がんばれ 災害救助犬
2016/1/17 中日新聞(ジュニアのページ)
災害救助犬(さいがいきゅうじょけん)を目指(めざ)す「じゃがいも」と、訓練士(くんれんし)の上村智恵子(うえむらちえこ)さん。
お互(たが)いの信頼関係(しんらいかんけい)を深(ふか)めようと、24時間一緒(いっしょ)に生活しています=岐阜(ぎふ)市内で
災害現場(さいがいげんば)で救助活動(きゅうじょかつどう)をする犬を「災害救助犬」といいます。
優(すぐ)れた嗅覚(きゅうかく)を生かして、がれきの中から人を捜(さが)します。
阪神大震災(はんしんだいしんさい)からきょうで21年。
救助犬について調(しら)べてみました。
(長田真由美(おさだまゆみ))
〔1〕挑戦する
真(ま)っ黒な瞳(ひとみ)に、真っ黒な毛。岐阜(ぎふ)市にあるNPO法人(エヌピーオーほうじん)「日本動物介護(どうぶつかいご)センター」を訪(たず)ねると、4歳(さい)のじゃがいもがしっぽを振(ふ)りながら迎(むか)えてくれました。
「じゃがいもは、災害救助犬(さいがいきゅうじょけん)を目指(めざ)して頑張(がんば)っている犬です」。
センター理事長(りじちょう)の山口常夫(やまぐちつねお)さん(64)が教えてくれました。
救助犬は、地震(じしん)や台風などが起(お)きた現場(げんば)で、がれきや土砂(どしゃ)に埋(う)まった人を捜(さが)します。
犬の種類(しゅるい)はさまざまで、じゃがいもは雑種(ざっしゅ)です。
大きな災害だけでなく、地元の山で行方不明(ゆくえふめい)になった人の捜索(そうさく)を依頼(いらい)されることもあります。
犬の嗅覚(きゅうかく)は、人間の100万倍(ばい)から1億(おく)倍も鋭(するど)いそう。
警察(けいさつ)犬も嗅覚を生かして犯罪捜査(はんざいそうさ)に協力(きょうりょく)していますね。
じゃがいもは、東日本大震災の3カ月後、被災(ひさい)地の福島県飯舘(ふくしまけんいいたて)村で生まれました。
でも、人間が生きるだけで精(せい)いっぱいの時期(じき)。
飼(か)い主(ぬし)も悩(なや)み、つてをたどって岐阜で新しい飼い主を探(さが)すことになったのです。
きょうだいの犬はもらわれていきましたが、じゃがいもだけ残(のこ)りました。
もともと、救助犬を育(そだ)てていた山口さん。
「被災地生まれのじゃがいもが救助犬を目指すことは、飯舘村の人たちにとって励(はげ)みになるかも」と考えました。
じゃがいもの挑戦(ちょうせん)が始(はじ)まります。
〔2〕訓練する
救助犬(きゅうじょけん)になるには、どんな訓練(くんれん)が必要(ひつよう)でしょうか。
「まず、人に言われたように行動(こうどう)する『服従(ふくじゅう)』です」と山口(やまぐち)さん。
「待(ま)て」「ふせ」「立て」などの言葉(ことば)に合わせて動(うご)けなければいけません。
災害現場(さいがいげんば)は多くの人が駆(か)けつけて混乱(こんらん)しています。
その中で救助犬は、訓練士(し)の指示(しじ)に従(したが)って、行動しなければならないからです。
続(つづ)いて「捜索(そうさく)」。小屋(こや)や箱(はこ)に隠(かく)れた人を捜(さが)します。
「人を見つけたら、ほえて知らせる」を繰(く)り返(かえ)し練習(れんしゅう)するのです。
災害現場では消防車(しょうぼうしゃ)や救急(きゅうきゅう)車のサイレンが鳴り、煙(けむり)が出ていることも。訓練でも同じように、音やけむりを出すことがあります。
こうした訓練は、試験(しけん)に合格(ごうかく)してからも続けます。
じゃがいもは早くから、救助犬になるための認定(にんてい)試験を受(う)けています。
でもこの冬、8度目(どめ)の試験を受けましたが不合格(ふごうかく)でした。
「性格(せいかく)に気弱なところがあるんです」と山口さん。
もともと知らない雰囲気(ふんいき)の場所(ばしょ)は落(お)ち着(つ)かない傾向(けいこう)にありました。
そこで、車や人通りの多いコンビニの近く、繁華街(はんかがい)に連(つ)れて行き、自然(しぜん)となれるのを待つなど、じゃがいもに合わせた訓練もしてきました。
「犬に厳(きび)しい訓練をするのはかわいそう」と言われることもあるそうです。
「でもじゃがいもにとっては、大好(だいす)きな人の役(やく)に立つことはうれしいことで、生きがいでもあります」と山口さん。
「被災(ひさい)地の皆(みな)さんから、じゃがいもが頑張(がんば)っている姿(すがた)に勇気(ゆうき)づけられると聞くと、また一緒(いっしょ)に頑張ろうという気持(きも)ちがわいてきます」と話します。
〔3〕出動する
救助犬(きゅうじょけん)を育成(いくせい)する団体(だんたい)は、全国各地(ぜんこくかくち)にあります。
こうした団体が認定試験(にんていしけん)をして、合格(ごうかく)した犬が救助犬として活動(かつどう)しています。
そのうちの1つ、一般社団法人(いっぱんしゃだんほうじん)「ジャパンケネルクラブ」。
阪神大震災(はんしんだいしんさい)へ派遣(はけん)するなど、早くから育成に関(かか)わってきました。昨年(さくねん)4月現在(げんざい)で、出動(しゅつどう)できる犬は181頭。
「国際畜犬連盟(こくさいちくけんれんめい)」という国際組織(そしき)に加盟(かめい)し、国際標準(ひょうじゅん)の試験を実施(じっし)しています。
「自治体(じちたい)などから要請(ようせい)があれば、近くにいる訓練士(くんれんし)に連絡(れんらく)し、救助犬を派遣します」。
専務理事(せんむりじ)の吉田稔(よしだみのる)さん(62)が話します。
東日本大震災では、クラブに登録(とうろく)する43頭が出動しました。
単独(たんどく)で動(うご)くことはなく、警察(けいさつ)や消防(しょうぼう)と連携(れんけい)。
「体力や集中力(しゅうちゅうりょく)が必要(ひつよう)なので、10~15分くらい捜索(そうさく)したら、別(べつ)の犬に交代(こうたい)します」。
最近(さいきん)は、素早(すばや)く出動できるように、自治体と協定(きょうてい)を結(むす)ぶこともあります。
中部(ちゅうぶ)エリアでも、三重県(みえけん)や岐阜(ぎふ)県と締結(ていけつ)しています。
育成にはお金がかかります。
ただ、災害(さいがい)救助はボランティア。
出動したからお金がもらえるわけではありません。
被災(ひさい)地でも基本的(きほんてき)に、泊(と)まる場所(ばしょ)や食料(しょくりょう)は自分で調達(ちょうたつ)します。
「でも社会的な使命(しめい)と思い、長年続(つづ)けています」と吉田さん。
救助犬の活動を、私(わたし)たちも応援(おうえん)したいですね。