福岡賢正、出口絢】
◇自宅以外で生活4万2000人
熊本地震は震度7の揺れを2回(昨年4月14日と16日)記録し、震度1以上の余震は4000回を超えた。
直接死50人、震災関連死123人など地震の犠牲者は178人。
昨年12月2日現在で仮設住宅には1万982人、民間アパートなどを借り上げる「みなし仮設住宅」には2万7960人が入居するなど、自宅以外で生活する被災者は約4万2000人に上る。