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犬々ワンダーランド

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「育犬ノイローゼ」になる人も…
漫画家・まんきつが犬を飼う大変さを描いた理由

2023年7月1日(土)

家族やプライベートの仰天エピソードを描いたブログで注目を集め、『アル中ワンダーランド』『湯遊ワンダーランド』などの話題作を送り出してきた漫画家のまんきつさん。
現在、「週刊SPA!」で連載中の『犬々ワンダーランド』では、愛犬との暮らしを描いて新境地を開拓しています。


まんきつさん/撮影:星 亘

人が苦手で臆病なポテト(12歳・雑種・メス)と、人懐っこく怖いもの知らずの銀(3歳・黒柴・オス)。
性格が真逆な2匹とのほのぼのとした日々を、まんきつさんらしいユーモアを交えて描きながらも、犬を飼うことのシビアな現実にも切り込んでいます。
単行本第1巻が6月に発売されたのを記念したインタビューの前編では、犬漫画を連載するに至った経緯や、2匹のワンちゃんを家族に迎えてからの日々、犬を飼うことの大変さについて伺いました。

◆気功漫画がボツになってよかった
 ――雑誌「週刊SPA!」で『犬々ワンダーランド』の連載が始まったときは、まんきつさんらしからぬ……と言ったら失礼かもしれませんが、ずいぶんほのぼのしたテイストの漫画なんだな、と意外に思いました。連載が始まった経緯を教えてください。
まんきつ:
もともとは気功の体験漫画を書こうとしていたんです。
ただ、中にはうさんくさいものもあって、漫画にしたらまずいって話になったんですよ。
企画書を読んだ編集長に「これが世に出たら、まんきつさんの漫画家生命終わっちゃうよ」と言われて。

――確かに今のご時世、うかつに扱うと大炎上しそうなトピックです(笑)。
まんきつ:
だから本当にやらなくてよかったです。
その頃、たまたま犬との暮らしを漫画にしていくつかTwitterにアップしていたので、「じゃあ犬漫画はどうですか」という流れになったのがきっかけですね。

◆保護犬を引き取って知った、保護活動家の切実な思い

『犬々ワンダーランド』より

 ――12年前に家族に迎えたポテト(以下、ポテちゃん)は、「動物を飼いたい」と息子さんに言われて、保護犬だったのを引き取ってきたそうですね。
まんきつ:
昔からなぜか縁あって動物を拾ってくることが多くて。
「自分が面倒みないと保健所行きだろうな」と思うと、「だったら自分が引き取ったほうがいいんじゃないか」という気持ちになってしまうんですよ。
ただ、動物はやっぱり別れがつらくなることを知っているので、できれば飼いたくなかったんです。
子供の頃に実家で犬を飼っていたことはあるんですが、今から40年くらいも前のこと。
外飼いが主流だった昔と今では、飼い方のルールやしつけもぜんぜん違うので、今から飼うのは大変だろうな、と思っていました。

――ポテちゃんの保護主だった荻原さんに取材した回は、すごく考えさせられました。
まんきつ:
30年間、病院や餌の費用もすべて自腹で保護活動をされていて、猫ちゃんを住ませるために隣の空き家を購入しちゃうような方で。
不幸な犬猫や殺処分に心を痛めるあまり、「もし魔法が使えるなら、いっそのことこの世から動物を消したい」とまでおっしゃるんですよ。
犬や猫だけじゃなくて、すべての動物が少しでも酷い目に遭うのが耐えられないんだろうなと思いました。

◆銀ちゃんとの出会いはペットショップ。でも、生体販売への疑問も…

左から、銀とポテト(写真:まんきつさん提供)

――実際にワンちゃんを飼うようになって、ご自身の生活は変わりましたか?
まんきつ:
変わったなんてもんじゃないですね。
犬がいると、生活が全部犬中心になるんです。
ちょっと出かけても犬のことが気になっちゃって、「早く家に帰らなきゃ」と思ったり。
それに、犬ってびっくりするほど表情が豊かなんですよ。
ときどき人間と暮らしているような錯覚に陥ります。
ほんとうに「同居人」って感じですね。

――3年前に迎えた銀ちゃんは、ペットショップで購入されたそうですね。
まんきつ:
銀ちゃんはペットショップで見たとき、本当に一目惚れだったんですよ。
抱っこしたとき、自分の胸が張って母乳が出そうになるのがわかったんです。
以前、中国で猿の赤ちゃんを拾った老婆から母乳が出るようになった、という話を読んだことがあるんですけど、それに近い状態になったんだと思います。

――ペットショップで動物を買うことには批判もありますが、そこはどう思われますか。
まんきつ:
ペットショップで一目惚れなんて、一番叩かれるやつですよね……。
私も自分で買っておいてなんですが、もう絵に描いたような「抱っこしてみますか?」「はい」みたいな流れで。わかっていながら策略にはまってしまいました。
そこに対する負い目も少なからずあります。
ただ、調べれば調べるほど、生体販売への疑問が頭をよぎって。動物行政が「殺処分ゼロ」を実現できているのは、愛護団体が殺処分になる前の犬猫を行政の施設から引き取っているからなんです。
行政がボランティアに頼り過ぎて、負担がボランティアに集中してしまっているのが現状なんです。

◆犬も人間も社会性の動物

写真:現代ビジネス

――そんな銀ちゃんの噛み癖に手を焼いて、犬を訓練・教育する専門の学校「ミナクル」に預けたエピソードも印象的です。プロのトレーニング機関に預けてみてよかったですか?
まんきつ:
プロは本当にすごいです。
銀ちゃんはトイレトレーニングにもかなり苦戦したんですけど、「ミナクル」に預けたら2~3回通っただけで、1週間も経たないうちにできるようになったんです。
それからは絶対失敗しないですし。
どうやって教えているんだろうと思って取材もさせてもらいました。

――パピー(子犬)期のうちに社会性を身につけさせる「社会化」のトレーニングをしないと、成犬になって問題行動が多くなる、というのは考えさせられました。
まんきつ:
もともとは「ミナクル」の校長先生が大学生のとき、初めて迎えたワンちゃんが社会性を学ばないまま成犬になってしまって、人には懐かないし、吠えるし、噛むし……と大変な思いをしたらしくて。
犬にとっての社会化の大切さを身に染みて感じて、「ミナクル」を設立したそうです。

――“社会性の動物”という意味では私たち人間も身につまされるところがありますね。
まんきつ:
そう。
私みたいに人付き合いや集団行動が苦手な犬は大変だろうな、と思って。
私は犬だったら完全にポテちゃんタイプなので。

◆犬と暮らす覚悟や大変さも伝えたい

写真:現代ビジネス

――漫画家の沖田×華さんと桜壱バーゲンさん夫婦が登場する回では、お2人が“育犬ノイローゼ”になってしまったエピソードも描かれていました。
まんきつ:
初めて犬を飼う人はその大変さに面食らうと思うんですよ。
コロナ禍をきっかけに犬を迎えた人はたくさんいるんですけど、中には「こんなに大変だと思わなかった」って手放しちゃう方もいるみたいで。
世の中には「犬飼ってます! かわいいです!」みたいなエピソードや動画ばかり流れてくるじゃないですか。
だから今回の漫画では、犬と暮らす覚悟や大変さも伝えられたらいいなと思って描いているんです。

――例えば、都会の一人暮らしで、会社勤めをしていて……という方が、社会化のトレーニングが必要なパピー期の犬を飼おうとしたら大変ですよね。
まんきつ:
正直、あんまりおすすめはしないですね。
私はほぼ一日中家にいて漫画を描いている仕事だし、家を空けるのは1カ月に1~2回、それもせいぜい5~6時間出かけるくらいですから。
とくに飼い始めて最初のパピー期は、ご家族と住んでいて誰かは必ず家にいるとか、そういう方じゃないと結構厳しいんじゃないかと思っちゃいます。
犬は大昔から人間の相棒なのに、人間側の知識が更新されずに、古いままなのは残念ですね。
昭和の子どもは、体罰当たり前、部活中は水を飲むな、という意味不明な苦行を強いられてきましたが、今は子どもは褒めて育てて、自己肯定感を高めたら幸せ、という流れじゃないですか。
犬の飼い方もしつけ方も犬との出会い方も、知識を更新していけたら、犬も人も幸せになると思います。

【漫画を読む】『犬々ワンダーランド』1巻の試し読みはコチラ

◇続く後編「『犬を飼うにも対人スキルが必要』漫画家・まんきつが2匹と暮らして気づいたこと」では、犬を飼うこととコミュ力の関係について考えます。

福田 フクスケ(編集者・ライター)

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