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人と動物が最後まで幸せに暮らすために準備すべきこと

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高齢の飼い主がペットの世話をできなくなったら――
 人と動物が最後まで幸せに暮らすために準備すべきこと

2021年12月30日(木)  

久しぶりに帰省したら、老親の愛犬が世話をされていない状態で――。
認知症や体力の衰え、入院などで、高齢の飼い主がペットを飼育できなくなったらどうするか。
一人暮らしの高齢者が増えるなか、介護の現場にも影響が出ている。
ペットの世話は介護保険の対象外なので、排泄物が始末されていない様子を目にしても、ヘルパーは手を出せない。
当事者や介護従事者、解決に向けて取り組む人たちを取材した。
(取材・文:篠藤ゆり/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)


(撮影:編集部)

◆遠方で暮らす認知症の母と8頭の犬
東京在住の佐々木薫さんは、6年前の「あの日」の光景が今も忘れられない。
九州で暮らす母親(当時85歳)に認知症の症状が出て、施設に入居することが決まったため、久しぶりに帰省。
リビングに足を踏み入れると、8つのケージが置かれ、中に1頭ずつ犬がいた。
以前から母親がボルゾイとイタリアングレーハウンド2頭、チワワ3頭を飼っていたのは知っていたが、いつの間にか2頭増えている。
しかもケージに閉じ込められた犬たちは、きちんと世話をされておらず、毛はボサボサ。
排泄物の始末もいい加減で、においもひどい。


搬送中の柴犬。抜けた毛が固まってくっついていた(写真提供:薫さん)

薫さんは当時をこう振り返る。
「母は本当に動物が好きで、ずっと犬を大事にしていたのでショックでした。このままにしておいたら、犬たちは保健所に送られかねない。そうなったらかわいそうだけど、どうしていいか分からなくて……。部屋の様子を動画と写真に撮り、いったん東京に戻りました」


新い飼い主のもと、すっかり元気になったチワワ(写真提供:薫さん)

友人、知人に実情を打ち明け、写真や動画を見せると、知人たちが「車で九州まで行くから、まずは助け出そう」と申し出てくれた。
準備をして実家に戻るとボルゾイは死亡していた。
7頭の犬を獣医師のもとに連れていくと、柴犬が重度のフィラリアにかかっていることが判明。
リードにつないで屋外に連れ出したら、戸惑って固まってしまう若い犬もいた。
生まれてから一度も散歩に連れていってもらっていないようだった。
九州で良心的な動物保護団体を探し、3頭を引き取ってもらった。
4頭の犬は東京に連れていき、東京の動物保護団体や知人のつてで譲渡成立。
それぞれ新しい飼い主のもとに引き取られた。
「母は70代の頃、寂しいから新たにチワワを飼いたいと言い出しました。当時は母とちょっと疎遠だったこともあり、本人に任せておいたんです。今思えば、母は孤独から動物に救いを求めたのかも。あの時、もっと母の気持ちを理解できていたら――。その年齢から犬を迎えても、最後まで面倒を見るのは無理だと説得するべきでした」

◆ペットの世話は介護保険の対象外。ヘルパーの思いは

介護福祉士の藤原るかさん(撮影:編集部)

自宅に訪問している介護ヘルパーやケアマネジャーが、世話されていないペットに遭遇するケースも少なくない。
介護保険の制度内のサービスと自己負担サービス、両方を行っている「NPO法人グレースケア機構」で介護福祉士を務める藤原るかさんに話を聞いた。
「あるお宅では、シェパードが大きなケージに入っていました。力が強いから、ほえながらケージごと動いて近づいてくる。するとケージについている便も一緒についてきて、床が汚れてしまうのです」
ある高齢者は認知症が進み、屋内に犬がいるのに認識できず、外で探し回っていた。
自宅近くの区役所のケースワーカーからその話を聞いた藤原さんは、親族の了承も得たうえでその犬を預かり、譲渡先を探した。


藤原さんが預かったクウちゃん。譲渡先は見つかった(写真提供:藤原さん)

ペットの世話は介護保険の対象外なので、原則としてヘルパーは手を出すことができない。
全額自己負担であれば、介護サービスの前後などに行うことも可能だ。
ただ、ヘルパーのなかには、飼い主の自己負担が難しく、ボランティアでエサを買いに行ったり、排泄物の掃除をしたりしている人もいる。
「ボランティアではヘルパーの負担も大きいし、根本的な解決にはなりません。例えばドイツの介護保険には現金給付も含まれていて、それをペットの世話にあてることも可能です。条件付きでもいいから、日本でも認めてほしい」
グレースケア機構は、自費サービスでペットケアを一部受け入れてきたが、いずれペット事業部を設けることを視野に入れ、準備会を立ち上げた。
「この冬は久しぶりに帰省される方も多いでしょう。親の体力や認知能力が変化していないか、ペットの状態が悪くなっていないか、少し見ただけでは分からない場合もあります。毛がちゃんとブラッシングされているかなど、観察してみるとよいかもしれません」

◆転倒リスクを散歩代行サービスで回避する

散歩代行中の丹羽さん(撮影:編集部)

高齢者によるペットの世話には思わぬリスクもある。
犬の散歩中に転んで骨折してしまい、それをきっかけに要介護となることも。
そのまま高齢者施設に移行し、ペットを家族が引き取れず譲渡先が見つからなければ、最悪の場合には殺処分されるケースもある。
転倒を防ぐ方法の一つが、散歩代行だ。
散歩代行などのペットケアサービスを提供している「おさんぽWan」(東京)を訪ねた。
散歩代行料金は犬の大きさによっても違うが、1回30分で2000円前後だ。
代表の丹羽やすまささんが定期的に散歩を代行している高齢者の飼い犬は5頭ほど。
そのうちの1頭が、87歳になる高橋好子さんが飼っている柴犬のさくらちゃん(7歳)だ。


高橋さんとさくらちゃん(撮影:編集部)

高橋さんは息子一家と暮らし、朝の散歩は息子の担当だ。
午後は息子家族に負担をかけないよう、散歩代行を丹羽さんに依頼している。
高橋さんはこう話す。
「いつも犬を飼っていましたから、いない生活は考えられないんです。去年までは自分で散歩に連れていっていたんですけど、腰椎圧迫骨折をして、足腰が弱っちゃって。散歩に行けなくなりました」
「さくらちゃんは私の相棒です」という高橋さん。
夜は一緒の布団で寝ている。
夢はリハビリをがんばって、もう一度一緒に散歩に行くことだ。
高橋さんの場合、本人が丹羽さんに頼むことができたが、飼い主の子どもが依頼主のケースもある。
丹羽さんはこう言う。
「犬の散歩は毎日必要ですし、犬がけがや病気で動物病院にかかることもあり、医療費が必要です。場合によっては子どもに経済的負担がかかる事態を、飼い主さんが想像していないこともありますね」

◆人間の福祉と動物の福祉を両立させるために

さくらちゃん(撮影:編集部)

行政とボランティアが連携して問題に取り組んでいる自治体がある。
「かわさき高齢者とペットの問題研究会」は、かわさき犬・猫愛護ボランティアの有志が2015年に設立。
メンバーには行政書士、介護福祉の関係者、大学教授や研究者など、各方面の専門家がいる。
また、行政の職員がアドバイザーとして参画、協働している。
研究会の渡辺昭代さんはこう語る。
「愛護ボランティアの活動をするなかで、この数年、高齢者とペットの問題が顕在化してきました。困っているという話があちこちから耳に入るようになったんです。人間の福祉と動物の福祉を両立させるには、愛護活動の当事者、人間の福祉にかかわる人、包括支援センター、行政などが一体にならないと物事が進みません。ケアマネさんやヘルパーさんがペットの問題に気づくことも多く、包括支援センターの方たちは、私たちより早く情報をつかめる。その情報をお互いに共有して、問題解決のために取り組んでいます」


リーフレット「残されたペットのためにあなたができること」(撮影:編集部)

高齢者のペットを保護する際に障壁となるのは、ペットが法的に「個人の財産」とみなされる点だ。
急な入院や死亡など、飼い主の不在で動物が弱っていても、本人か身内の同意がなければ手を出すことができない。
認知症の場合も、本人が「この子とは別れない」と主張すると、たとえ飼育放棄状態でも救うことが難しい。
そこで「かわさき高齢者とペットの問題研究会」では、不測の事態に備え、飼い主の意思表示の契約書にもなるリーフレット「残されたペットのためにあなたができること」を作成した。
法的効力はないものの、飼い主が最後まで飼育責任を持つように啓発している。
「高齢化は進み、独居の方も増えています。孤独から動物を求める人も多く、問題は深刻化していくでしょう。高齢者がどう社会と結びついていくのか、孤独にしないためにはどうしたらいいのか、社会全体として考えていかなければいけないと思います」

◆飼い始めるのは何歳まで? 「自分は元気」と思っても

「Hope to Life チームZERO」の峰昌姫さんが2018年に引き取ったヨークシャーテリア(写真提供:峰さん)

約20年にわたって動物保護活動を続けている「Hope to Life チームZERO」代表の峰昌姫さんは、しばしば切羽詰まった状況での判断を迫られる。
「2018年11月、地域包括支援センターの方から電話がありました。利用者さんが急遽施設に入ることになり、行き場のない犬がいる、と。時間の猶予がないので、とりあえず駆けつけて引き取りました」
引き取ったからといって、すぐに譲渡先が見つかるわけではない。
「飼い主が高齢者の場合、犬や猫も高齢の場合が多く、なかなか譲渡に結びつかないことがあります。愛護団体は犬猫の譲渡先が見つからない場合、自分たちが飼育者にならざるを得ない。ですから、無責任に全て引き取るわけにはいかないのです」


峰さんが保護した生後2カ月の子猫。宮崎県から来た(撮影:編集部)

60、70代の人から、犬や猫を譲渡してもらえないかという問い合わせもある。
定年退職後、時間ができたからペットを飼いたい。
犬の散歩は健康に役立つ。
そういう声もある。
だが、「自分はまだ元気」と思っていても、年を重ねればいつ何があるか分からない。
「私は55歳以上の人には、原則、子猫を譲渡しないことにしています。55歳以上の方に『5歳くらいの猫はどうですか?』と聞くと、やっぱり子猫がいいと言う。でも75歳になった時、その人が元気かどうかは分かりません」
一般社団法人ペットフード協会が発表した「令和3年 全国犬猫飼育実態調査」によると、犬全体の平均寿命は14.65歳、猫全体は15.66歳。
20年生きる猫も珍しくはない。
自分の年齢に20年を足した時、その時点で責任を持って飼える状態かどうか、よく考える必要があるだろう。

◆自分がもし面倒を見られなくなったら――

峰さんが保護した生後6カ月の猫(撮影:編集部)

ペットと人間の関係について研究している帝京科学大学生命環境学部の濱野佐代子准教授は、高齢者がペットを飼うことは、決して悪いことではないと言う。
「孤独感が軽減されますし、ペットを通じて社会とつながることもできる。ただ、面倒を見られなくなった場合の準備はしておくべきです。ペットを飼っている高齢者に自分に何かあったらどうするか調査をしたところ、約6割の人が『同居の家族か離れて暮らしている家族がなんとかしてくれるだろう』と期待を持っていました。しかし『期待している』だけでは、実際にそうなるという保証はありません。もちろん、家族や知人と話し合って、いざという時の行き先を決めている人もいます。散歩で親しくなった犬友だちに、お金を渡して託すと決めている人もいました。それから、ペットが次の場所で幸せに暮らすためには、きちんとしつけをしておくことも重要ですね」


峰さんが保護した推定2歳の猫。譲渡先が決まった。「Hope to Life チームZERO」はホームページで里親を募集している(撮影:編集部)

具体的にどのような準備をしておけばいいのか。
取材に応じてくれた各所の意見をまとめると、以下のようなことが考えられる。
・飼えない状況になった場合に備えてペットを託せる人や場所を確保し、きちんと文章化しておく。
・困難が生じた際、知人やボランティア団体に相談できるか。情報をあらかじめ収集する。かかりつけの獣医師から情報を得られる場合も。
・ペットも高齢になると医療費などの費用がかかる。子どもや知人に引き取ってもらう場合、その費用も準備しておく。
・ペット信託などの制度を利用する。
年齢を重ねてから動物と暮らしたい場合は、動物保護団体と相談のうえ「預かりボランティア」という制度を利用する方法もある。
譲渡先が見つかったら別れなくてはいけないかわりに、自分に何かあった場合、引き取ってもらうこともできる。
人も動物も最後まで幸せな時間を過ごすために、どのような事態が起きるかを想像し、元気なうちから準備しておくことが飼い主の責任といえるだろう。


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