かわいすぎる警察犬「アンズ」誕生の秘話とは?
小さなトイプードルが大きな困難を越えて
2016年10月11日(火) 産経新聞
トイプードルのアンズ=茨城県茨城町上石崎(上村茉由撮影)(写真:産経新聞)
茨城県内初の小型警察犬「アンズ」(雌、3歳)が、警察犬になるまでの軌跡が子供向けの本になった。
飼い主で指導士の鈴木博房さん(66)が執筆し、タイトルは「警察犬になったアンズ 命を救われたトイプードルの物語」(岩崎書店)。
「かわいすぎる警察犬」を育てた鈴木さんが本に込めたメッセージとは-。
著者にインタビューし、警察犬アンズ誕生の秘密に迫る。
(水戸支局 丸山将、写真も)
「小さな体に秘められたエネルギーの大きさには、驚かされます」
茨城県東海村須和間の自宅で、鈴木さんは誇らしげにそう語り、腕の中では、アンズが幸せそうに甘えていた。
アンズをなでながら「こんな小さな犬が困難なことを成し遂げた。何事も前向きに頑張ることが大切なんだと伝えたいです」とも話した。
アンズが嘱託警察犬となったのは今年1月。
その後、10社を超える出版社から書籍化の申し出があった。
ほとんどは「サクセスストーリーを書いてほしい」という依頼だったが、岩崎書店(東京都文京区)の「子供向けの本にしたい」という考えに共感した。
鈴木さんとアンズの出会いは、平成25年3月に遡(さかのぼ)る。
県動物指導センター(笠間市日沢)に知人を訪ねたとき、たまたまとある場面に遭遇した。
当時の飼い主が「しつけ本の通りに動かない。バカな犬だ」と言って、殺処分を依頼していたのだ。
クレート(かご)の中で震えるトイプードル。
鈴木さんは引き取ることを決意した。
ただ、このときは「しっかりしつけをして、人に譲ろう」と思っていた。
著書には、引き取ってから、警察犬を目指すことになるまでの経緯や、小型犬のハンディを乗り越え、懸命に訓練を行い、才能を開花させていく様子がつづられている。
人が手を振り上げると、おびえる場面も描かれており、鈴木さんは、以前の飼い主から虐待を受けていたと推察する。
「引き取ってから約3年、多くの人に触れられ、愛されてきた。それでも、たった1人の暴力で負った心の傷は消えない」
引き取る前のアンズの過去に思いをはせると、温厚な人柄の鈴木さんも、その表情は自然と険しくなる。
本には「いじめや暴力は絶対にいけない」というメッセージも込めた。
今では立派な警察犬のアンズ。
ある日、鈴木さんは車の鍵をなくしてしまう。
一緒に飼っている警察犬のシェパードとアンズの訓練中のことだ。
アンズはすぐに発見した。
体高が低く、歩幅が狭いため、小物を見つけるのが大型犬より得意だったのだ。
すでに小さな遺留品がある事件現場に出動しており、警察犬には不向きとされていた体格が、逆に武器になっている。
今後は、ショッピングモールなど、人が多い場所での活躍も期待されている。
大型犬よりも目立たず、怖がる人が少ないのも強みだという。
「子供たちには、やりたいことがあったら『自分には向いていない』と思わず、挑戦してほしい。アンズに触れることで、『頑張る勇気』を持ってくれたら、何よりの幸せです」
こうも語る鈴木さんは動物愛護推進員として、子供たちがアンズと触れ合う場を作る活動にも取り組んでいる。
絵本「警察犬になったアンズ 命を救われたトイプードルの物語」
茨城県初の小型警察犬として犯罪捜査や行方不明者探索で活躍するアンズ。
殺処分寸前に著者に引き取られ、訓練を経て試験に合格!
著 者:鈴木 博房 著
出版社:岩崎書店
対象年齢:小学校中学年
出版年月日:2016/08/15
判型・ページ数:A5・144ページ
定 価:本体1,300円+税