住民で管理する「地域猫」が広まらない理由
2016年7月9日(土) DIME
地域猫とは、特定の飼い主ではなく、その地域に住む人々が共同で管理している猫のこと。
1997年に神奈川県横浜市磯子区の住民たちが野良猫たちを共同で世話をして、野良猫を増やさないようにする運動が始まりで、その後全国に地域猫運動・地域猫制度として普及しました。
この地域猫運動ですが、現実にはさまざまな問題点もありなかなか普及していません。
まずは社会問題にもなっている野良猫の話をしましょう。
野良猫による被害は大まかには以下になります。
●猫の排泄物(臭いと園芸に対する害)
庭などに排泄物をされるとかなり匂いがきついですね。
また、猫は糞を土に埋めます。
そのため、砂や柔らかい土の上で排便をします。
ですが、現代ではコンクリートやアスファルトの場所が多いため、公園の砂場や花壇、畑、芝生で排泄をします。
さらに糞に砂をかけようとするため、せっかく育てた草花を駄目にしてしまいます。
●雄猫のスプレー行為
雄猫は壁などに尿を飛ばして、縄張りつけをします。
この時のスプレーは通常時の尿より強烈に匂います。
そして一度スプレーされた場所には別の雄が来てその上にスプレー付けをしていきます。
そのため、スプレーされたら最後、その場所はどんどん臭くなっていきます。
●発情期の鳴き声
猫の発情期の鳴き声は、赤ちゃんの泣き声に似た奇妙な鳴き声をします。
それも、そのほとんどが真夜中です。
また、雌猫をめぐって雄同士の喧嘩も活発になります。
●ゴミ置き場が荒される
満足に餌が摂れない猫は、ゴミあさりをします。
餌付けなどで人間の食べ物を覚えるとさらに荒らされやすくなります。
家に入り込まれる、車のボンネットなどに足跡や傷がつくなどなど、他にも色々あるでしょう。
みなさんもこういった被害の経験があるのではないでしょうか?
では、なぜ野良猫はへらないのでしょうか。
どうすれば減らすことができるのでしょうか?
「地域猫」とは地域の理解と協力を得て、地域住民の認知と合意が得られている、特定の飼い主のいない猫とされています。
「地域猫活動」とはその地域にあった方法で、飼育管理者を明確にすることです。
飼育する対象の猫を把握すること。
地域のルール(エサやふん尿の管理、不妊去勢手術の徹底、周辺美化など)に基づいて飼育管理することです。
その目的は、地域住民と飼い主のいない猫との共生をめざし、不妊去勢手術を行ったり、新しい飼い主を探して飼い猫にしていくことで、将来的に飼い主のいない猫をなくしていくことになります。
これを実施するためには、いわゆる野良猫による被害の現状を十分認識し、野良猫を排除するのではなく、地域住民が飼育管理することで、野良猫によるトラブルをなくすための試みであることを活動を行う人のみならずその地域の方たちにも理解していただく必要があります。
地域猫活動のながれとしては
1 活動グループの結成
2 活動地域の猫の現状の把握・対象猫の特定
3 活動ルールと計画を作成
4 地域住民に説明、同意を得る
5 地域への活動の周知を行う
6 猫の捕獲、不妊去勢手術の実施、猫のリターン
7 飼育管理の実施・継続
となります。
市や区をあげて地域猫の推進をしているところもあれば、大学などでサークルを設けて活動を行っているところなどもあるようです。
<地域猫活動の問題点>
地域猫制度は、野良猫を減らすのに成功しているという話もありますが、失敗しているという話も聞きます。
一体、実際はどっちなのでしょうか?
理論上は、特定の野良猫のすべての個体に不妊去勢手術を行い、他地域から猫の流入がなければいずれは野良猫はゼロになります。
しかし理論通りにはいきません。
磯子区の第一号、汐見台地域猫は、活動開始10年後には猫の数は1.5倍に増えました。
結局、いろいろな問題が浮上するのです。
★野良猫が増えないよう不妊・去勢手術を行う
全ての猫を捕まえて不妊・去勢手術を行なうのは不可能です。
地域猫では、餌場を決めて餌を与えるため、餌を求めて他の地域から猫が入ってきますが、閉鎖された空間ではないので流入を防ぐことはできません。
また、地域猫を行なっているため、餌に不自由しないと安易にそこに捨てに来ることがあります。
★餌を与える場所を定め、給餌行為で他人に迷惑を掛けないようにする
これは、お腹をすかせてゴミを漁らないようにするためといわれています。
ですが、餌やりは猫を増やす要因になっています。
「個体管理をした猫以外には給餌しない」とのルールを課したとしても、現実には集まってきた猫に無分別に給餌することになってしまいます。
それに餌を与えることで栄養が行き届くようになり、その分寿命が延びます。
それは結局のところ、繁殖回数を増やすことになります。
★放置された猫の糞を掃除する
餌場の周りの公共の場所はちゃんと清掃されるようですが、他人の敷地内は勝手に入れないため、基本ほったらかし状態です。
定期的に餌を与えることにより、糞などの被害が発生するような場所に自ずと集中することになります。
残念なことに、「地域猫」というものを、エサやりという批判をかわす手段として正当性を主張する目的で利用する人、自分では世話できないから住民に押し付けている人が多く存在しています。
単にエサだけを与える、手術のみしている、周辺地域住民の理解を得ていないといったものは、猫好きの自己満足、地域への押し付けと言われてもしかたがないのではないでしょうか。
「勝手な解釈の地域猫」の広がりによって誤解が生じ、「真の地域猫」を目指している人達への風当たりも強く、影響が出ています。
もともと地域猫活動は、欧米で先行していました。
米国やヨーロッパ諸国の自治体の多くで地域猫を制度化しています。
しかし磯子区汐見台地域猫と同様、理論通りに野良猫は減らず、近年では地域猫の見直し機運が高まっています。
地域猫運動が野良猫減少に役立っているのかどうか、統計上の結論は出ていません。
また、問題点もたくさん浮上してきており、地域猫運動の広まりの足かせになっていることも現状です。
どうすればもっとより良い効果的な地域猫運動になっていけるのかは、行政も含めた議論が必要と思います。
現状では何もやらないよりまずはやってみる、ということだと思いますが、やはり統計を含めた調査をボランティアに頼らず行い、国や市町村などの行政が中心となるべきでしょう。
いいお手本に広島のふるさと納税制度もあるんですから。
文/林 文明(はやしふみあき) @DIME編集部