「かわいい子犬を飼いたい」
8歳娘の気持ちを踏みにじった悪質業者の汚い手口
2022年3月7日(月)
福谷 陽子法律ライター・元弁護士
世の中には「早くお金を増やせたらいいのに」という気持ちに付け込んだもうけ話や悪質商法があふれています。
元弁護士・法律ライターの福谷陽子氏が実際によくある事例を通して解説する当シリーズ。
今回は「ペットの悪質商法」について紹介します。
コロナ禍において自宅で過ごす時間が増え、ペットを飼う人も増えています。
しかしそれに乗じて悪質なペットビジネスに遭ってしまうケースも増加しており、注意が必要です。
ペットの悪質商法としては「ペットを飼うときのトラブル」と「ペットを譲るときのトラブル」の2種類があります。
今回は第1回目として「ペットを飼うときの詐欺」の事例をご紹介します。
これからペットを飼いたいと考えている方はぜひ参考にしてみてください。
■田城さん(30代女性)の場合
田城さん(仮名、30代女性)は夫と娘(小学2年生)の3人暮らしです。
コロナ禍で夫が在宅勤務するようになり、家族一緒に家で過ごす時間も増えました。
そこで、家族で話し合い「室内で飼えるかわいい犬を迎え入れたい」ということに。
田城さんたち家族は「ミニチュア・ダックスフント」が欲しかったのですが、ペットショップに行くと何十万円もして高額です。
また「できればペットショップで売られている犬よりも、飼い主が見つからない犬の里親になる方がよいのではないか」と考えました。
そこでいくつかの里親サイトに登録し、家族として迎え入れられるようなミニチュア・ダックスフントを探すことにしました。
◆携帯電話に連絡が
ある日、田城さんの携帯電話に「ペットの譲渡を行っている」という業者から電話がかかってきました。
話を聞くと、登録したサイトの1つを運営している業者のようでした。
担当者は以下のようなことを言ってきました。
「当会は、飼い主の見つからない犬の里親を見つけて新しい家族を見つけてあげるための活動をしています」
「ペットショップと違い、営利は主目的ではないので費用はとても安いです」
「当会を介して引き取ってもらうと、行き先のないワンちゃんの新しい家族になってもらえるので、動物の命を救うことにもつながります」
「ペットショップでは30~60万円くらいする子犬が、当会であれば4万円程度でお譲りできます」
「ペットの安全を期するため、引き取りの際には誓約書を書いてもらっています」
田城さんが「写真や動画を見たい」と希望すると、とてもかわいらしくて田城さんたち家族が理想としていたようなミニチュア・ダックスフントの赤ちゃんの動画と数枚の写真が送られてきました。
田城さんたち家族はすっかり魅了されてしまい、「子犬のためにもなるし、ペットショップと比べてとても安く飼えるのも魅力的」「ぜひ譲ってもらおう」と考えて、業者へ4万円を振り込みました。
◆追加請求
田城さんがお金を振り込んで「いつ子犬が来るんでしょうか?」と尋ねると、「出生後間もないので、最低でも4カ月は待っていただく必要があります」「あまり小さいうちに環境を変えると弱ってしまうので、ワンちゃんのためにもお待ちいただけますと助かります」とのこと。
田城さんが「それなら仕方ないかな」と思って待っていると、また連絡がありました。
今度は「ワクチン代と狂犬病予防接種の費用が2万円かかるので、負担してください」とのこと。
田城さんが言われるままに振り込むと、また連絡が来ました。
「避妊手術の費用がかかるので、10万円支払っていただく必要があります」
田城さんは「避妊手術はそんなに費用がかかるのか?」と少し疑問を持ちましたが、動物のため必要なことだから、と思って支払いをしました。
その後も「子犬の管理費用がかかっている」「体調を崩して獣医に行ったので費用がかかった」など、次々と費用請求をされて、結局田城さんは業者へ合計30万円以上支払うことになってしまいました。
◆結局引き渡しを受けられなかった
業者から連絡があってから約束の4カ月が経過しましたが、ミニチュア・ダックスフントを送ってもらえる気配はありません。
さすがに田城さんも不安になって「どうなっていますか?」と問い合わせましたが、はぐらかされるばかりで、ついには音信不通になってしまいました。
ネットや電話でしかやりとりしておらず、サイトにも運営者情報がはっきり書いていなかったので、住所も分かりません。
田城さんたちは総額35万円をだまし取られてしまったのです。
娘も子犬が来るのをとても楽しみにしていたのに、待たされた揚げ句に結局飼えなかったのでとても寂しそうにしています。
田城さんは、お金の問題もありますが、それよりも「娘の悲しそうな顔を見るのがとてもつらい」と、やりきれない思いになりました。
■悪質ペット商法が増えている
最近、田城さんが遭ったような悪質なペット商法が増えています。
以下でよくあるパターンを見てみましょう。
◆ペットを引き渡すと言って引き渡さない詐欺
よくあるのが「ペットを譲ります」と言ってお金を振り込ませておいて、実際には引き渡さない詐欺です。
田城さんが遭ったのもこのパターンです。
里親サイトを運営している業者やサイトから情報を入手した業者から電話やメールが来るケースもよくあります。
・SNSを使った詐欺
最近では、SNSを使ったペットの個人取引が頻繁に行われています。
SNSで知り合った相手から「トイプードルを格安で譲ります」などと言われて信用してお金を振り込んでも、一向に引き渡してもらえないパターンです。
ネット上で知り合った相手は氏名も住所も分からないケースが多いので、だまされたときの返金請求が非常に難しくなってしまいます。
◆病気のペットを買わされる
市販のペットショップでも見られる悪質商法として、病気のペットを譲られるケースが少なくありません。
当初から衰弱していたのか、購入した途端に病気になって死亡してしまったり、先天性の病気を持っているのに告げられなかったりするパターンです。
死亡すると経済的な問題だけではなく精神的にもショックですし、持病のあるペットを譲られると、飼い主が一生介護をしなければならないので多大な負担が発生します。
◆追加費用を請求する詐欺
当初は「ワクチン代1万円を負担してもらうだけ」などと少額で飼えるような説明をしつつ、その後さまざまな理由をつけてどんどん追加費用を請求してくる悪質商法もあります。
田城さんのケースもこのパターンです。
■悪質商法に遭わないために
このような悪質商法に引っかからないために、以下のことに注意しましょう。
◆特定商取引法上の表記を確認する
ネットで品物やサービスを販売する場合、「特定商取引法上の表示」をしなければなりません。
表記には業者の名称、住所、電話番号などが掲載されています。
必要事項がきちんと掲載されていない業者は違法ですので取引すべきではありません。
掲載されている電話番号につながるかなども確認しておきましょう。
◆動物取扱標識を確認する
動物愛護法により、動物販売業を行うには登録しなければならず、動物取扱標識を掲示する義務も課されます。無登録営業や標識を掲示しない営業は違法です。
販売業者が無登録、あるいは動物取扱標識を掲示していない場合、取引すべきではありません。
◆販売業者名と代金の振込先名義が同じか確認する
販売業者名と代金の振込先名義が異なる場合、詐欺の可能性が高いので避けた方がいいでしょう。
◆生命保証、ワクチン接種や代金を確認する
契約前に、病気や死亡した場合の保証がどうなっているか確認してみてください。
ワクチン代や血統書費用などの内訳や金額も確認しておくべきです。
当初に明確になっていれば追加費用を請求されることはありません。
◆ペットを見てから購入する
ペットは実際に見てから購入しましょう。
写真や動画だけでは実在するかどうか分かりませんし、現在の様子なのかも不明です。
***
もしもだまされてしまったときには、早めに消費生活センターや弁護士に相談してみてください。
相手の所在が明らかになれば、支払った代金の取り戻しを請求できる可能性があります。
ペットビジネスには想像以上に悪質商法がはびこっています。
譲り受けるときには、詐欺に引っかからないようくれぐれもご注意ください。
福谷 陽子/法律ライター・元弁護士
京都大学法学部在学中、司法試験に合格。勤務弁護士を経て、法律事務所を設立し、約7年間独立営業。中小企業法務や債権回収、不動産の任意売却やカード破産などの案件を多数手がけた。悪徳商法、投資詐欺などの消費者問題にも深い知見がある。現在は弁護士時代の経験を活かして、各種の法律メディアにて執筆、監修、編集、さらに法律事務所のWebマーケティングなどに携わる。