殺生戒め野良犬天国 5万匹看病 仏女性にメダル
2015/05/25 朝日新聞・朝日新聞デジタル|更新|
ブータンの首都ティンプー郊外に、国民から「ロチアマ(犬の母)」と親しみを込めて呼ばれるフランス人女性がいる。
マリアン・ギィエさん(48)は病気の動物を引き取り、今も広い自宅敷地内で約160匹の犬、12匹の猫、20匹の猿、2匹のヘビを種類や症状ごとに小屋に分けて世話をする。
記者が門をくぐるとたくさんの犬がじゃれついてきて身動きできなくなった。
だが、ギィエさんが現れると犬たちは彼女の周りに尻尾を振って集まった。
「この子は首相から預かっているの」と群れの中から赤毛の小型犬を抱きあげた。
ブータンは驚くほど野良犬が多い。
ティンプーの街角のいたる所で犬が気持ち良さそうにひなたぼっこをしている。
住民が家族のようにエサを与える。
病気の動物たちと暮らして面倒を見るマリアン・ギィエさん=首都ティンプー
多くの人がチベット系仏教を信仰し、無駄な殺生を戒める。
日本など先進国のように野良犬が保健所で殺処分されたり、シェルターに入れられたりすることはないが、皮膚病などを患う野良犬も少なくない。
ギィエさんは1997年、エンジニアの夫の転勤でブータンに来た。
「苦しんでいる人間、動物、植物を放っておけない性質なの。悲しみを超えるために動こうと思った」。
花が落ちていれば花瓶に入れ、病気や傷ついた動物たちを引き取るようになった。
一日はブータン人のスタッフとの小屋の掃除やエサやりで始まる。
ホテルにエサの残飯をほぼ毎日もらいに行く。
獣医師の資格はないが、手術も施す。
急病の動物が夜中に運び込まれても「精神的に満足できることだから」と苦にしない。
活動資金の大半は夫の給料と、多くの人からの金品の寄付だ。
「病院をつくったり大きな援助をもらったりはしない。動物と一緒に苦労することで、人の気持ちを動かしたい」
獣医師の免許を取るには国外で数年間学ばなければならず、面倒を見る動物たちを放っておけない。
だが手術の腕前は誰もが認める。
これまでに犬など約5万匹を看病してきた功績は、GNH(国民総幸福)の精神に合致するとして、2008年には首相からメダルを授与された。
母代わりに子猫に乳を与える犬=チラン県マルバセ村
「ブータンの犬たちは幸せ。国民と同じ」。
動物を「生けるもの」として敬う精神に共感し、仏教徒にもなった。
ギィエさん夫妻に子はいないが、「子どもが犬だっていいと思っているわ」と穏やかに笑った。
(小池寛木)
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