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飼い主の高齢化でペットの世話ができなくなる前に

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「猫のオシッコが出にくいの。でも私は腰が痛くて」
 飼い主の高齢化でペットの世話ができなくなる前に

2022年1月13日(木) 石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師

去年の年末にYahoo!ニュースオリジナルで高齢の飼い主がペットの世話をできなくなったら――人と動物が最後まで幸せに暮らすために準備すべきことという記事が掲載されました。
筆者は小動物臨床の現場で、飼い主が高齢になりペットの世話が思うようにできないという問題を見ています。
そのことを踏まえて、2030年までの人口動向の推移を見ながらペットの飼育崩壊について考えてみましょう。


(写真:アフロ)

◆介護ヘルパーさんがボランティアで猫を連れてくる
犬や猫は家族の一員と言われていますが、介護保険はペットの世話は対象外です。
もちろん、ペットシッターさんなどに頼むということもできますが、経済的に難しいこともあります。
ひとり暮らしの高齢者が思うように体が動かなくなると、ペットの面倒をみられなくなるのです。
実際に病院であった話を紹介します。
いわゆる街にいる猫おばさん的な飼い主・Nさんは、近所の野良猫がけがをしたり具合が悪くなったりしたら連れて来る人でした。
Nさんから以下のように電話がかかってきました。
「先生、うちの子、どうもオシッコが出にくいみたいで、トイレに入ったままなのよ。ヘルパーさんが猫好きな人なので、勤務が終わったら連れて行ってもらうので、よろしくお願いいたします。私は腰が痛くて、猫を連れていけないの」 ということでした。
その猫の病気は、下部尿路疾患で尿道結石のためにオシッコが出にくいというものです。
早期に治療をすれば、完治をしますが、治療をしないと命にかかわる病気です。
猫は、猫好きなヘルパーさんの善意で完治するまで、動物病院に連れてきてくださったので、完治しました。
これから、高齢者が増える日本で、このように介護ヘルパーさんの善意だけに頼っていいのでしょうか?
このようなことは、珍しいことではないことが人口動向の推移でわかっています。それを見ていきましょう。


(写真:アフロ)

◆わが国の2030年の人口動向の推移とは?
2020 年(令和2年)の日本の人口は1億2622万7千人です。
2030年には1億1662万人、2060年には8674万人にまで減少すると見込まれています。
そして、生産年齢人口は2030年には6773万人、2060年には4418万人にまで減少すると見込まれています。
具体的に2020年と2030年の日本の人口動向の推移を上の表から読み解いてみます。


第1節 わが国経済とこれを取り巻く環境 サイトより

0歳~14歳(千人)       12038.657(14567.97 2020年度)
15歳~64歳(千人)   67729.743(73408.16 2020年度)
65歳以上(千人)    36849.258(36123.80 2020年度)

年少率 (%)    10.3(11.7 2020年度)
高齢化率(%)       31.6(29.1 2020年度)
生産年齢人口率(%) 58.1(59.2 2020年度)

大雑把に2030年までの人口推移を説明しますと以下になります。
・人口減少
・高齢化がますます進む
・生産人口率が低くなる
などが表からわかります。

◆2030年までの人口動向の推移からなにがペット飼育に問題か?

一般社団法人 ペットフード協会 令和2年全体犬猫飼育調査より


一般社団法人 ペットフード協会 令和2年全体犬猫飼育調査より

2022年の現在でも小動物の臨床現場にいると、治療に訪れる人は、上のグラフの緑の部分に当たる30代後半から60歳までの飼い主が圧倒的に多いです。
65歳以上の人があまりペットを飼っていないのかという状態が動物病院に起こっています。
それでは、65歳以上の人はペットを飼っていないのでしょうか?
上の表から見ると、2020年で犬では60代の18.3%、70代の14.8%が飼育して、猫では60代の10.2%、70代の7.6%が飼育しています。
65歳を過ぎても犬や猫を飼っていることがわかります。
なぜ、診察室に65歳以上の人があまり来ないか?
上述のデータを見ても65歳以上の人が犬や猫を飼っていますが、それほど頻繫には動物病院に来られません。
65歳以上の人が飼っているペットはやはり高齢になっている場合が多いです。
その理由は、一般的には高齢になってからペットを購入することは少なく、たとえば50代に飼っていたペットが飼い主の年齢と同じように高齢になるケースが多いです。
猫や犬は、高齢になるほど慢性腎不全や心臓病やがんなどの病気が増えます。
それは、人医療と同じように高齢化に伴うことが多いのです。
でも、なぜ65歳以上の人があまり動物病院に来ないかは、以下の理由です。
・経済的な要因
動物病院は、人医療のような保険制度がありません。そのため、年金生活者になると高額になるペットの治療費を出しにくい。
・体が思うように動かず身体的な要因
犬や猫の具合が悪いのはわかるけれど、ケージに入れて犬や猫を動物病院に連れていく体力がない、猫を捕まえようとしてもうまくいかずなどの理由です。
・犬や猫の病気の発見が遅れるなどの認知症的な要因
飼い主が細かいところが見えにくく、腫瘍などの発見が遅れる、または飼い主の認知症が進み犬や猫の病気の発見ができなくなる。

◆高齢化社会に向けてペットをどうすれば?

(写真:アフロ)

日本では、近い将来、いまよりもっと高齢化社会が来ることが予想されています。
高齢者とペットの問題は深刻化するでしょう。
孤独な高齢者は、野良猫を家に連れて飼う傾向があります。
そして、飼い主の高齢化に伴い、猫の世話ができなくなり飼育崩壊が起きることが多くなるでしょう。
そのことを踏まえて、ボランティアのヘルパーさんに頼るのではなく、介護保険の中にペットの項目を作るなどの対策が必要です。
もちろん、財政的な問題で、ペットまで面倒を見られないということもあるでしょう。
将来を見据えて、なにか条件付きでもいいのです。
高齢者に飼われたペットが諸事情でネグレクト状態になるのはやはり問題です。

石井万寿美

まねき猫ホスピタル院長 獣医師
大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は栄養療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医師さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らす。


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