私の好きな場所:愛犬も一緒、自分の「原点」
料理研究家・藤野真紀子さんのキッチン
2015年04月05日 毎日新聞
「犬だらけだけど大丈夫?」。
精力的に動物愛護活動に取り組む料理研究家の藤野真紀子さん(65)に取材を申し込んだ際、聞かれた。
「身の丈にあった暮らし」をモットーにする横浜市内の自宅に伺うと、愛犬5匹とともに迎えてくれた。
淡い花柄のテーブルクロスの上で、お手製のチョコチップクッキーが盛られた真っ白なケーキスタンドが存在感を放つ。
取り皿にはショッキングピンクのポップなナプキンが添えられていた。
「春らしさ」が演出されたダイニングテーブルに心が浮き立つ。
「お茶をどうぞ」と藤野さん。
2011年、東京都内の一軒家を借り、主宰していたお菓子と料理の教室の場を、自宅に移した。
「人生の節目節目で自分のキャパシティーを認め、変えていく。収入と体力面を考えた結果」という。
東日本大震災もきっかけとなった。
「できるだけ家族の近くにいたいと思った」と明かす。
藤野さんにとって欠かせない場所こそ「キッチン」だ。
「仕事場であり、食べることが好きで自分好みの味を求めてきた私の原点」と話す。
「教室の生徒さんが喜ぶかな」と、目先の変わった調理器具や食器類が次々に増えていく。
「片付けようがなく、出しっぱなしでも何となく絵になるように」を心がける。
ポイントは配色を茶・黒・白・シルバーの4色に抑え、ごちゃごちゃ感をなくすこと。
袋に入った調味料などは瓶に入れ替える一手間も忘れない。
室内の壁や家具も白やベージュなど限られた色でシンプルに保つ。
「主役のダイニングテーブルが映えるために、舞台装置は控えめであるべきだと思います」と語る。
レシピ作りもこのテーブルで励む。
キッチンのそばにあり、いつでもお茶が飲め、お気に入りのお菓子を作り、出来立てを食べられるぜいたくを味わえるからだ。
「その分、仕事がはかどらないの」と苦笑する。
幼少の頃から、犬とともに生活してきた。
衆院議員時代に動物愛護センターを視察し、「遅ればせながら飼い主のいない犬や猫の置かれた殺処分の現状を知り、一匹でも命を救いたいと思った」と振り返る。
犬の保護活動を始め、今飼っている5匹のうち2匹も保護犬だ。
老犬を引き取り、介護もした。
犬たちが主に過ごす1階部分は、フローリングだった床をビニール素材で覆った。
脚の負担軽減と、粗相をした場合も掃除しやすく清潔感を保てるからだ。
月6日、教室を開く際には日常の生活感を消すため、リビングから犬用ベッドやおもちゃを片付ける。
犬たちは普段と変わらず気ままに過ごす。
3本脚の保護犬マイリーは引き取った当初は人見知りだったが、今では人なつっこい。
「『次飼うときは保護犬を』と言ってくれる生徒さんもいる」とうれしそうに笑う。
犬たちの存在は夫婦の会話にも一役買っている。
元参院議員の夫公孝さん(66)は犬好きではなかったが、「今では散歩は主人の担当。『可愛いね』と犬たちが話題だ」と話す。
1階は藤野さんのスペースで、2階は公孝さんが使う。
「お互いのスペースの使い方には口出ししない。1階には色の統一感のない雑貨なども持ち込ませない」という。
自由度を保つことで、ストレスをなくす。
1日の終わりはリビングのソファで犬たちとくつろぐ。
「ひたむきな愛情で接し、幸福感を与えてくれる」と藤野さん。
年齢とともに疲れは取れにくくなった。
「今は犬たちを守ることが働く意味となっている」と語る。
「疲れているときこそ、食べることを投げやりにせず、海の物、山の物、野菜をしっかり食べ、気持ちを豊かにする」という。
藤野さんのパワーの源が分かった気がした。
【池乗有衣、写真・内藤絵美】
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■人物略歴
藤野真紀子(ふじのまきこ)
1949年、東京都生まれ。聖心女子大卒。夫の赴任に伴い、ニューヨークやパリに渡り、お菓子作りと料理を学ぶ。帰国後、「マキコフーズ・ステュディオ」を主宰。2005年から衆院議員を1期務める。
20年の東京五輪までに犬猫の殺処分ゼロを目指す「TOKYO ZEROキャンペーン」に携わる。
すべてのペットが幸せになれる東京へ
TOKYO ZEROキャンペーン ホームページ http://tokyozero.jp/