東北でクマが多数出没、市街地近くにも なぜ?対策は?
2016年6月10日 朝日新聞
市街地での目撃が相次いでいるツキノワグマ=宮城県警提供
クマは幼稚園のすぐそばにある竹林で目撃された=4日午後2時50分ごろ、仙台市青葉区霊屋下、若井琢水撮影
クマの目撃情報があったJR笹木野駅の東側。クマは線路側から道路を横切ったという。周辺には民家や団地が立ち並ぶ=7日午前、福島市北中央2丁目、石塚大樹撮影
東北のあちこちで、ツキノワグマの出没が相次いでいる。
それも住宅街で、幼稚園や学校のそばで。山中では死者も出ている。何が起きているのか?
福島市中心部の市街地に位置する標高275メートルの信夫(しのぶ)山。
5月23日午後10時ごろ、山中にある公園近くに住む会社員遠藤徹さん(53)は車で帰宅途中、道路上に体長約1メートルのクマがいるのを発見した。
車に気づいたクマは驚いて、山頂の方へ逃げていったという。
「15年以上ここに住んでいるがクマを見たのは初めて。本当に怖かった」
福島市によると、今年4月から6月4日までに、市内では計17件の目撃情報があり、そのうち4件は、信夫山やJR笹木野駅周辺など市街地だった。
学校や国道も近く、市の担当者は「クマをこんな市街地で見かけるなんて聞いたことがない」。
人口108万人の東北最大の都市、仙台市にも現れた。
6月3日午前9時すぎ、JR仙台駅から車で10分ほどの幼稚園で体長約1メートルのクマが目撃された。
園庭で遊んでいた園児が、およそ10メートルの距離にある竹やぶの中に動物を見つけた。
「黒いネコがいる」と知らせを聞いた実習生が、斜面を登っていく様子を確認した。
やぶにはかみ砕かれた竹が落ちていたという。
山間部では、クマに襲われたとみられる犠牲者も出ている。
秋田県鹿角市の山中で5月、別々にタケノコ採りに出かけていた男性2人が相次いで死亡しているのが見つかった。
県警によると、いずれも動物に引っかかれたり、かまれたりした痕があったことから、クマに襲われた可能性が高いとみている。
5月30日には、同市内で3人目の犠牲者とみられる男性の遺体も発見された。
東北6県では、今年4月1日から6月3日までに計800件以上の目撃情報が寄せられた。
昨年の同じ時期の1・6倍にのぼる。
山菜採りや登山で山に入った人だけではなく、住宅の敷地内やその周辺など人間の生活圏で見かける事例も多い。
ツキノワグマはとても臆病で、人を怖がる動物とされている。
なぜ、人里に下りてきたのか。
クマの生態に詳しい森林総合研究所の大西尚樹さん(43)は、「ベビーラッシュ」の可能性を挙げる。
東北地方では昨秋、クマのエサになるブナの実が非常に多く実った。
豊かなエサで栄養をたくわえ、冬眠期間中に子を産んだクマが増えたとみる。
子を養うために、母グマがエサの少ない山奥から人目につく地域まで出てきているのでは、という。
生息環境も変わった。
農林水産省によると、1年以上作物を育てていない全国の耕作放棄地は昨年、1985年の3倍余りの42.3万ヘクタール。
山林と人里の境界が薄れ、人の生活圏近くにクマが活動しやすい場所が増えている。
「人慣れ」も関係している。
大西さんは、「キャンプ場に捨てられた残飯や農作物で人間の食べ物の味を覚えてしまい、人里に寄ってくるものもいる」。
狩猟をする人が減ったため、銃声を聞いたり、追われたりする経験がないことで、人間に恐怖心を持たなくなり、市街地でも気にすることなく動き回れるようになったという見方もあるという。
秋にかけても警戒が必要だ。
この秋、東北地方のブナの実は、豊作だった昨年の反動で凶作になる見込み。
9月ごろのピークに向け、さらにエサを求めてクマたちが山を下りてくることが考えられるという。
大西さんは、クマの出没は過疎化などが大きく影響しており、年や地域に限った問題ではなくなってきていると指摘する。
「抜本的な解決が難しい、全国的な社会問題ととらえなくてはいけない」
宮城県自然保護課は「出会わないことが重要」という。
人間の存在に気づかせるために鈴やラジオで音を出し、クマが活発な朝夕の時間帯を避ける。
クマの爪痕やフン、足跡などを見つけたら、その場を離れること――を挙げる。
出会ってしまったら。
大声をあげたり慌てて走り出したりせず、背中を見せないで向き合ったままゆっくりと後ずさることが大切だ。
そうすればクマの方から立ち去ってくれることが多い。
(船崎桜、石塚大樹)