猫を1匹も殺さない千代田区 民間と役所が協力し取り組み
2015年12月27日(日) sippo(朝日新聞)
2013年度は全国で10万匹近く殺処分
皇居や官庁街、大手町、神田などを抱える東京の中心・千代田区。
ここでは行政とボランティアが協力して、野良猫を不妊・去勢して地域で世話する「TNR」や、家庭への譲渡までつなげる「TNTA」の活動をしている。
そうした活動の結果、2011年度から猫の殺処分ゼロを続けている。
庭園で暮らす「地域猫」。耳先がカットされている
耳先カットのない猫を見かけたとの情報を受け、捕獲器を設置する保健所職員とちよだニャンとなる会
2015年10月4日に千代田区役所で開かれた「猫の譲渡会」
2013年度に全国で殺処分された猫は99,671匹(環境省統計)。
東京都の動物愛護相談センターでも、1,049匹が殺処分された(2014年度)。
その中で、千代田区は殺処分ゼロ。
同センター業務係長の栗原八千代さん(獣医師)は、千代田区について「センターと情報共有しつつ、区内で猫の相談に対応している。その成果が如実に表れていると思う」と話す。
飼い主のいない猫は、全国各地で苦情やトラブルの原因になっている。
かつては千代田区でも、保健所などに苦情が数多く寄せられていた。
しかし、ここ数年で苦情はほとんどなくなったという。
「その代わり、『猫を助けて』といった動物愛護にかんする相談が増えている」と千代田保健所地域保健課の藤本英介さんは話す。
千代田区では、主に3つの取り組みが行われている。
TNRの先にTNTA、譲渡まで
ひとつは「TNR」(Trap捕獲/Neuter不妊・去勢手術 /Return元の場所に戻す)だ。
千代田区は、2000年度から飼い主のいない猫の去勢・不妊手術費用の一部を助成している。
金額の上限は、雄の去勢手術が1匹17,000円、雌の不妊手術が20,000円、妊娠中の場合は25,000円。
行政とボランティア団体「一般社団法人ちよだニャンとなる会」が連携・協力して、飼い主のいない猫に去勢・不妊手術を行い、「地域猫」として元の場所に戻している。
猫たちに食べ物を与えるなど世話をするのは、それぞれの地域の住民や在勤者だ。
もうひとつは、「TNTA」(Trap捕獲/Neuter不妊・去勢手術/Tame人に慣らす/Adopt譲渡する)。
千代田区では、東京駅周辺など各地で大規模再開発が進み、猫の居場所が狭められつつある。
車にはねられることも少なくない。
そのため、千代田区とちよだニャンとなる会は連携して、子猫と、人に慣れている成猫、危険性の高い場所にいる成猫などをできるだけ保護して一般に譲渡している。
ちよだニャンとなる会がインターネットのSNSなどで飼い主を募集するほか、年5、6回、千代田区とちよだニャンとなる会が「猫の譲渡会」を共同で開き、里親を見つけている。
譲渡数は年間およそ100匹に上る。
ちよだニャンとなる会の代表理事・古川尚美さんは、「子猫の譲渡を希望する人が多いが、ぜひ成猫を家庭に迎えてほしい。成猫は、性格や行動がわかりやすく、家庭での暮らしが想像つきやすいという魅力もある」
残るひとつの活動が、傷病の猫のレスキューだ。
「猫が倒れている」などの相談が保健所に寄せられると、保健所はちよだニャンとなる会に連絡。
ちよだニャンとなる会は動物病院に受け入れを依頼して、保健所に搬送先を伝える。
保健所は猫を動物病院に搬送。ちよだニャンとなる会は、獣医師と症状や治療について話し合い、譲渡をめざす。
猫の譲渡を推進しようと、千代田区では、2014年度から譲渡する猫のウイルス検査、駆虫、ワクチン接種の医療処置費用として、1匹につき6,000円まで区から助成される。
2015年度からは、区と動物病院が協定を結び、譲渡までの動物病院の入院費が1匹につき40,000円まで助成されるようになった。
こうした取り組みが効果を生み、2011年以降、千代田区から東京都の動物愛護相談センターに引き取られ、殺処分された猫はいない。
石川雅己・千代田区長は「殺処分ゼロは、千代田区のブランド力を上げる要素のひとつ。ボランティアとの協働で、手術と譲渡をさらに進めていきたい」と話している。
(フリージャーナリスト・香取章子)
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