猫のサブスク「ねこホーダイ」が2週間で停止
あぶり出された3つの保護猫の問題点とは?
2023年1月6日(金) 石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
月額380円の会費さえ払えば、提携する保護猫シェルターが保護・飼育する猫を審査やトライアルなしに譲渡してもらえるという猫のサブスク「ねこホーダイ」に対し、「猫は命あるものだ」などと批判が起きてネット上で大炎上し、開始からわずか2週間で停止に追い込まれました。
イメージ写真(写真:イメージマート)
◆「ねこホーダイ」から見えてきた保護猫の問題点とは?
「ねこホーダイ」という名前を見たとき、猫に対して愛情を持っているのかと疑問を感じるネーミングのセンスだと思いました。
このサブスクは、猫を命あるものと扱っていなくて批判するべきところは、猫サブスク「ねこホーダイ」に断固反対。獣医師が本気で訴える5つの理由という記事に書きました。
その一方で、この「ねこホーダイ」は、そんなきれいごとを言っていられない保護猫の問題点が浮き彫りになりました。そのことを見ていきましょう。
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①行政は殺処分ゼロとうたっているが、保護団体が引き受けていることが多く保護猫シェルターどこも満杯
行政の中には、猫の殺処分ゼロとうたっているところがあります。
それを言葉通りに理解するとその地域の人は、動物に対する意識が高くて、保護された野良猫がほとんどいないように思われがちです。
しかし、多くの殺処分ゼロとうたっているところは、保護団体が引き受けているのです。
そして、保護猫シェルターは、どこもほぼ満杯なのです。
②猫の寿命が延びていることによる終身飼養の困難さ
動物愛護法で、猫の終身飼養が基本になっています。
猫の寿命が約15年で、医学と進むと将来的に30年になるかもしれないので、終身飼養が難しくなってきています。
猫の寿命が10年もなかった時代だと、終身飼養が比較的可能でした。
いまは、そうもいかなくなってきているので、猫の一生を何代かで飼養するシステムを考える時期になっているのです。
③経済的に裕福で時間のある高齢者が保護猫を飼いにくい
意識が高い高齢者でも、年齢のことがあり、保護猫を飼いにくくなっています。
もちろん、高齢者は猫の終身飼養が難しいかもしれませんが、元気で裕福で時間のある高齢者に、里親になってもらうのもいいのではないでしょうか。
それと同時に、高齢者である飼い主が病気や施設に入居した場合は、その後の面倒をみてくれるシステム作りを考える必要があります。
◆全国に多くいる保護猫をどうすればいいの?
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人間の里親制度などで、「レスパイト」というものがあります。
レスパイトは一時中断、息抜き、休息などを意味する英語です。
高齢者や単身者の飼い主が、病気、入院、仕事などでずっと猫を飼育できないことが起こってきます。
そのときに、レスパイトのシステムがあれば、猫の命を繋ぐことができるのです。
・レスパイトの意義
猫を飼うということは、24時間365日の面倒をみるということです。
どんなに体力、気力のある飼い主でも疲弊することがあります。
猫のためにも、飼い主は適切に休息をはさみながら、自身の心と身体を労ることが大切です。
そうすることで、遺棄が少なくなります。
・レスパイトの方法
猫の飼養に疲れる、病気になるなどのやむを得ない事情がある場合は、猫を一時、預かってくれるシステムがあれば、高齢者でも保護猫の面倒を見ることができます。
自治体が、保護猫の譲渡をするときに、トライアル期間を設けて厳重な審査をすることはもちろん大切ですが、いままで譲渡先になっていなかった高齢者にも、このようなレスパイトのシステムがあれば、保護猫シェルターの猫を減らせることができるのではないでしょうか。
◆まとめ
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人間が、猫は繁殖能力が旺盛な動物だということを理解せず、不妊去勢手術をしなかった結果、このような多数の保護猫を生みだしました。保護猫は、人間が作り出したものです。
保護猫が、外で生きていくと、温かい寝床がない、食べるものもない、そのうえ、虐待される可能性まであるという過酷な環境なのです。
猫を飼うときは、必ず不妊去勢手術をするという認識を子どもの頃から教育して、保護猫シェルターが多頭飼育崩壊しないようにする必要があります。
未来は、保護猫シェルターがなくなる日本になるために、みんなで知恵を出すことは大切です。
石井万寿美
まねき猫ホスピタル院長 獣医師
大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は栄養療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医師さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。
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猫サブスク「ねこホーダイ」騒動をきっかけに知ってほしい
猫の「殺処分数」内訳は幼齢猫約7割
2023年1月11日(水) 石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
月額380円の会費さえ払えば、保護猫シェルターが保護・飼育する猫を審査やトライアルなしに譲渡してもらえるという猫サブスク「ねこホーダイ」が、ネット上で大炎上し、開始からわずか2週間で停止に。
これに対して、猫の殺処分数を減らためには、「ねこホーダイ」もいいのでは、という意見もあります。
イメージ写真(写真:アフロ)
◆「ねこホーダイ」で殺処分数が減らせるか?
「ねこホーダイ」について肯定的な意見を持っている人もネット上で見かけます。
ある動画サイトでは、きれいごとをいっている場合ではなく「猫の殺処分数」が多いので、「ねこホーダイ」も工夫によってはいいのでは、というものもあります。
その理由は
「無責任な飼い主が多く、衝動的に飼ってしまって遺棄する」
「ペットショップで猫を見て、可愛いので飼ってしまい、いざ飼い始めると思ったのとは違うので遺棄する」
「猫の不妊去勢手術をしていない」
などです。
このようなことで保護猫が増えていると分析しているのです。
この動画の投稿者は、猫の殺処分数の内訳をあまり知らないのでしょうか。
多くの人は、1万9705匹という数だけを見て意見を言っているように思われます。
◆令和2年度の猫の殺処分の実態を知っていますか?
犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(動物愛護管理行政事務提要のページより作成)
猫の殺処分数は、令和2年度では1万9705匹です。
そのうちの幼齢猫は1万3030匹です。
7割弱が「幼齢猫」なのです。
幼齢猫とは主に離乳していない子で、つまり生後3カ月未満の乳飲み子なのです。
乳飲み子を生み出さないシステム作りをすれば、猫の殺処分の7割弱は減らせるのです。
それと注目したいのは、猫の引き取り数の内訳です。
飼い主からが23%で、残りの77%は所有者不明つまり飼い主のいない野良猫なのです。
野良猫を減らすと殺処分を減らすことができます。
猫の殺処分の統計から読み解けることは、「幼齢猫」と「野良猫」を減らすと殺処分数はグーンと減らすことができます。
すでに聞きなれた言葉ですが、『猫を飼えば「不妊去勢手術」をすること』がもっと浸透すれば、幼齢猫も野良猫も減らすことができるのです。
◆幼齢猫と野良猫を減らす方法とは?
イメージ写真(写真:イメージマート)
「TNR」をすることです。
野良猫は人間が作り出したものです。
日本は野生の猫は、ほとんどいません(イリオモテヤマネコとツシマヤマネコぐらいです)。
猫は寒さに弱いので、寒空で猫の姿を見ると心が痛みます。
地域にいる猫の最少でも8割を不妊去勢手術しないと、猫の数は減らないといわれています。
そのための活動としてTNRというものがあります。
TNRとは以下です。
・Tは「Trap」で捕獲
・Nは「Neuter」で不妊去勢手術
・Rは「Return」で元の場所に戻す
つまり、野良猫を捕まえて、不妊去勢手術をして、麻酔が覚めると元いた場所である外に戻すことです。
これを全国の行政がしてくれると、いまの殺処分はかなり減らすことができます。
野良猫を減らすと、外で拾ってきて飼い猫にして多頭飼育崩壊を起こす人も減らすことができるのです。
幼齢猫が保護されたら、ミルクをあげるミルクボランティアが増えると(生後3カ月で離乳期が終わるので)、ずいぶんの幼齢猫は減るでしょう。
こうやって書くのは簡単ですが、猫にミルクをあげるのは数時間ごとなので、働いているいる人には難しいです。
望まない命を生み出さないことが大切で、そのためには不妊去勢手術が必要になります。
◆なぜ「ねこホーダイ」ができたか?
行政は殺処分ゼロとうたっていますが、その中には、動物保護団体が全部を引き取っているところも多いのです。
動物保護団体は、どこも満杯なので、このような状況を見て、猫サブスクを考え出されたのでしょう。
◆「ねこホーダイ」が停止されても野良猫・保護猫のことをみんなで考えよう
イメージ写真(写真:イメージマート)
野良猫は人間が作り出すたもので、里親が見つからず、保護団体に引き取られた保護猫は、数多くいます。
「ねこホーダイ」の猫サブスクが停止になったのも獣医師として喜ばしいことですが、それだけでは、まだ野良猫や保護猫の問題は解決していないのです。
殺処分をゼロにするためには、小学校で猫や犬の行動や生理を教育するなどして、多方面からアプローチする必要があります。
猫の殺処分数を深読みすると、殺処分ゼロに対するアプローチが見えてきます。
石井万寿美
まねき猫ホスピタル院長 獣医師
大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は栄養療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医師さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。