杉本彩が震撼した「史上最悪」の動物虐待…
麻酔なしの帝王切開、劣悪環境の多頭飼育
2023年6月3日(土)
「毎回、傍聴するたびに、現場で行われていた内容に言葉を失います。もう人間の所業とは思えない、身の毛もよだつ厳しい話ばかりです」
と語るのは、女優の杉本彩さんだ。
杉本さんは5月10日、長野地裁松本支部で「長野県松本市の犬の繁殖業者事件」の第4回公判を傍聴した。
杉本さんは、この事件を告発し、第一回目の公判からずっと傍聴している。
写真提供: 現代ビジネス
事件が明るみになったのは、2021年11月。
長野県警は松本市の犬の繁殖業者が劣悪な環境で犬など約1000頭を飼育していたとして、繁殖業者の社長(当時60歳)と社員の男(当時48歳)を動物愛護法違反(虐待)の疑いで逮捕した。
この事件は、杉本さんが代表を務める『公益財団法人動物環境・福祉協会Eva(=以下、Eva)』が相談を受け、通報したことをきっかけに捜査が始まり、逮捕へとつながったものだ。
人と動物が幸せに共生できる社会の実現を目指してEvaを立ち上げ、長年にわたり動物愛護の問題と向き合っている杉本さん。
公判によって明らかになっていく常軌を逸した現場と杉本さんがこの事件を「史上最悪の動物虐待事件」と強く訴え続ける想いを前後編でお伝えする。
*編集部注:この記事には裁判で明らかになった虐待の詳細が伝えられます。現実をお伝えするために、残虐なシーンも出てきます。ご了承の上お読みください。
◆1本の通報が事件を知るきっかけだった
写真提供/公益財団法人動物環境・福祉協会Eva
逮捕までの経緯は、次のようなものだった。
2021年6月、Evaに長野県の動物病院から1本の通報が寄せられた。
動物病院の獣医師は繁殖業者の元従業員の女性から相談を受けたのを機に、自身も以前からその飼育環境を危惧していたこともあって、Evaへの通報を決意したのだという。
Evaはすぐにその獣医師に連絡を取り、詳細を確認。
すると、そこにあったのは、“それまでに見聞きした虐待事件とは比べものにならないほどの、災害レベルの規模と劣悪飼育の実態”だった。
Evaは、長野県警に報告書を提出。
それを受けて県警は通報者の獣医師や関係者に事情聴取を行った後、2021年9月、2日間にわたって繁殖事業者に対して大規模家宅捜索を実施した。
まず2ヵ所ある犬舎のうちの1つに入ったところ、そこでは約450頭の犬が飼育され、4段に積み上がった狭いケージの中に複数頭の犬が入れられていることを確認。
さらに糞尿が大量に放置され、不衛生な状況であることもわかった。
◆繁殖場の立ち入りで見えてきた実態
長野県松本市の繁殖場だった現場の外観。外側かわも不衛生な飼育環境であることがわかる。写真提供/公益財団法人動物環境・福祉協会Eva
犬の中には、乳腺に腫瘍があったり、子宮に膿が溜まっていたり、失明しているなど、病気や障害をもつものもいて、その数は58頭。
さらにもう1つの犬舎でも約490頭の犬が飼育されていることを確認し、2ヵ所で合計約1000頭という飼育数だった。
これは、業界関係者によれば「ペット業者としては全国的にも例を見ない多頭飼育である」とのこと。
Evaは動物愛護管理法違反(44条1項・2項)及び狂犬病予防法違反によりこの繁殖業者を刑事告発し、その他、各種法令違反についても鋭意捜査を要請。
告発状は2021年9月14日付で受理された。
そして11月4日、長野県警は、販売用の子犬を繁殖させるために2ヵ所の施設で合計約1000頭もの犬を劣悪な環境で飼育し、病気の犬に適切な治療を受けさせなかったなどの虐待を続けていたとして、繁殖業者の社長と社員の男の2人を動物愛護法違反(虐待)容疑で逮捕した(その後、11月24日に再逮捕)。
翌2022年3月に開かれた初公判において、起訴状では、劣悪な環境で拘束して飼育し衰弱させ虐待した犬の数が1000頭から計452頭となっていたが、被告である元社長は「間違いありません」と、その虐待などの起訴内容を認めている。
◆麻酔なしでの帝王切開
この繁殖業者が犬たちに対して行っていた虐待の内容は、劣悪な環境での飼育や病気を放置したこと、だけではない。
「被告である元社長は獣医師の資格をもっていないにもかかわらず、自らの手で麻酔もかけずに母犬の帝王切開を何度も行っていた」という、耳を疑うような行為も大きな問題となっているのだ。
これについて、2021年の告発後にFRaUが取材した際に、杉本さんはこのように語っていた。
「長年、動物虐待の実情を見てきましたが、今回の事件は、事業者が犯したものとして、私が知る限りの最大最悪の虐待事件。とても人間がすることとは思えない、悪魔の所業だと思います。そんなひどいことを本当に人間ができるのか、初めて聞いた時はしばらく言葉を失ってしまうほどでした」
警察による関係者への事情聴取と、これまでに4回、行われている公判での証言によって明らかになっている“無麻酔による帝王切開”の内容は、次のようなものだ(帝王切開は数年間にわたり、複数回、行われているため、ここではそのうちのいくつかの例をご紹介する)。
被告の元社長は、臨月の犬が産気づいたことを確認すると、犬をヒーターやボロ切れを敷いたケージの上に乗せ、四肢をビニール紐で縛りつけて身動きが取れないように固定した。
その後、滅菌処理をしていない医療器具を使って犬の腹を切開して子供を引っ張り出した。
切開した母犬の傷口を縫合し、それで手術は終了。
社長が不在の時には逮捕された男性元従業員含め複数の社員が帝王切開を行うこともあったが、誰も獣医師免許を持っておらず、不完全な縫合によって、傷口が開いて内臓が出たままの犬もいて、それらが原因で亡くなった母犬もいた。
◆理解に苦しむ関係者の証言
裁判で証言した元従業員の女性(前述の女性従業員とは別人物)は、帝王切開に10回~20回立ち会っており、初めての立ち会いの際に「麻酔はしないのか」と尋ねると、被告は「昔は麻酔をしていたが、麻酔の管理が難しく、犬が麻酔で死んだこともあるので、なるべく死なないように麻酔をしないと決めた」と話したという。
その女性によれば、手術中、犬は頭を左右に振って苦しんで泣き叫んでおり、その後、ぐったりしていたのは痛みで失神したのかと思ったという。
ただ、この女性はその後、(関係者から)麻酔をしていたらしいということを聞き、犬がぐったりしていたのは麻酔が効いてきたからかもしれない、と思うようになった、とも話している。
また、帝王切開とは別に、この女性の証言として、首に切り傷のあるトイプードルへの処置として、「開いた傷口にハエがたかり、何度新聞紙を変えても血が付いてしまうので、その事を相談するとハエ取りシートを部屋に付けただけで、犬には何もしてくれなかった」ということも語られている。
それでも女性元従業員は被告について「犬が好きで自分のすべてをかけて頑張っていた」と言う。
「このような話を聞いて、この繁殖場で犬たちが大事にされていたと思えますか?」と杉本さん。
「麻酔を使われることなくお腹を切られた犬たちは、どれほど苦しい思いをしたのか……想像を絶するものです。帝王切開の話は、告発した他の元従業員の方からも出てきているもので、もし自分の眼の前でそのようなことが行われたら、警察に通報するか、それができなかったとしても、ショックでいてもたってもいられなくなるのが普通の人間の感情ではないでしょうか。生身の犬のお腹を素人が切って仔犬を取り出すことに、いくら知識がないとはいえ、どうして10回も20回も立ち会って補助をし続けたのか、理解に苦しみます」(杉本さん)
後編では、杉本さんがこの事件を告発し、追い続ける意味と、松本以外でも増え続ける動物虐待の問題について語っていただく。
牧野 容子(エディター・ライター)
【写真】他にもある。浅田美代子がレスキューで入った劣悪繁殖業者の悲しすぎる現場
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松本「史上最悪の動物虐待事件」後編
2023年6月3日(土)
牧野 容子
プロフィール:エディター・ライター
「私が知る限りの最大最悪の虐待事件。とても人間がすることとは思えない、悪魔の所業です」と語るのは、女優の杉本彩さんだ。
杉本さんは、長年動物愛護活動に身を置き、『公益財団法人動物環境・福祉協会Eva(=以下、Eva)』の代表も務めている。
そんな杉本さんが、刑事告発し、傍聴し続けているのが、2021年11月に逮捕された、長野県松本市で起きた「犬の繁殖業者による虐待事件」だ。
劣悪な環境の中、犬など約1000頭を飼育していたとして、繁殖業者の社長(当時60歳)と社員の男(当時48歳)が動物愛護法違反(虐待)の疑いで逮捕された。
不衛生な飼育環境だけでなく、問題となったのは、無免許・無麻酔での帝王切開など、耳を疑う虐待の数々だ。
杉本さんの冒頭の発言は、そのような行為を示している。
第4回公判までの証言などに関しては、前編でまとめているが、正直、文字にするのも躊躇われる内容もある。
後編では、この事件から杉本さんが多くの人に知ってほしいペット業界の問題点についても語ってもらった。
◆年間100回も…無麻酔帝王切開
Eva がこの事件を刑事告発し、裁判を見守り続けて訴えているのは、このような悲劇が二度と起こることがないように、とにかく世間の多くの人にこの事実を知ってほしいという強い思いからだ。
そしてその思いは、勇気を持って最初にEvaにこの問題を一報した元女性従業員や獣医師も同じである。
「これまで4回の公判を傍聴していますが、起訴事実の頭数以上の多くの犬に、長期に渡り帝王切開をしていたことが、証言で明らかになっています。さらに告発した時にはわからなかった新たな事実も出てきて、傍聴すれば傍聴するほど、いかにこの事業者が血も涙もない非道な虐待を繰り返していたのかと、衝撃が大きくなってきます」(杉本さん)
今月の5月10日には長野地裁松本支部で第4回公判が行われた。
そこで初めて証言台に立った元従業員の男性(逮捕された元従業員とは別人物)は、2008年から2010年までの間、社長の不在時に自分が年間に100回くらい帝王切開をやっていたと証言。
「手術は元社長がやっているのを見よう見まねでできるようになった」とも話した。
5月10日、第4回公判傍聴に長野県松本地裁を訪れた杉本彩さん。写真提供/公益財団法人動物環境・福祉協会Eva
元社長の弁護人は以前の公判で、帝王切開は獣医師から学んで身に付けたもので、犬を助けるためにやっていて、悪いことをしているという認識はなかった、と述べているが、そもそも獣医師の資格を持たない人間が、本来例外的な処置とされる帝王切開を日常的に行うということは、母犬をみだりに傷つける虐待行為であり、決して許されるものではないことは明らかだ。
◆無免許での帝王切開は他でも起きている
「当然ながら、このような残虐な行為が無罪になっていいはずはありません。これだけ大規模で残虐な動物虐待は世界を見渡しても本当にないのではないかと思うくらいひどいものだと思います。改めて厳罰に処してほしいと強く思っています」(杉本さん)
ただ、「規模は違っても、この事件のような繁殖業者による虐待はおそらく氷山の一角に過ぎないだろう」と杉本さんはいう。
特にコロナ禍以降のペットブームによって、家で犬や猫を飼う人が急激に増えたことで、繁殖業者は金儲けのために“どんどん産ませろ”と勢い付き、頭数を増やして、管理の行き届かない劣悪な環境で犬や猫を飼育し続けている、という声もある。
実際、今回、逮捕された繁殖事業者も、それまで400頭くらいだった飼育頭数が2020年頃から一気に約1000頭まで増えたという証言がある。
しかも、主に増やしたのは近年、人気のフレンチブルドッグだったという話だ。
経費削減のため動物病院に連れて行かず、無資格者による「麻酔なしの帝王切開」という虐待行為を行っていた。
人気の犬種のフレンチブルドックも被害を受けた。写真はイメージです。photo/iStock
「被告の元社長は“みんなやっていることだ”と言っていたそうですが、実際に無免許の帝王切開がいかに常態化しているかということも、多くの人たちに知ってほしいです。 そもそも、2019年の動物愛護管理法の改正による環境省令に、“獣医師以外の帝王切開を禁止する”と当たり前のことがわざわざ明記された背景には、コストをかけたくない繁殖事業者が利益を求めることのみを優先して、無資格の帝王切開など違法な医療行為を平気で続けているからなのです。人気のペットを飼いたいという人々の需要が増え、それに応えて利益を追求する繁殖事業者や販売事業者がいるということ。こういったペット流通の仕組みそのものにも問題があるのではないでしょうか」(杉本さん)
◆行政も個人ももっと関心を持ってほしい
実際、Eva がこの松本市の繁殖事業者を刑事告発した後にも、獣医師免許がないにもかかわらず、犬の帝王切開やマイクロチップの埋め込みなどの医療行為をしていたとして逮捕された京都府の繁殖業者夫婦や、身動きがまったく取れないケージなど劣悪な環境で甲斐犬や柴犬を飼育していたとして逮捕された東京都八王子市の繁殖業者など、虐待事件が相次いで明らかになっている。
こちらは以前、杉本彩さんと浅田美代子さんの対談記事でご紹介した、浅田さんがレスキューに行った劣悪繁殖業者の現場。こういった事例が後を絶たない。写真提供/浅田美代子
「八王子のケースは東京都が3年間で約70回の指導を繰り返していたにもかかわらず、業者はそれを無視していたと聞いています。このように、行政も指導を繰り返すばかりで必要な措置をとってこなかったことで、結果的に不適正飼養を長年にわたって放置してしまったということもあり、行政の姿勢についても近年、問題視されています。 これについては、私たちも、2025年に予定されている動物愛護管理法の次期法改正に向けて、『動物取扱業者への規制強化』及び、『所有権の一時停止』と『動物を迅速に保護できるようにすること』などを積極的に働きかけていきたいと思っているところです」(杉本さん)
松本市の繁殖業者のケースでも、最初に獣医師に相談をした元女性従業員は、約10年間にわたってたびたび長野県松本保健所(当時)に虐待があることを通報していたものの、保健所は事業者に対して「注意」するだけで、結果的に虐待が放置され続けたということがあったという。
近年、動物虐待事件が社会的にも注目されるようになっていることで、行政の姿勢も徐々に変わっていくことに期待したい、と杉本さんは話している。
「今回の松本市の繁殖業者の裁判は、今後のペット販売事業において、とても大きな影響をもつ裁判だと思っています。というのも、この判決次第では、ペット業界のあり方が変わってくるのではないかと思うからです。ペット業界の健全化のためにも、裁判所にはしっかりと厳正に処罰を下していただきたいです。 また、今後、新たにペットを飼いたいと思う方たちには、犬や猫がペットショップの店頭に並べられるまでにどのような経緯があるのか、その背景にあるものについて、ちょっと考えてみていただいて、モラルある消費をしてほしいと強く思っています」(杉本さん)
杉本さんは、この問題が一時的なもので終わらないために、「長野県松本市で起きた劣悪繁殖業者の動物虐待犯を実刑に」と署名活動を行っている。
締切は6月19日(月)正午まで
【署名のお願い】長野県松本市、無資格で帝王切開をしていた史上最悪の劣悪繁殖屋による動物虐待犯を実刑に! - YouTube