善意を逆手にとる「保護犬・猫」の知られざる裏側
~ これから飼う予定なら知っておくべき重要事項
2022年4月5日(火) 東洋経済 ONLINE
近年は動物愛護の精神が広がり、自治体の動物愛護センターや動物愛護団体などが譲渡する保護犬・保護猫を家族に迎えようと考える人が増えています。
しかしながら、そのような人たちの善意を逆手にとる動物取扱業者がいるのも事実です。
表向きは「社会貢献をしている優良な業者」とアピールしながら、実際は店頭で販売できない犬や猫を保護犬や保護猫と偽って譲渡したり、譲渡条件にさまざまな商品の契約を付けて必要以上の収益を得たりと、本来の保護活動に水を差すような活動が見られます。
今回は、筆者が実際に受けた相談事例から、保護犬や保護猫を譲渡する動物取扱業者の問題について考えてみたいと思います。
これから保護犬、保護猫を譲り受けようという人こそ知っておくべき「業界の裏側」を、ペットジャーナリストが明かします(写真:kotoru/PIXTA)
■家族全員がその愛らしい姿に一目ぼれ
首都圏在住のAさんは、飼い猫の遊び相手に保護猫をと考えてネット検索していたところ、あるペットショップのホームページに、生後5カ月のメインクーンが保護猫として掲載されているのを見つけました。
家族全員がその愛らしい姿に一目ぼれ。
その子猫がいる店舗が自宅から近かったこともあり、実際に見にいくことにしました。
店で店員にいろいろと聞いてみると、基本的に子猫は譲渡なので無料でしたが、ワクチン接種や健康診断などの諸費用がそこそこ高く、ペット保険の加入やペットフードの購入も譲渡条件に含まれていました。
思った以上に費用がかかることを知ったAさんは、一度家に戻って家族と相談することに。
店員の返答に曖昧な部分が多かったので、改めてホームページをチェックしたところ、掲載されている犬や猫はすべて純血種。
しかも1歳未満の子が半数以上でした。
「これって保護された子たちではないのでは?」。
そう疑問を感じたAさんがこちらに相談をしてきたのでした。
Aさんによると、店員はその子猫を保護した経緯について「まったくわからない」と言う一方、健康状態に関しては「小さい頃から心臓に雑音があります」とはっきり返答していたといいます。
また、誕生日やワクチン接種日も教えてもらえたようで、Aさんは「保護した経緯がわからないのに、小さい頃からの心臓の雑音や誕生日がわかっているのはどういうことなのだろう?」と、店員の返答に混乱していたそうです。
「保護犬」「保護猫」とは、屋外で生活していて飼い主がいない、もしくは劣悪な環境にいて、自治体や民間の動物保護施設、個人宅などに一時的に保護された犬や猫をいいます。
最近は飼い主からの引き取り依頼も増えているようです。
このように保護された状況がバラバラなので、冒頭のペットショップのように純血種ばかりが里親募集されていることはありえません。
「ご相談の内容から考えると、このペットショップでは、健康に問題がある、ケガをして外見に問題がある、遺伝子検査で問題があるといった事情で、販売ができなくなった犬や猫、また繁殖を引退した犬や猫を、保護犬、保護猫として掲載し、その経緯を隠して譲渡している可能性が高いですね」 とAさんに伝えました。
保護犬、保護猫を扱っているといえば業者のイメージアップにもなりますし、たくさんの人の目に留まり、引き取り手も見つかりやすい。
そこにペット保険の加入、ペットフードや用品の購入などを譲渡条件にすれば、収益にもつながると考えたのでしょう。
ペットショップで懸命に生きる子猫の切実な叫び
■ショップで売れ残った子を保護猫として…
このペットショップに勤めていたという元従業員のBさんは、「何らかの事情で販売できない子犬や子猫、売れ残ってしまった子などが多いです。まれに飼えなくなったという飼い主から引き取った子もいますが、そういう子たちを保護犬・保護猫として譲渡することに対し、すごく違和感がありました」と話しています。
保護犬、保護猫に詳しくなければ、純血種だらけの“自称”保護施設などでも異常とは思わず、引き取ってしまうでしょう。
実際、Aさんも店員と話をするまでは疑問に思わなかったと言います。
「保護犬・保護猫を1匹でも救いたい」という善意が、一部の動物取扱業者に悪用されている実態がここにあるのです。
では、なぜ動物取扱業者が”自称“保護活動を始めたのでしょうか。
2013年9月に施行された改正動物愛護管理法により、不当な理由による動物の受け入れを自治体が拒否できるようになりました。
大量の殺処分を避けるための改正でしたが、その結果、一部の繁殖業者やペットショップは、売れない犬や猫などを「引き取り屋」と呼ばれる業者に渡すようになりました。
ところが、近年の動物愛護の精神の広がりや取り締まりの強化などで、相当数いたといわれる引き取り屋も、徐々に減っていきます。
処分に困った彼らが目を付けたのが、注目度の高い保護活動というわけです。
なかでも多いのは、前述したペットショップのように、売れない犬や猫を保護犬や保護猫と称して、収益になる条件を付けて譲渡しているケースです。
保護活動をしていることをうたえば、「社会貢献をしている業者」としてイメージがよくなるとでも考えたのでしょう。
同様に、一部の動物愛護団体や保護猫カフェなども繁殖業者と提携し、売れない子犬や子猫、あるいは繁殖を引退した犬や猫を定期的に引き取り、あたかも飼育崩壊した繁殖業者からレスキューした保護犬、保護猫のようにみせ、一定の収益を得ながら譲渡していることは、最近よく耳にします。
特に目立つのは、繁殖を引退した犬や猫の譲渡が増えていることです。
その背景にあるのは、2021年に公布された環境省令の「第一種動物取扱業者及び第二動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令(省令基準)」です。
■規制で13万頭もの犬や猫が路頭に迷う
経過措置を取りながら2024年6月に完全施行され、飼養設備のサイズ(ケージなどのサイズ)、従業員1人あたりの管理頭数、雌犬・雌猫の交配年齢や出産回数などの数値が規制されることになります。
この数値規制によって13万頭もの犬や猫が路頭に迷うといわれています。
今後、注目度の高い保護活動を利用した下請けの動物愛護団体や保護猫カフェなどが、ますます増えていくのではないかと懸念されます。
前出のAさんは、「猫には何の罪もないので引き取りたいけど、そんなペットショップの偽善を手助けするようなことはしたくない」と、地元のしっかりとした動物愛護団体で保護猫を譲ってもらうことにしたそうです。
Aさんの言うとおり、そこにいる犬や猫には罪はありません。
暖かい家庭で幸せに過ごしてほしいと多くの人が願っています。
しかし、そのような偽善を手助けすることは、「需要があるからやっている。それのどこが悪い」と言い放つ一部の業者の悪しき考え方に、知らず知らずに賛同していることになります。
善意に水を差されないようにするためには、以下のような視点を持つ必要があります。
①保護犬、保護猫が、どこからどのような事情で保護されることになったか、経緯(ルート)を確認する
②きちんとした保護団体・施設なのかを確認する。純血種だらけ(純血種同士で繁殖したMIX犬も含む)というのは通常はありえない
③飼い主として責任をもって飼育できるかなど、きちんとした審査がある
④譲渡条件に保険の加入やペットフード、用品などの購入が含まれていない
保護活動では犬や猫にとって理想的な家庭(飼い主)を求めるため、その譲渡は慎重に行われます。
譲渡に向けての審査や手続きも簡単ではありません。
しかし、保護活動で収益を得ようとする場合(営利目的)だと、審査や手続きが簡単で、その日のうちに犬や猫を連れて帰れる場合が多く、自宅への訪問やトライアル期間がほとんどありません。
譲渡条件にさまざまな商品の契約を付けて、必要以上の収益を得ようとするのも、1つの特徴といえるでしょう。
繁殖業者やペットショップなどで売れ残った犬や猫、または繁殖を引退した犬や猫が表に出るようになったのは、ある意味大きな前進だと考えています。
一方で、健康や外見、遺伝子検査の結果の問題で販売できない犬や猫を作り出したのは、業者自身です。
改善する旨を伝え、譲渡にいたる経緯を公開し、飼い主を募るのが正しい責任の取り方ではないでしょうか。
また、繁殖犬や繁殖猫を譲渡する場合にも、「引退犬」「引退猫」 として経緯を公開し、今までの活躍に敬意を表しながら飼い主を募ることが大切なのではないでしょうか。
■保護した経緯を飼い主が知ることは重要
保護犬、保護猫の譲渡では、保護した経緯を飼い主が知ることはとても重要なことです。
飼育中に問題行動などが起ったとき、その解決の糸口になるかもしれないからです。
どんな環境で育ったのか、どこで保護されたのか、トラウマを抱えている可能性がないかなどがわかっていれば、その対応の仕方も大きく違ってきます。
Aさんの話した「保護した経緯がまったくわからない」は、飼い主にとっても、犬や猫にとってもマイナス要素にしかならないのです。
販売に関わる動物取扱業者がしなければならないのは「偽善の保護活動」ではなく、「うそ偽りない正直な譲渡活動」です。
そして保護犬や保護猫を出さないよう最大限の努力をすることだと考えます。
健全な繁殖をし、飼い主を厳選し、その犬や猫を生涯にわたってサポートする。
万が一飼えなくなった場合には飼い主と共に里親探しをし、確実にその命をつなぐ。販売責任をしっかりと担う姿勢こそ、こうした動物取扱業者に求められるものではないでしょうか。
阪根 美果 :ペットジャーナリスト