(かぞくの肖像)俳優・上川隆也さん
ノワール 運命のキス、僕は落とされた
2015年12月24日 朝日新聞
俳優の上川隆也さんと愛犬のノワール
ノワールと出会ったのは、6年前。
東京都内の河川敷で開かれた保護犬の譲渡会でした。
保護犬とは施設に引き取られた犬のことです。
家内が犬を保護する活動に興味を持っていたんです。
僕も家内もそれぞれ飼いたい犬のイメージがあり、すりあわせていた段階だったので、「今日は見学だけ。引き取るのはやめようね」と念押ししていました。
50匹ほどの犬がいて、1匹ずつ触れながら見ていました。
そのうちの1匹、黒い犬にあいさつしようとしゃがんだら、トトトと寄ってきて、僕の口元にキスしてきたんです。
その瞬間、僕は落とされてしまったんですね。
おずおずと家内に言いました。
「やっぱり、さっきの子を引き取りたいんだけどいいかな?」と。
その日のうちに申請し、審査を経て、1週間後に我が家にやって来ました。
僕の家には、物心ついたときから犬がいました。
なぜか雑種が多かった。
ノワールがどんな環境にいたかはわかりません。
のびのびとして、人間に垣根をまったくつくらない、すべてを包み込んでくれる癒やしの存在です。
保護される犬や猫、助けようとする団体の姿を描いた映画「犬に名前をつける日」(全国で順次公開中)に出演しました。
犬や猫が捨てられ続ける現実を前に、何ができるかはわからない。
僕はただ1匹を引き取っただけです。
でも、演じることで大勢の人に現状を伝えられます。
何を感じていただけるかは、映画をご覧になった方々にゆだねたい。
犬や猫を取り巻く現実を、多くの方に知ってもらうきっかけになればと思っています。
(文・新宅あゆみ 写真・西田裕樹)
■かみかわ・たかや
1965年生まれ、東京都出身。95年のテレビドラマ「大地の子」で主役を演じ、映画でも活躍。来年1月17日放送予定のテレビ朝日系ドラマ「検事の死命」に主演。
■ノワール
雑種のメス。雰囲気に合っているので、「黒」を意味するフランス語のノワールと名付けた。
映画「犬に名前をつける日」、過去に当ブログで紹介してきました。
早く観たいです。
予告編 http://www.inu-namae.com/
2010年秋、愛犬のゴールデンレトリーバーを重い病気で亡くした監督、山田あかねが、先輩の映画監督に促され「犬の命」をテーマにした映画を撮ろうと思ったことがこの映画の始まり。
動物愛護センターから犬や猫を救い出している人たちや、東北の震災で置き去りにされた動物を保護している人たちの活動を追いかけ始めた彼女は、4年にわたり、取材を続け、撮りためた映像は200時間を超えた。
それらの映像から、福島の原発20キロ圏内で救い出された1頭の犬「むっちゃん」に焦点をあてたドキュメンタリー「むっちゃんの幸せ」が生まれ、テレビで放送されると大反響となった。
むっちゃんの声を担当したのが小林聡美だった。
映像に映し出される保護犬たちと彼らを救おうとする人々に感銘を受けた小林は、山田が準備をしていた本作に参加することになった。
実際に保護施設に行き、台本もないまま、取材者を演じるという難しい試みに挑戦している。
小林が参加したことにより、監督の山田自らが4年間取材してきた、200時間を超えるドキュメンタリー映像に、取材する側=久野かなみ(小林聡美)を主人公としたドラマが加わり、新しいタイプのドキュメンタリードラマとなった。
ドキュメンタリーとドラマが融合することで犬と猫の命の現場でゆれる取材者の気持ちをよりリアルに描き出している。
かなみの元夫・前田役は、自身も保護犬の里親である俳優・上川隆也が愛犬とともに好演している。
また、失意のかなみを励ます先輩として、1964年に、日紡貝塚バレーボールチームの映画『挑戦』をカンヌ国際映画祭に出品し、短編部門で日本初のグランプリを受賞した映画監督、渋谷昶子が出演。
山田に「悲しんでばかりいないで、犬のために映画を撮りなさい」と勧めた渋谷が本人として登場しているのにも注目だ。
構成は、大好評を博した番組「喜びは創りだすもの ~ターシャ・テューダー 四季の庭~」(NHK)の演出で知られる、松谷光絵。
山田あかねとドキュメンタリーを作るのは本作で3作目になる。
つじあやのが手がけるやさしい劇中音楽と、メンバーが動物愛護チャリティーイベントにも参加している、ウルフルズによる主題歌「泣けてくる」が物語を彩る。
“犬のためにできることを何かしたい”という思いでつながった出演者・スタッフが集結した。
いま自分ができる「何か」を模索している人すべてに一筋の光を照らし出す、真実の物語がここから始まる。