ペットを買ったら病気だった! 水頭症、心臓病・・・なぜか診断書は「異常なし」
2016年5月28日(土) sippo(朝日新聞)
購入後に水頭症などの疾患が判明したチワワ
ペットショップで犬を買ったら病気にかかっていた――。
そんなペットに関するトラブルがあとを絶たない。
犬猫の飼育頭数が減少傾向に転じており、犬の販売頭数も減っているとされるなか、国民生活センターに寄せられる相談件数は高止まりしている。
「先天的な形成異常である頭部頸椎接合部奇形(CJA)と診断しました。水頭症や頭蓋骨形成不全なども併発していて、治療のすべがありません」
大学付属動物病院でそう獣医師から告げられ、東京都三鷹市内に住む会社員の女性(35)は頭が真っ白になった。
2014年5月、全国で約90店を展開する大手ペット店チェーンの店舗に何度も足を運んだすえ、約30万円で購入したメスのチワワ。
自宅に迎えて間もなく、重大な先天性疾患が明らかになった。
いま2歳。
1日のほとんどをケージの中で過ごさせるしかない。
12時間おきに薬を飲ませる必要もある。
治療費の負担は重い。
ペット店との話し合いで「犬を返却していただき、購入額を返金します」と提案されたが断った。
女性はいう。
「お金がほしいわけじゃない。病気の犬を繁殖させたり、売ったりしている業者がいることが許せない。犬にも命があるのに、そのことを軽く見られているのが悔しく、悲しい」
国民生活センターには15年度、ペット店などで購入した動物に関する相談が前年度比5%増の1308件寄せられた(16年5月15日集計)。
その大部分が、「買ったら病気にかかっていた」などペットの健康にまつわる内容だという。
「年1千超という相談件数は、各種相談のなかで目立って多い。状況が改善されず、相談件数が高止まりしているのは問題だ。トラブルが減らないため、購入時に病気の有無や保障内容についてよく確認するよう呼びかけている」(同センター相談情報部)
トラブルが訴訟に発展するケースもある。
埼玉県本庄市の会社経営者の男性(61)は14年12月、愛知県内に本社を置き全国展開するペット店チェーンを相手に、購入した猫に先天性疾患があったとして、治療費や慰謝料の支払いを求める民事訴訟を起こした。
近所のホームセンター内の店舗でオスのロシアンブルーを購入したのは14年7月。
埼玉県川口市の動物病院の院長名で出された「健康診断書」も一緒に受け取った。
診断書では「耳」「心臓」など13項目中12項目について「異常なし」となっていた。
だが購入した当日、近所の動物病院に連れて行くと「胸の中央部分が陥没している。獣医師であれば気づかないはずがない」と診断され、検査をして漏斗胸だとわかった。
漏斗胸は多くの場合が先天性。
重症化すれば呼吸障害を起こす病気だ。
ペット店の店長は「取り換える。同じようなのでいいですよね」と言ってきた。
納得できず、チェーン経営者に謝罪を求めると、役員から電話で「裁判してもらって構いません」と告げられた。男性は憤る。
「家族として迎えた子を、この会社は、まるで鍋や皿のように取り換えればいいと考えていた。経営者は謝罪もしない。経営姿勢を直してほしいと思った」
大阪府堺市に住む公務員の男性(44)の場合、同市内のペット店で購入したメスのパピヨンに、先天性の心臓病である動脈管開存症(どうみゃくかんかいぞんしょう、PDA)が見つかった。
特徴的な心雑音が発生するので、聴診だけでほぼ診断がつくとされる病気だ。
ペット店経営者は犬の販売価格など約10万円を返金し、「(提携している)動物病院が健康だというので販売した」と話した。
ペット店から渡された同市内の動物病院発行の「健康診断証明書」には確かに、「先天性疾患の有無」という項目も含め、すべてが正常であると書かれていた。
男性は12年、手術費など約50万円の賠償を求めて動物病院を提訴した。
「家族になった以上、何があっても一生面倒をみるのが当然。先天性疾患だからといって、見捨てることはできない。獣医師には誠実な対応をしてほしかった」と振り返る。
一審は勝訴したものの二審で逆転敗訴となり、最高裁に上告したが棄却された。
判決で「ペット店から依頼された獣医師が、子犬の心臓を注意深く聴診すべき注意義務を負うとはいえない」と告げられた。
購入してすぐに漏斗胸だとわかったロシアンブルー
動物に関わる法律に詳しい細川敦史弁護士はいう。
「ペットショップに対して提携病院の立場が弱いという側面はあるが、それでも、生体販売の現場において、獣医師の関わり方が形式的なものになっている。13年9月に施行された改正動物愛護法では、獣医師の果たすべき役割はこれまでより重くなった。消費者保護のためにも、獣医師にはより高度な職業倫理が求められていいと考える」
そもそも、ペット店などで販売される犬猫に健康トラブルが減らないのはなぜなのか。
前出の埼玉県の男性が訴えたペット店チェーン側の弁護士は、準備書面でこんな主張していた。
「ペットショップではペットをゲージ内で飼育保管しており、ゲージ内での運動量に限りがあるため、被告従業員らが本件猫の呼吸促迫や喘鳴に気付かなかったとしても不思議ではない」(原文ママ)
「(ペット店で販売される犬猫は)人間の好み(都合)に合わせて小型化したり新種をつくるために交配合を繰り返し[中略]血統が維持・左右されていることから[中略]雑種よりも、先天性疾患をもつ個体が必然的に発生しやすい」
犬の遺伝病などを専門とする新庄動物病院(奈良県葛城市)の今本成樹院長はこう話す。
「健康な子犬や子猫を作るのがプロの仕事のはずなのに、現実には、見た目のかわいさだけを考えて先天性疾患のリスクが高まるような繁殖が行われている。大量に販売する現場では、簡単な健康チェックしかなされず、疾患を抱えた子がすり抜けてくる。そして、病気の子はあまり動かないので、ショップの店頭では『おとなしい子です』などという売り文句で積極的に販売される。消費者としては、様々な疾患が見つけやすくなる生後3カ月から半年くらいの子犬や子猫を買うことが、自己防衛につながるでしょう」
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