捨てられた仔猫を拾って動物病院や保護団体に置いて…
「自分はいいことをした」と思うことの無責任さ
2022年6月11日(土)
【杉本彩のEva通信】
今回は、保護すべき仔猫を拾ったら、どうすることが適切なのかについて書かせていただきます。
この時期、飼い主のいない猫が生んだ仔猫に遭遇することがあるかもしれません。
行政の動物愛護センターや保健所に連絡しても、「殺処分にならないという保証はありません」と言われると、助けたい気持ちで拾った人は、センターに渡すことをためらうのは当然でしょう。
⇒【写真】犬や猫の殺処分に使われる「ドリームボックス」と呼ばれるガス室
先日テレビでこんなニュースがありました。
保護活動にも尽力している動物病院の前に、仔猫が置き去りにされた報道でした。
タクシーから出てきた男性が、持っていたダンボールの中の仔猫に牛乳を与えたあと、仔猫が入ったダンボールを病院の前に置いて立ち去った姿が、防犯カメラに映っていました。
ダンボールの中には4匹の仔猫が。
仔猫は病院が引き取りましたが、1匹しか助かりませんでした。
カメラに映っていたこの行為は、紛れもない動物遺棄罪、犯罪の証拠です。
(動物愛護管理法44条3項)
離乳前の仔猫
病院は警察に通報。動物病院の院長はこのようにおっしゃっていました。
「育てる気もなく、誰かに丸投げする人は拾わないでほしい。動物病院に持っていけば助けてくれる、『自分はいいことをした』ということではなく、顔と顔を突き合わせて対応してほしい」と。
まったくその通りだと思います。
まずは自ら保護し、直接病院に相談すれば、抵抗力のない仔猫が長時間、外に放置されることはなく、仔猫を死なせることもなかったかもしれません。
また、この人は動物愛護法の遺棄罪を犯すこともなかったわけです。
これまでもこの病院では、ビニール袋に入れられた猫が病院の花壇に捨てられる様子が、防犯カメラに映っていたこともあったそうです。
警察の対応は拾得物扱いだったようで、防犯映像から捨てに来た人も分かったということですから、警察は遺棄罪で捜査すべきだったのです。
警察に「もう少し動いてほしい」と院長のインタビュー記事にありました。
動物愛護法の遺棄・虐待罪は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金なのですから。
このように、保護活動をしている動物病院や動物保護団体の施設の前に、犬や猫が遺棄されることがよくあります。
また、保護猫カフェの前や、個人で保護している人の家の前にも捨てに来る人がいて、今回のことは氷山の一角です。
もちろん世の中には、悪質極まりないケースとして、自ら無責任な繁殖をしたペット事業者が、増やしすぎた結果、遺棄することもあるでしょう。
しかし、今回のようなケースにおいては、おそらく「仔猫を助けたい」という気持ちからで、罪の意識を感じていないどころか、院長が言うように、「いいことをした」と思っているのでしょう。
こういうケースは少なくありません。
しかし、これはあくまでも「助けたつもり」であって、実際3匹の仔猫が命を落としていますし、自己満足に過ぎません。
また、この人のとった行動は、その責任を誰かに押し付けただけ、という非常に無責任で迷惑な行為です。
では、どうすべきだったのでしょうか。
まず、自分が見つけて手を差しのべたなら、その命に責任を持ち、救うために自分が今すぐできること、今やらなければならないことを考え動くことです。
仔猫は抵抗力が弱く、暑さや寒さ、飢えや渇きで、あっという間に死んでしまいます。
体温が下がらないよう保温し、ミルクを与え、病院に連れて行く。
見つけた段階で、迅速にこれができるかで命の明暗が分かれます。
「拾ったけどどうしていいかわからない」ではなく、誰かにアドバイスを求めたり、病院に直接相談したり、今どきはネットで検索して調べることもできるはず。
また、「家はペット不可だから家に置いておけない」など、誰かに押し付ける理由を並べ、責任を負うことを嫌がる人がいます。
住宅がペット不可ならば、里親が見つかるまで一時的に預かってくれる友人や知人、動物病院をあたるべきです。
もちろん、お願いした先に任せっきりはもってのほか。あくまでも自分が責任を持って動くことが大切です。
縁あって拾った命を、「なんとか救ってあげたい、里親を必ず見つけたい」という、切なる気持ちで周りの人の協力を仰げば、その思いに共感し、手伝ってくれるのではないでしょうか。
その気持ちと行動が周りを動かすのだと思います。
しかし、いろいろやったけど協力を得られない、自分もどうしても預かっておくことができないという、どうしようもない事情がある場合には、動物愛護団体に相談せざるを得ないのかもしれません。
けれど、それは本当に最後の手段です。
遠方から依頼が来ても動くことは難しいですし、地元の団体が収容頭数のキャパオーバー寸前ということも往々にしてあります。
団体も個人も保護活動をしているところは、昼夜問わず動物の世話に追われ、その中で捕獲や保護、また里親さんへの譲渡にも多くの時間と労力を費やしています。
そして、一頭引き受ければ、それだけの医療費やフード代、トイレの砂代、ペットシート代が必要になります。
動物愛護団体の施設・スペース・人員・費用には限界があるため、たくさんの依頼すべてに応えるのは難しいのです。
保護団体ではない啓発団体である当協会Evaにも、「何とかしてほしい」「そっちで預かってほしい」、ときには「愛護団体なのに引き取らないのか?!」と、電話で乱暴なことを言う人もいます。
自らは何もせず、ただ連絡するだけの行為は「無責任」な丸投げと言わざるを得ません。
また、愛護団体に連絡したから「それで私は命を救った」と思う人がいるのなら、それでは本当に救った事にはならないのです。
保護主として、自覚をもって命と向き合って欲しいと思います。
何もかもやったけど、どうしても無理だったその時は、動物愛護団体は可能なかぎり力になってくれるはずです。
Evaは保護団体ではありませんので団体として保護はできませんが、それでも保護主が手を尽くしそれでも術がなかったら、目の前の命から目を背けることはできません。
その時は、一人の人間として何か力になりたいと思うものです。
どの動物愛護団体もそういうものだと思います。
ですから、自力が限界であった場合には、動物愛護団体のアドバイスの下、力を借りながら自らも動く、または何かしらの形で協力するという姿勢が必要です。
可哀想と思い動物を拾ったものの、面倒になったからといって遺棄すれば犯罪です。
可哀想と思い助けるなら、その責任と覚悟を持って動いてほしいと思います。
(Eva代表理事 杉本彩)
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杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。
犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。
動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。