頑張った馬たちがゆっくり暮らせる場を…「養老牧場」で来訪客にも癒やし
2023年4月30日(日)
競走馬や乗馬用としての役割を果たせなくなった馬が余生を過ごす「養老牧場」が、岡山県瀬戸内市にオープンした。
一線を退いたり、十分に育たず人が乗れなかったりする馬は殺処分されることがほとんどだが、牧場主は「人とのふれ合いなどの役割を果たしつつ、馬たちが穏やかに天寿を全うする場になれば」と願っている。
(小林由佳)
「人も馬も癒やされる場所にしたい」と語る野崎さん(瀬戸内市で)
「カコッ、カコッ」。
軽快なひづめの音を響かせ、小さな2頭の馬が牧場を元気よく駆け巡る。
同市牛窓町鹿忍の「ケイメイ牧場」。
牧場主の野崎啓明(けいあ)さん(38)が2頭の姿を優しく見つめていた。
野崎さんが牧場を開いたのは昨年12月。
約3500平方メートルの牧場に現在、佐賀の乗馬クラブから購入した「トントントントロ」と「グラマー」の2頭が暮らす。
トントントントロは体が小さく競馬や乗馬に向かず殺処分される予定だったが、仲の良かったグラマーと共に今年2月、野崎さんが買い取った。
牧場内には最大8頭を収容できる厩舎(きゅうしゃ)や放牧場、洗い場がある。
厩舎内には砂場があり、雨天でも馬がのびのびと体を動かせる。
来訪客は餌やりやブラッシング、手綱を引いて一緒に散歩することなどを楽しめる。
認定NPO法人・引退馬協会(千葉県)によると、国内では年間7000頭以上の競走馬が生まれている。
ただ、競馬や乗馬の一線で活躍できるのはわずかで、多くは維持費がかかるために殺処分されるという。
元々、岡山市内の乗馬クラブで10年以上、馬の世話をする厩務員(きゅうむいん)として働いていた野崎さん。
人のために懸命に走る馬の魅力に引き込まれると同時に、殺処分の現実を目の当たりにした。
割り切れない思いが強くなり、「頑張った馬たちがゆっくり暮らせる養老牧場を作りたい」と思い描くようになっていた。
2021年6月、母親の友人が所有する山林を借りられることになり、構想を本格化させた。
友人らの力を借りて砂利を敷き、厩舎を建てるなどの工事を進めた。
並行して業務として動物を取り扱う資格も取り、オープンにこぎつけた。
多くが殺処分される馬だが、それまで愛情を注いで育てた馬を殺すことをためらう馬主もおり、ファンがお金を出し合って引退した競走馬を牧場で養うケースもある。
野崎さんが目指すのは、そうした馬の引き受けだ。
訪れた客からは「癒やされる」「気軽に動物とふれあえる」といった反応が寄せられているといい、野崎さんは「走れない馬でも人を癒やす力がある。馬も人も喜べる場所にしていきたい」と意気込む。
ケイメイ牧場の入場料は大人500円、子ども300円で、餌代は200円。
45分3000円でブラッシングなど世話の体験もできる。
月額13万円で馬の預け主も募集している。
問い合わせは同牧場(0869・22・0178)へ。