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日本はなぜ、フランスのように動物愛護法で犬猫を守れないのか

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日本はなぜ、フランスのように動物愛護法で犬猫を守れないのか
 繰り返される政争〈dot.〉

2021年12月5日(日) AERA dot.

冷たい雨が降っていた9月2日、長野県松本市内の山中にある繁殖業者「アニマル桃太郎」の繁殖場では早朝から、長野県警の捜査員らによる家宅捜索が行われていた。
2階建ての建屋の中には、繁殖用の犬約500匹が狭いケージに詰め込まれていた。
犬たちの激しい鳴き声が響き渡る中、トイプードルやポメラニアン、柴犬などが次々に運び出されてくる。
遠目にも、多くが薄汚れていて、長毛種では体が毛玉に覆われているものもいるのがわかる。
防護服に身を包んで出入りする捜査員の一人は、「中は臭くて息ができない。吐きそうだ」と話した。
同県警は11月4日、十数年以上前から犬の繁殖業を営んでいた男ら2人を動物愛護法違反(虐待)容疑で逮捕した。
劣悪な環境で衰弱させたり、病気になったのに適切な処置をしなかったりして362匹を虐待した疑いがある。
男らは、市内2カ所で計約1千匹を飼育し、繁殖した子犬を埼玉県内のペットオークション(競り市)を利用してペットショップに販売していたという。
フランスで11月18日、2024年以降にペットショップでの犬猫の販売を禁じる動物愛護法が成立した。
一方で日本では、アニマル桃太郎のような劣悪な繁殖業者が長く営業を続け、そこで繁殖された子犬や子猫が全国のペットショップで売られている。


長野県の「アニマル桃太郎」繁殖場で保護された犬たち(撮影・太田匡彦)

日本でも、繁殖業者やペットショップに対する規制の強化は、過去4回の動物愛護法改正のたびに議論されてきた。
だが、ペット関連の業界団体の激しい抵抗により、思うように規制強化が進んでこなかった現実がある。


繁殖場で保護された丸刈りにされた犬

12年の動物愛護法改正の際には、幼すぎる子犬・子猫の心身の健康を守るため、生後56日を超えるまで販売を禁じる「8週齢規制」の導入が検討された。
8週齢規制には、ペットショップでの販売状況を適正化する効果も期待されていた。
子犬・子猫にぬいぐるみのようなかわいさがあるとされる生後40~50日ごろにショップ店頭に陳列できなくなり、消費者の衝動買いを抑制できる。
離乳後も一定期間、繁殖業者のもとで飼育しなければならないため、人手やスペースの問題から、これまでのような大量繁殖はしにくくなるとも見られている。
米、英、フランス、ドイツなど欧米先進国の多くで以前から導入されていた。
特に英国イングランドでは20年から、生後6カ月未満の子犬・子猫を大手業者が売買するのを原則禁止。
実質的にペットショップでの展示販売を困難なものにすると、期待されている。
日本でも子犬・子猫の大量繁殖、大量販売が行いにくくなると危機感を募らせたペット業界は強く反発した。
このときの改正では結局、動物愛護法の本則に8週齢規制が盛り込まれたのだが、二つの「附則」がつけられ、「骨抜き」にされてしまった。
法律上は8週齢規制が実現したはずなのに、附則により、販売禁止の期間が当初3年間は生後45日まで、4年目からは生後49日までとされたのだ。
しかも、「別に法律で定める」ことがない限り、販売禁止期間は56日にはならない。
「全国ペット協会」や「ペットフード協会」、「ジャパンケネルクラブ」などの業界団体が一致団結してこぞって反対。
政治家らに強く働きかけた結果だった。
19年の4度目の動物愛護法改正の際にも、ペット関連の業界団体は積極的に動いた。
このときのテーマは大きく二つ。
8週齢規制の完全実施と、ペットショップや繁殖業者の飼育環境について数値を盛り込んだ具体的な規制(数値規制)を導入することだった。
ペット業界は、ペットフード協会の石山恒会長(当時)が中心となって16年、全国ペット協会など10団体とアニコム損害保険など業界関連企業6社(いずれも当時)による新団体「犬猫適正飼養推進協議会」を設立。
人と資金を結集して規制強化に反対した。
一方、超党派の「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」(会長=尾辻秀久参院議員)が中心となって改正案を取りまとめていく過程で、演出家の宮本亞門さんや音楽評論家の湯川れい子さん、俳優の浅田美代子さん、とよた真帆さん、杉本彩さん、ミュージシャンの世良公則さんら影響力のある著名人が次々と規制の重要性を発信。
社会的に、規制導入を後押しする声が高まった。
こうした流れを受けて、19年に入るとペットショップチェーン大手のコジマやAHB、ペッツファーストが次々と規制に賛成の姿勢を表明。
マイクロチップ装着義務化を目指していた日本獣医師会も、8週齢規制容認に転じた。
ペット業界側も自民党の政治家に多額の献金をするなどして働きかけを強めたが、19年6月、改正動物愛護法が成立。
環境省令による数値規制導入が実現することとなり、8週齢規制の附則も削除された。
ただ「どんでん返し」もあった。
8週齢規制について、岸信夫衆院議員が会長(当時)を務める「日本犬保存会」と遠藤敬衆院議員が会長を務める「秋田犬保存会」が反対の姿勢を堅持。
法案を取りまとめる最後の段階で、超党派議連側が譲る形で、柴犬や秋田犬など日本犬6種についてだけ、生後49日を超えれば繁殖業者が消費者に直接販売できるよう、またも「附則」がつけられてしまった。
犬猫適正飼養推進協議会は法改正後も粘った。
数値規制の具体的な内容は省令で定めることになったため、今度は、その規制水準を巡ってロビー活動を始めた。
19年11月、中央環境審議会動物愛護部会に出席した石山会長は、犬の寝床の大きさとして「高さ=体高×1・3」「幅=体高×1・1」という、犬がほとんど身動きできない数値を主張するなど激しく抵抗。
「犬や猫に携わる多くの人々の営みに重大な影響を及ぼす」などとして、政治家に働きかけたり、複数のメディアに意見広告を掲載したりした。
こうしたなかで環境省は昨年、英国やドイツ、フランスなどの規制のあり方を参考にしつつ、国内の動物行動学の専門家からの知見を集めて、省令を取りまとめた。
従業員1人あたりの上限飼育数を繁殖用の犬では15匹、猫では25匹までとし、メスを交配に使えるのは原則6歳までにするなど、一定の前進は見られた。
ただ、特に問題視されていた、繁殖業者が狭いケージに入れっぱなしにする詰め込み飼育への対策としては、平飼い用ケージの面積を体長30センチの犬なら最低「1・62平方メートル」とし、そこに2匹まで入れられるという内容になった。
すべての犬の飼い主を対象に規制を定めるドイツでは、体高50センチまでの小型犬用の平飼いケージの広さは、1匹あたり最低「6平方メートル」と規定。
また、業者を規制対象とするフランスでは、犬1匹あたり最低「5平方メートル」だ。
日本の規制は、これらの半分にも満たない。
さらに交配の上限年齢やケージの面積(容積)については、施行までに1年の猶予期間を設定。
従業員1人あたりの上限飼育数に至っては、完全施行を24年6月まで先送りした。
ペット業界への影響を考慮した結果だ。
そのうえ環境省は、従業員の数え方に関して法定労働時間(1日8時間、週40時間)を持ち出し、その時間内で2人以上の職員が週に計80時間労働すれば、30匹の繁殖犬を飼育することが可能だとした。
仮に、Aさんが1日8時間×5日(週40時間)、Bさんが1日4時間×5日(週20時間)、Cさんが1日4時間×5日(週20時間)働くとする。
ある1日を切り出してみれば、Aさん1人で30匹の繁殖犬の面倒を見ている日もあれば、午前中4時間はBさん1人、午後の4時間はCさん1人で引き継ぐ日もありうる。
環境省動物愛護管理室は「1人しかいない状態は望ましくない。勤務が偏っているような業者があれば、自治体は指導してほしい」としているが、「保育士の配置基準などと比べ、明らかに変則的な解釈」(細川敦史弁護士)になっている。
ペット関連の業界団体の力が強い日本において、19年の動物愛護法改正は、大きな前進だったことは確かだ。
だがそれでも、フランスをはじめとする欧米先進国のように、ペットショップにおける大量販売、ひいては繁殖業者による大量生産を困難にし、優良な繁殖業者(ブリーダー)からの直売に誘導していこうとするほどの規制水準にはならなかった――というのが現実だ。
8週齢規制も数値を盛り込んだ新省令も今年6月に施行されている(新省令の一部を除く)。
これらの規制をもってしても繁殖業者やペットショップによる飼育環境が改善されなければ、次の動物愛護法改正では、繁殖業について許可制導入が視野に入ってくると考えられる。
消費者の意識の高まりが、不買運動などにつながる可能性も否定はできない。
その先には、今回フランスが決断したような、ペットショップでの犬猫の販売禁止が議論の俎上(そじょう)にのることもあるかもしれない。
一方でペット業界も、巻き返しをはかってくるだろう。
今年春以降、競り市の業界団体「ペットパーク流通協会」や一部の大手ペットショップチェーンなどが、自民党を支持する職域団体結成の動きを見せている。
入会を呼びかける文書を入手すると、そこには「次回の法改正に向けて、ペット業界も(中略)政治的な活動が可能な組織を、検討しております」「これ以上の不利益な法律になることは避けなければなりません」「建設業や医療、保育、理容業などに続く、全国組織を形成していきます」などと書かれていた。
動物愛護法は施行後5年をめどに、見直しが行われる。
5度目の改正に向けた議論は、早ければ24年にも始まると見られる。

 (朝日新聞 文化くらし報道部 太田匡彦)

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