猫の大好物=アジの干物、これははたして万国共通か?
【専門医に聞く】
2016年3月14日(月) サライ
いつも同じフードを前に「他にないの?」という表情を見せる猫
空前の猫ブームといわれる昨今。
でも、猫の生活や行動パターンについては、意外と知られていないことが多いようです。
人間や犬の行動に当てはめて考えて、まったく違う解釈をしてしまっていることも少なくありません。
昔から猫を飼っているから猫の性格や習性を熟知していると思っていても、じつは勘違いしていたということが結構あるようです。
そこで、動物行動学の専門医・入交眞巳先生(日本獣医師生命科学大学)にお話を伺いながら、猫との暮らしで目の当たりにする行動や習性について、専門的な研究に基づいた猫の真相を解明していきたいと思います。
■猫の好物はアジの干物、これって万国共通!?
愛猫に「ご飯ちょうだい」「おやつちょうだい」と甘えられると、そのしぐさの可愛さから、ついたくさんフードをあげてしまいたくなります。
最近はおいしいおやつの種類も豊富ですが、猫によって好みは千差万別。
複数の猫を飼っていても、みんながみんな同じものが好きとは限りません。
いったい、猫はどんな食べ物が好きなのでしょうか。
日本では「お魚くわえたドラ猫~♪」とも歌われるように、猫の好物といえば魚が定番というように思われていますが、アメリカにも「猫は肉より魚の方が好き」という、かなり前の調査報告(1956年)があります。
では、猫の好きな食べ物=魚は、万国共通なのでしょうか?
じつは、イギリスでは、「それぞれ生まれ育った場所で食べてきたものが好き」という調査報告もあります。
イギリスのある島では、猫の餌として兎の肉を与えていたので、その島の猫は兎肉好きになってしまっているのだとか。
「肉より魚の方が好き」との報告のあるアメリカの野良猫でも、観察していると現実的にはチキンやハンバーガーが大好きみたいです。
食生態学者の故・西丸震哉さん(1923~2012)が世界中の猫たちに様々な餌を与えたところ、どの国の猫も狂喜乱舞して喜んだのがアジの干物だったといいます。
いったい、どの調査結果が最も正確なのでしょうか。
■母猫が教えるハンティング能力
おそらく、どの調査も正しいのでしょう。
人間にも住む地域や育った環境によって食べ物の好みがあるように、猫にだって好みはあります。
そもそも野生の子猫は、母親からハンティングを教えてもらいます。
最初、母親は死んだ餌(捕らえて殺した野ネズミや小鳥など)を持ってきて子猫に与えます。
次に、息絶える前の状態の餌を持ってきて与えます。
そして次に生きた状態の獲物を持って来て、子猫に模擬ハンティングをさせます。
そうやって、段階的にハンティングを教えていくのです。
ハンティングの方法を教わると同時に、母猫が持ってきてくれる餌がその子猫にとっての“おふくろの味”ということになります。
母親が鳥を捕まえるのが上手だったら、鳥を主に捕まえて持ってきてくれるので、子猫も鳥を食べて育ち、自分でも鳥を捕まえるようになります。
食べ物の好みは、”おふくろの味”がなんなのかによって違ってくるというわけです。
■猫だって毎日同じ食事はイヤ!
毎日3食、味噌汁とご飯と漬け物の食事を食べ続けていて、ある日ステーキを食べたとしたら、ステーキが魔法の国の食べ物みたいに思うかもしれません。
私自身、子供の頃、はじめてハンバーガーを食べた時、「こんな美味しい食べ物がこの世にあるなんて!」と衝撃を受け、祖父に「おじいちゃん、近所にすっごく美味しい5つ星レストランができたんだよ!」と報告したほどです。
でも、毎日ステーキやハンバーガーでいいかというと、そうでもなくて、やはり日本人は味噌汁とご飯よね、と思ったりもするわけです。
猫も同じで、珍しいものを食べたら、そのときは「美味しい!」と思うでしょうけれど、すぐに飽きてしまって、またいつもの食事に戻るといったことは往々にしてあるのかもしれません。
札幌で6匹の猫と暮らす知り合いの若い夫婦も、猫たちの「これ飽きた~」にはいつも頭を抱えているとおっしゃっていました。
大袋でフードを買うことが多いのですが、数日間同じフードを与えていると、そのうち猫たちは「他にないの?」という顔をするそうです。
誕生日や家族になった記念日などに、ちょっとした贅沢をさせてあげるのも、愛猫を喜ばせることになるかと思います。
でも、毎日脂肪分の多い贅沢なものばかりあげていたら、それはそれで健康が心配になってしまいます。猫も人間も、グルメはほどほどがちょうどいいのかもしれません。
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猫の大好物=アジの干物?
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