少女がつなぐ「78円の命」 猫殺処分の値段「胸がはりさけそう」
2016年2月6日 東京新聞
キキと遊ぶ谷山千華さん=愛知県豊橋市で
猫の殺処分に心を痛めた愛知県豊橋市の少女の作文「78円の命」がインターネットなどで広がり、共感を呼んでいる。
賛同した東京の若手アーティストらが作文を絵本やポスターにして、全国の子どもたちに命の大切さを伝えようと動きだした。
(小椋由紀子)
<命の価値がたった78円でしかないように思えて、胸が鳴り、はりさけそうになった>
作文は、豊橋市青陵中三年の谷山千華さん(14)が小学六年の夏休みに書いた。
近所の野良猫「キキ」の産んだ子猫がいなくなったのをきっかけに、殺処分のことを知った。
処分の現状を伝える動画などをネットで見たところ、映し出された「処分費一匹78円」の文字に言葉を失った。
子猫を捜しているかのようなキキのかれた声に、眠れなくなった。
思いを書き、市内小中学生の作文大会で発表すると最優秀賞に。
地元で野良猫の保護活動をする市民団体がブログで紹介し「少女の悲しみに心が痛む」「無責任な大人たちが読むべきだ」と反響が広がった。
豊橋市の漫画家鈴尾粥(かゆ)さん(30)が昨夏、漫画にしてインターネットで発表すると、東京都在住のライター戸塚真琴さん(28)や写真家、デザイナーらの目に留まり、ボランティアのプロジェクトが始まった。
インターネットを通じて不特定多数に事業資金を募る「クラウドファンディング」で印刷費を集め、命の大切さを訴える絵本や啓発パンフレット、ポスターを四月に完成させる。
まずは豊橋市の小中学校に寄贈し、全国に広めていく。
戸塚さんは「幼いころ、捨てられた猫や犬を救えなかった経験がある人も多く、作文に心を揺さぶられる。命を捨てないよう考える一助になれば」と話す。
千華さんの母泰代さん(47)は作文をきっかけに、野良猫に不妊手術をして世話をする「地域猫」活動を近所の人たちと始めた。
千華さんは「作文でたくさんの人が命について考えてくれている。一匹でも多く救えたら、うれしい」と話す。
クラウドファンディングは「78円の命プロジェクト」でインターネット検索。
3月31日まで。
「命の価値が78円」 原文
作文の内容は谷山さんが小学6年生の時に綴ったもので、近所の野良猫「キキ」の産んだ子猫がいなくなったことをきっかけに殺処分のことを知り、インターネットで調べたところ、「動物の処分1匹につき78円」という文字を目にして胸が張り裂けそうになった、というもの。
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近所に捨てネコがいる。
そのネコは目がくりっとしていて、しっぽがくるっと曲がっている。
かわいい声をあげていつも私についてくる。
真っ黒なネコだったので、魔女の宅急便から『キキ』と勝手に名付けてかわいがった。
人なつっこい性格からいつの間にか近所の人気者になっていった。
子ネコだったキキも2年たった頃にうれしい出来事があった。
赤ちゃんを産んだのだ。
でもキキは捨てネコだったので、行き場所のない子ネコたちを近所の鈴木さんが預かってくれた。
毎日のように子ネコを見に行って、まるで自分の飼いネコのようにかわいがった。
ある日、突然子ネコの姿が見えなくなった。
そこで鈴木さんに尋ねてみると、「○○センターに連れて行ったよ」と、うつむきながら言った。
私はうまく聞き取れず、何を言っているか分からなかったが、たぶん新しい飼い主が見つかる所に連れて行って幸せに暮らせるんだなと思った。
次の日、学校でこのことを友達に話したら「保健所だろ?それ殺されちゃうよ」といった。
私はむきになって言い返した。
「そんなはずない。絶対幸せになってるよ」
殺されちゃうという言葉がみょうに心にひっかかり、授業中も保健所の事で頭がいっぱいだった。
走って家に帰ると、急いでパソコンの前に座った。
『保健所』で検索するとそこには想像もできないざんこくなことがたくさんのっていた。
飼い主から見捨てられた動物は日付ごとにおりに入れられ、そこで3日の間、飼い主をひたすら待ち続けるのだ。
そして飼い主が見つからなかった時には、死が待っている。
10匹単位で小さな穴に押し込められ、二酸化炭素が送り込まれる。数分もがき、苦しみ、死んだ後はごみのようにすぐに焼かれてしまうのだ。
動物の処分1匹につき78円。
動物の命の価値がたったの78円でしかないように思えて胸が張りさけそうになった。
そして、とても怖くなった。
残念ながら、友達の話は本当だった。調べなければ良かったと後悔した。
現実には年間20万匹以上の動物がこんなにも悲しい運命にある事を知り、さらに大きなショックを受けた。
動物とはいえ、人間がかけがえのない命を勝手にうばってしまってもいいのだろうか。
もちろん人間にも、どうしても動物を育てられない理由があるのは分かっている。
一体どうすればいいのか分からなくなった。
キキがずっと鳴いている。
大きな声で鳴いている。
いなくなった赤ちゃんを探しているのだろうか。
鳴き叫ぶその声を聞くたびに、パソコンで見た映像が頭に浮かび、いてもたってもいられなくなり眠れない夜が続いた。
キキのかわいい声もいつの間にかガラガラ声に変わり、切なくなった。
言葉が分かるなら話をしたい。
私はキキをぎゅっと抱きしめた。
最近キキの姿を見かけなくなった。
もしかしてキキも保健所に連れて行かれたのかと一瞬ひやっとした。
それから1週間後、おなかに包帯を巻いたキキを見かけた。
鈴木さんがこれから赤ちゃんを産めない体に手術をしてくれたのだ。
私は心から感謝した。
この先キキも赤ちゃんも捨てられずにすむという安心した気持ちと、鈴木さん家のネコになってしまったんだというさみしい気持ちとで複雑だった。
正直、とてもうらやましかった。
命を守るのは私が考えるほど簡単なことではない。
かわいいと思うだけでは動物は育てられない。
生き物を飼うということは1つの命にきちんと責任を持つことだ。
おもちゃのように捨ててはいけない。
だから、ちゃんと最期まで育ててやれるという自信がなければ飼ってはいけない事を学んだ。
今も近所には何匹かの捨てネコがいる。
私はこのネコたちをかわいがってもいいのかどうか、ずっと悩んでいる。
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