人気観光地・石垣島が“猫捨て島”に?
5年で500匹超が遺棄「島人として恥ずかしい」
2023年6月23日(金)
青い空と海、自然豊かな沖縄県・石垣島は、日本でも有数の観光地だ。
そんな美しい島に、去年1年で176匹、5年で500匹超もの猫が捨てられた緑地公園はある。
観光で訪れる人は「猫がいっぱいいる公園」「触れ合えてカワイイ」と好意的に受け止めているが、その実情を知ってほしいと現地ボランティアは嘆く。
かつては大規模な保護活動も行われたこの場所で、一体なにが起こっているのか。
石垣島のある公園、多くの猫が暮らしているが…(写真提供:Cat nursery Larimar)
■去年1年で176匹超、台風の土砂降りの中に捨てられる猫たち
「去年だけで、176匹もの猫が公園に捨てられました。私が活動し始めた5年前から数えると、500匹は超えます」
そう訴えるのは、石垣島の保護団体『Cat nursery Larimar』(以下ラリマー)でボランティア活動を行う、平地敦子さんだ。
現在、4~5人のボランティアたちでTNR(飼い主のいない猫を捕獲し、不妊・去勢手術を行い、元の場所に戻す)を実施している。
当の緑地公園の猫たちの手術は済んだが、次は近隣地区でも活動しているそうだ。
「この公園はとくに去年はひどい状態で、5月には30匹もの猫が捨てられました。飼い猫に不妊・去勢術を施さず、でも子猫は育てられないと、親子で捨てられてしまいます。しかも、夜中や台風の時など、人目に付かない時を狙って。ただ、公園には監視カメラがないので、誰も検挙されない状況です。ケガをして、妊娠した母猫を土砂降りの中に捨てる…こんなひどい話はありません」
この公園に遺棄される猫の数は、年間で100匹前後。
最も多かった年が2022年の1年間で176匹、2番目に多かった年は2018年で108匹。
コロナ禍で公園の一般立ち入りが規制されていた2021年は少なく、50匹以下だったそうだ。
■“猫島”として楽しむ観光客、「猫の最後はどうなってしまうのか、真実を知ってほしい」
こうして公園に捨てられた猫たちは、ボランティアがエサや薬をあげて世話しているものの、すべてに手が回るわけではない。
人前に出てこない猫もいれば、ケガが化膿してしまう猫もいる。
口内炎や猫エイズを患う猫も多いという。
今年1月にもある1匹の猫が捨てられたが、その猫が生きられたのは2ヵ月と10日。
飼い主からしてみれば、「ボランティアがエサをやっているから大丈夫だろう」と捨てていったのかもしれないが、猫は病気を発症し、病院で処置を受けるものの手遅れ。あっという間にこの世を去ってしまった。
「そうして亡くなる猫があまりにも多く、墓地すら作れない状況です。観光客向けのブログなどでは、『猫島』として紹介されることもありますが、猫がカワイイとかキレイな場所だとか、それはあくまで断片的な部分です。猫たちの生活がどれだけ過酷か、最後はどうなってしまうのか、真実を知ってほしい」
■ボランティアと市が協力した大規模な保護活動、10余年が経って振り出しに…
こんなにもたくさんの猫が遺棄されている(写真提供:Cat nursery Larimar)
だが、このような状況を行政側も放ってきたわけではない。
2012年、石垣市は「南の島猫アイランド事業」として、公益財団法人『どうぶつ基金』、地元ボランティア協力のもと、大規模な一斉TNRを行った。
これにより、公園その他の171匹の猫たちが不妊・去勢手術を受け、ワクチンや虫の駆除などの処置がなされた。
「この大規模TNRも、石垣市長とボランティア団体により、実現したものです。ただ、10年少し経った今、また状況は戻りつつあると言えます。今も市長さんがいろいろと動いてくださって、この公園を保護指定区域内にも認めていただきました。でも、なかなか猫にまで手が回らない部分はあるし、私たちがどんなにTNRを行っても、また捨てに来る人が後を絶たないのです。大規模TNRは新聞にも載り、多くの人の目に入ったと思うのですが…」
石垣市は、ふるさと納税の支援金を犬猫の不妊・去勢手術補助の助成金にしている、全国でも珍しい地域であるという。
ただ、このように動物に優しい自治体で、猫を捨てにくるのはおそらく島民と思われるそうだ。
平地さんは、「私も島人(しまんちゅ)ですが、島の意識の低さが恥ずかしい」と嘆く。
「島には外飼いの文化が残っていて、多くの人は気にしていません。ただ、外は危険がいっぱいであることは確か。内地と比べて、動物愛護の意識は30年は遅れているのではないでしょうか」
■「命と暮らしたいなら責任を」、動物愛護の意識を子どもたちに
たしかに東京など大都市圏では、外で暮らす猫を見る機会は年々減っている。
「飼育動物を遺棄することは犯罪」といった、動物愛護の意識も浸透してきているように思う。
だが、地方や離島では、まだまだその考えは一般的とまでは言えない。
「おじい、おばあ、親の中には『いらない猫は捨ててしまえ』『川に流せ』という人も。子どもはそれを真似してしまうので、小さいころから教育として啓蒙してほしいと思います。お伝えしたいのはシンプルに、猫に限らず、命と暮らしたいなら責任を持ってほしいということ。捨てるとか手術しないとか、飼い主のそうした行動で動物たちの末路はどうなるのか。そこに少しでも意識を向けてほしいです」
現在、ラリマーをはじめとした現地ボランティア、そして石垣市が協力し、公園やその付近のTNRは着々と進んでいるという。
また、東京の保護団体『ねこけん』なども、石垣島で保護された猫を空輸してシェルターで世話を続けている。
とはいえ、いまだ捨てる人が後を絶たないのであれば、その活動も水泡に帰してしまう。
大規模TNRから10余年、ボランティアや市の活動が少しでも実を結ぶことを願うばかりだ。
また、観光で島を訪れる人にとっても、決して無知でいてよい問題ではない。
“猫島”というと、のんびり暮らす猫たちがたくさんいて、観光したら楽しそう、触りたいというポジティブなイメージがあるだろうし、実際それを観光資源としているところもある。
だが、この美しい島の猫たちの過酷な現実を、直視するときなのではなかろうか。
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