猫の手術以外の避妊法、米研究チームが開発
増えすぎ防ぐ有望な手段になるか
2023年6月10日(土)
世界のイエネコの数は推定6億匹。
そのうち80%は野良猫や捨て猫が占める。
猫の避妊・去勢をすれば野良猫を減らし、保護施設の過剰負担を軽減し、野鳥や小動物が猫の餌になるリスクを減らすこともできる。
そこで米国の研究チームが手術以外の手段を使って長期的に猫の妊娠を防ぐ新たな方法を開発し、6日の科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに発表した。
実験に参加した猫のうちの4匹
論文筆者の1人、米シンシナティ動植物園のビル・スワンソン氏は今回の概念実証研究について、増えすぎた猫や犬の問題や、そうした動物の多くが安楽死させられている問題に対応することが目的だったと話し、「安楽死処分を防ぐ最善の方法は、家のない動物をなくすことだ」と語った。
新しい猫の避妊法開発は、ハーバード大学医学校のデービッド・ペピン准教授の発見から始まった。
同氏のチームは、哺乳類の卵細胞を取り巻く細胞層の卵胞に存在し、卵胞の成長を促進させるホルモンについて研究していた。
その働きを詳しく調べる目的で、このホルモンを生成する遺伝子をメスのマウスに注入。
自然発生する分に加えてホルモンを追加投与した形になった。
「驚いたことに、マウスは卵巣の活動の大部分が停止して完全な不妊になった」とペピン氏は解説する。
ペピン氏のチームは、犬猫の手術以外の避妊法の開発を支援している非営利組織のマイケルソン・ファウンド・アニマルズ財団のことを知り、同財団を通じてシンシナティ動物園のスワンソン氏と共同研究に乗り出した。
シンシナティ動物園にはライオン、トラ、スナネコといったネコ科動物のほかに、同財団の研究のために使っている約45匹のイエネコが暮らしていた。
研究チームは避妊法の研究のため、メス猫9匹を研究対象に選び、問題のホルモンの遺伝子を症状の軽いウイルスに乗せて6匹に注射した。
このウイルスが到達する筋肉細胞は極めて寿命が長いことから、遺伝子も長期間持続する。
この遺伝子を注入しても、猫たちのゲノムに変化はなかった。
「我々は基本的に、たんぱく質を作るための設計図を導入している。しかしそれはこの動物のDNAには組み込まれていない」(ペピン氏)
一方でこの遺伝子によって、猫の体内で卵胞の発達を妨げるホルモンが生成された。
卵子を取り巻くこの細胞が成熟しなければ排卵は起こらず、猫が妊娠することはない。
研究チームは2年間にわたって猫たちの糞尿(ふんにょう)のホルモンの値を週3回観察し、注入から2年以上経過しても問題のホルモンの値は高い状態が続いていることを確認した。
この状態で実際に妊娠が予防できることを確認するため、研究チームはオス猫2匹を投入。
その結果、遺伝子を注入しなかった3匹は全て妊娠したのに対し、注入したグループは6匹とも妊娠しなかった。
この結果は猫の避妊の新しい手段として期待できるが、獣医師で処方してもらうために必要な承認が得られるまでには何年もかかるだろうとスワンソン氏は予想。
「これは製品化され、いずれ承認されて利用できるようになるだろう。だが1~2年では実現できない」と話している。
研究対象となった猫たちはシンシナティ周辺で里親を探す予定。
新しい飼い主には年に1回、動物園に連れて来てもらい、ホルモン値の変化や何らかの副作用があるかどうかを観察する。
実験に参加した猫の「ミシェル」