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ボランティア犬「もか吉」

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野良犬で人嫌いだった「もか吉」ボランティア犬に 成長物語が書籍化

 2015年12月6日(日) 朝日新聞


介護施設への訪問セラピー中、通所者のひざの上でくつろぐ「もか吉」と飼い主の吉増江梨子さん(左)=和歌山市平尾

介護施設でお年寄りとまったりしたり、防犯パトロールで地域の安全を見守ったり。
和歌山のボランティア犬「もか吉(きち)」(オス、4歳)の生い立ちが、1冊の本になった。

拾われたころは病弱で人嫌いだった子犬が、地域で活躍するようになるまでの物語を、ジャーナリストの江川紹子さん(57)が、温かみのある文章でつづっている。


防犯パトロール犬の黄色いバンダナを巻いた「もか吉」=和歌山市太田

野良犬のもか吉は、母犬や2匹のきょうだいと暮らしていたが、母犬が出かけている間は街中の側溝に隠れて過ごしていた。
ところがある日、母犬が帰ってこなくなって約1週間放置され、弱って逃げることもできずにいたところを、2011年6月、元動物病院看護師の吉増(よします)江梨子さん(35)=和歌山市福島=の知人が見つけ、連絡を受けた吉増さんが保護した。
当時は生後2カ月ほど。
全身に付いたダニやノミに血を吸われ、抱き上げた吉増さんの手を1回かむとぐったりしてしまうほどの貧血状態だった。
「駆除薬が効くのを待っていたら死んでしまう」。
吉増さんが自宅で一匹ずつピンセットで取り除き、一命を取り留めた。
吉増さんの長女が、かつて飼おうとしていた猫につけようと思っていた名前「もか」にちなんで、もか吉と名づけられた。
その後もドッグフードは受け付けず、食物アレルギーで米や芋しか食べられなかったため、毎日芋がゆを炊いたり、散歩中にすれ違う人にお願いして、おやつをあげてもらって人に慣れさせたりした。
動物病院が開設する、日中に飼い主から預けられ、しつけの先生がいる「犬の幼稚園」にも通って、介抱を続けた。
半年後には、動物と触れ合うことで心を癒やす「セラピー」を施すため、先生と一緒に老人ホームを訪ねられるほどおっとりとした性格を取り戻した。
「どこに行っても大丈夫」と先生からお墨付きを得ると、県と市が小学校で開く動物愛護教室に参加するための審査を12年7月に受け、ボランティア犬としてデビュー。
今では、目印の黄色いバンダナを首にまき、散歩中に登下校中の小学生を見守る防犯パトロールに毎日出動する。
週に4回は高齢者の福祉施設のセラピーや小学校の愛護教室にも出かけ、大忙しだ。

今年11月中旬、もか吉と吉増さんが、訪問セラピーのため、市内の介護施設に出かけるのに記者が同行した。
車いすに座った90代の女性は、もか吉をひざに乗せてもらい、にっこり。
「16キロもあるから重いでしょ?」と吉増さんが声をかけても、「かまわんよ」と優しく抱き寄せて離さない。
もか吉もリラックスした様子で女性の手をぺろり。
「じゃあ、もっと抱っこしてもらえるように、体力つけてもらわんとね」と吉増さんが笑うと、女性も「うん、うん」と目を細めてうなずいていた。
こうした活動を13年10月にあった日本動物病院協会の活動報告会で知った江川さんが、本の出版を提案。
今年5月から本格的な取材を始め、活動現場や吉増さんともか吉が一緒によく行く地元の居酒屋も訪れた。
「働く犬は色々いるけど、特殊技能を持たない犬が家族から地域へ活動を広げ、地域のワンちゃんとして生きていることに、人間と動物の新しい関わり方があるように感じた」と江川さん。
「もかちゃんの活動を知ってもらうことで地域と動物の関わり方を考えるヒントになれば」と話す。
吉増さんは「ワンちゃんを飼っている人たちに読んでもらい、どんどん地域に参加する犬と飼い主が増えてくれたら」と期待する。
「もか吉、ボランティア犬になる。」(集英社インターナショナル)は、136ページ、1400円(税抜き)。


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