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高齢者とペット1

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「世話できなくなったら…」 高齢者とペット

2015年1月14日 中日新聞

高齢者の暮らしに張り合いや癒やしを与えてくれるペット。
70歳以上のおよそ4人に1人がペットを飼っているが、その人たちが要介護状態になった場合、動物と一緒に受け入れる施設はごくわずかだ。
最期まで互いが幸せに暮らすためには、どのような支援や準備が必要なのか。
高齢者とペットとの関係が大きな課題になりつつある。

◆施設で最期まで

保健所から引き取られた犬たちも暮らす「さくらの里山科」の犬ユニット=神奈川県横須賀市で

ベッドに八歳の猫「ゆうすけ」が寝そべる。
飼い主の沢田富与子(ふよこ)さん(70)は隣で「孫の手で頭をかかれるのが好きなの」とほほ笑んだ。
神奈川県横須賀市の特別養護老人ホーム「さくらの里山科(やましな)」には、全国でも珍しい犬や猫と暮らせるフロアがある。
2012年の開所。施設は個室十室と共用のリビング、浴室などのある「ユニット」制で、12ユニットのうち2つに犬が計6匹、2つに猫が計8匹いる。
施設長の若山三千彦さん(49)が「(1つのユニットは)10LDKのマンションのようなもの」と話すように、犬や猫たちはユニット内を自由に行き来する。
介護スタッフで犬ユニット長の出田(いでた)恵子さん(44)は「全く手を動かせなかった人でも、犬をなでようと自然に手が伸びる。私たちの力だけではできないこと」と説明する。
入居者の六割に認知症があるが、「無気力だった人に笑顔が生まれ、生活リズムが整った人も」と若山さんも言う。
高齢のためペットの飼育を諦める人や、ペットがいるからと介護施設への入所をためらう人がいる中、同施設はペット同伴で受け入れ、飼い主の死後も世話をする。
運営は簡単ではなさそうだが、若山さんは「えさ代などの負担以外は、そう難しくない」と話す。
犬も猫も、定期的に獣医師による健康管理や予防接種を受ける。
日常の世話をするのは動物好きの介護スタッフで、朝晩の犬の散歩はボランティアが担う。トイレはしつけられているが、たとえ汚しても「施設は掃除しやすいので衛生面も問題ない」(若山さん)。


さくらの里山科で愛猫と暮らす沢田さん=神奈川県横須賀市で

沢田さんも前は、一人暮らしの自宅で何度倒れても「ゆうすけを置いていけない」と施設への入所を拒んでいた。
だが今は「ここに入れて本当に良かった」。
若山さんは「介護が必要になっても、それまでと同じように暮らしてほしい。目指しているのは、お年寄りにも動物にも当たり前の生活です」と力を込めた。
国内の犬と猫の推計飼育数は2千万匹超(13年、ペットフード協会調べ)。
ペットと暮らせる高齢者施設への関心は高く、老人ホームのインターネット検索サイト「探しっくす」の運営や電話相談を行う「メディカルリソース」の担当者は「問い合わせは年々増えている」と話す。
だが受け入れ先はまだ少なく、サイトに掲載されている施設も全国で40カ所弱。
さらに多くは、介護の必要性の低い人向けのサービス付き高齢者向け住宅などで「要介護度が上がって入居者がペットの世話をできなくなったら、飼えなくなってしまうケースもある」と担当者は言う。
ただ「ペットと住めるマンションが増えたように、高齢者施設も増える可能性はある」と、第一生命経済研究所の北村安樹子主任研究員はみる。
同研究所が12年に行った調査では、ペットを飼う高齢者夫婦の大多数が「最も大切なのはペット」と答えており、そうした施設でもペットの世話や行く末を託せるサービスを充実させることが需要開拓のカギになりそうだ。

◆地域でも見守り


内閣府の2010年の調査では50~60代の多くがペットを飼っており=グラフ、今後は世話できなくなった場合への対応が求められる。
中央政策研究所名古屋支部の向宇希(むかいひろき)主任研究員は「放し飼いや増えすぎなどのトラブル、飼い主の死去でペットが取り残され、近所の人が面倒を見ているといった事例は既に増えている」と話す。
こうした問題に対応しようと、川崎市は昨春から、市内約50カ所の地域包括支援センターと協力した取り組みを始めた。
センター職員が高齢者宅を訪問する際、ペットの状況も把握。
困った場合の相談窓口を紹介する一方、入院などに備えてペットを世話する人を事前に決めることなどを勧めている。
生活衛生課の松浦和子課長は「動物も家族と考えるお年寄りは多い。関係部局が連携し、地域で見守りたい」と話す。
東京都杉並区と協力し、動物福祉に取り組むボランティア「杉並どうぶつ相談員」の目黒美佳さんは、自身の伯父の経験からペットの早めの譲渡や高齢者ならではの飼い方を提案する。
伯父は87歳で犬を飼い始め、90歳で妻を亡くして要介護1に。
それでも愛犬を手放したがらなかったが、部屋が犬のふんだらけなのに気付いた目黒さんが「犬もストレスがたまっているよ」と説得。
ようやく目黒さんの知人へ譲った。
伯父はその後要介護5になり、半年後に亡くなった。
新たな飼い主から送られた犬の写真などは最期まで大切にしていた。
目黒さんは「87歳の人に犬を売るペット店もおかしいが、動物保護団体などが譲渡会で『60歳以上には譲らない』と自主規制しているのも残念」と話す。
ペットを飼いたい高齢者は、保護団体が運営する一時預かり所に入りきらない犬を短期間預かるなど「両者にとって良い方法が採れるといい」と提案する。
第一生命経済研究所の北村安樹子主任研究員は「(飼い主の死後などにペットのため金銭を使ってもらう)ペット信託や老犬・老猫ホームが注目されつつあるが、まだ選べるほどの数はない」と指摘。
高齢者のペットを対象に譲渡先をあっせんする獣医師のネットワーク「VESENA」(東京)事務局も「08年に設立したが、まだ獣医師の会員が少なく十分に対応できていない」と話す。
「高齢者と動物の問題は(救援の)制度や分野の隙間に陥っている」と向主任研究員。
今後は、相談窓口の開設や専門家の連携に加え「高齢者施設と動物保護施設の併設、ペットと高齢者を軸としたまちづくりが進んでほしい」と期待を込めた。

◆訪問セラピー犬「生きる力に」

ドッグカフェで、セラピー犬「ロッキー」に笑いかける小松利勝さん=東京都町田市で

相模原市のセラピードッグトレーナー座間和美さん(50)は月一回ほど、ラブラドルレトリバーの「ロッキー」と、在宅介護生活を送る小松利勝さん(70)を訪ねる。
この日は妻明子さん(65)も一緒に近所のドッグカフェへ。
右半身不随のため、左手でドッグフードを差し出す小松さんを見て、明子さんは「いつもより優しい笑顔ね」と笑った。
座間さんはグループで介護施設を訪れる「アニマルセラピー」にも参加しているが、この訪問は個人的なボランティア。
犬好きだが今は飼えない小松さんと、「ロッキーの優しさを分かち合いたい」と言う。
愛知県武豊町の「よかった工房 生きがい作りデイサービス」は、毎週月曜がセラピー犬の集まる「ワンちゃんデイ」。
運営者でケアマネジャーの谷川(たにかわ)一成さん(46)は「お年寄りに『あぁ生きていて良かった』と思ってほしいと始めた。皆さん生き生きしています」。
高齢者と動物の関係には、こんな形もある。
(竹上順子)


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