ペットを通じ「思いやりの心」育てたい、兵庫のNPO 21年目の思い
2021年11月29日(月) alterna
行き場のない犬や猫を引き取り、新たな飼い主を見つける保護活動を続けながら、ペットを正しく理解し飼育する人を増やしたいとしつけやトレーニングに関する情報発信にも力を入れてきたNPOがあります。
さらにトレーニングを通じてペットと築かれた信頼関係をもとに、いのちの大切さも伝えてきました。
「思いやりの心を育てたい」。活動への思いを聞きました。
(JAMMIN=山本 めぐみ)
◆活動開始から21年、人とペットのより良い暮らしのために
スタッフさんに体を拭いてもらう「ヨーゼフ」くん。飼い主さんの事情により、生後1歳半で保護された。こうやって体を預けられるのも、信頼関係が築かれているからこそ
兵庫県西宮市でペットとの共生、いのちの大切さを発信している認定NPO法人「ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン(PFLJ)」。
2000年に活動をスタートし、今年で21年を迎えます。
今年7月には認定NPOを取得。事務局長の石本理佐子(いしもと・りさこ)さん(34)は「より多くの方に向けて、公益性の高い、私たちならではの情報を発信していきたい」と話します。
お話をお伺いした石本さん。保護犬たちと
昨年からの新型コロナウイルスの流行によって、しつけ教室やセラピー活動などのイベントが軒並みキャンセルに。
小学校や保育園を訪問し、犬と触れてもらうことでいのちの大切さを伝えてきた「いのちの授業」も対面での開催が難しくなりました。
非対面のかたちで何とか情報を発信したいと、クラウドファンディングで資金を集め、いのちの大切さを伝える動画の制作を進めています。
◆良い関係のために、「人間として置き換えてみる」
保護犬のトレーニング表。「ハウス」「アイコンタクト」「お手&おかわり」などの項目があり、保護犬たちは日々楽しくトレーニングに励んでいる
「今はペットを理解しきれていないことが本当に多いと感じています」と石本さん。
「お互いを理解できるようになって初めて、互いの幸せが実現できるのではないでしょうか。正しいしつけが、お互いの豊かな関係を築いてくれる。犬の言葉を正しく理解してほしい」と話します。
「たとえば、飼い主さんが犬の顔まわりを『よしよし』とペチペチと触ることがありますが、犬の気持ちになってみてください。あまり良い気持ちはしていないと思うんです。言葉と手があって初めて『飼い主さんから褒められている』と認識します。顔を触わるだけでは、自分は褒められているんだというふうにつながらないんですね」
「しつけ教室では『自分の子どもに例えてみてください』とお伝えしているのですが、お子さんを褒める際、黙って顔だけペチペチすることはしませんよね。笑顔や声、ボディタッチ、これら全部セットになっていると思うんです」
しつけ教室の様子。「PFLJのしつけ教室では人と暮らすために必要なしつけや問題行動に対処するための内容を学びます」
「犬と接する時、すべて人間として置き換えてみるとよくわかります。撫で方ひとつをとっても、頭をワシャワシャされるのと、ゆっくりやさしく撫でられるのと、皆さんはどちらが嬉しいでしょうか。頭をワシャワシャされると髪の毛が乱れるとか落ち着かないという方もいるし、ポンポンとやさしく触ってもらったり撫でてもらったりした方が心地よく感じる方もいるかもしれません」
「ベースとしての知識があれば、あとは飼っている犬の性格に合わせて、どんなふうに触られたらうれしいのかは飼い主さんにしかわからないことでもあるし、性格を見極めながら接してあげてほしいと思います。相手が人間だったらそんなことないのに、いざペット相手になった時に人の態度が変わることがあって、そこはできるだけ避けられたら良いのかなと思っています」
◆「信頼関係を築くこと」が何より大切
「お手」のトレーニング。「お手」は、お互いのコミュニケーションにとって非常に大切だという
「しつけと聞くと、吠えないとかお利口にするとか、さまざまなイメージがあると思いますが、大事なことは『信頼関係を築くこと』」と石本さん。
「しつけ教室では『お手』を大切にしています。単なるひとつの芸ととらえられがちですが、実は『お手』は非常に重要。『お手』で犬が人に預ける肉球は、血管が集中した非常大切な部位です。敏感な犬にとっては触られるのが嫌な場所でもあります」
「だからこそ、この部分をあえて人に預けるという動作をとることは、飼い主を信頼し、信頼関係を築くことにつながるのです。室内で犬を飼うことがスタンダードになりましたが、外出から戻った時に足を拭いてあげたい、まめに爪を切ってあげたいという飼い主さんも少なくありません。そんな時のためにも『お手』は重要なのです」
石本さんと愛犬の「ジェミニ」ちゃん。ジェミニちゃんは10歳。もともとは段ボール箱に入れられて捨てられていたところを団体に保護された犬で、今では石本さんの大切なパートナー
「せっかく触れ合いを求めて犬を飼ったのに、犬の習性を知らないと、『家族なのに、これをしてあげたいのになぜ嫌がるんだ』ということが起きてしまいがちです。そしてどこかで関係に歪みができてしまいます」
「何かあった時に『自分はこう思ってやっているけど、犬はもしかすると嫌がっているんじゃないか、相手のことを正しく理解できていないんじゃないか』と、一人よがりにならずパートナーとしての姿勢、犬の言葉を正しく理解しようとする姿勢はとても大切です」
◆ペットを架け橋に、人の生活を豊かに
施設には保護猫も。こちらは「シェリ」ちゃん。「生まれて間もない時にカラスに目を突かれたのか、目はほぼ見えていない」とのことですが、他の猫と一緒に、キャットタワーや壁に軽快によじ登って楽しそうに遊んでいました
これまでは行き場を失った犬猫を保護するシェルターとしての役割がメインでしたが、今後はペットの力を借りつつ、これまでの経験を生かして、人を豊かに幸せにする福祉の分野での活動に力を入れていきたいと石本さんは話します。
「たとえば、この8月にここに来た保護犬・セントバーナードの『ヨーゼフ』くんは、この大きさなのでお散歩中もかなり目をひいて、近所に住むご高齢の方や小学校の警備員さんと仲良くなっていたり…、いろんなところで友達を作っているんです」
ヨーゼフくんは、近所の保育園の子どもたちにも大人気。お散歩の途中、みんな窓越しにヨーゼフくんを興味しんしん。ヨーゼフくんが動くたびにわーっと歓声が上がり、ヨーゼフくんも嬉しそう。窓越しの交流を楽しみます
「ヨーゼフくんに触れた方から『おかげで今日1日幸せやわ』『今日も頑張れるわ』と言っていただくこともあって。ペットは私たちに癒ししかくれない存在です。だから、保護施設としてだけではなく、この触れ合いを通じて、人の生活をより良く、豊かにするお手伝いができたらと思っています」
「ペッツ・フォー・ライフという団体名の通り、私たちの活動は『ペットは一生の友、ペットをひとつの架け橋に、彼らの力を借りて、人の生活をより良くしたい』という思いからスタートしました。そのためには、彼らのことも理解しないといけません」
◆「ペットを通じ、思いやりの心を育みたい」
子どもたちが犬に絵本を読み聞かせる「READプログラム」。「読み間違えても、小さな声でも、犬は笑ったり間違いを指摘したりせず、そばで落ち着いて子どもたちの声を聴きます」
「保護活動の傍ら開催してきたしつけ教室やいのちの授業、セラピードッグ活動などはすべて、『思いやりの心を育みたい』という思いで続けてきました」と石本さん。
「警視庁が公表している『動物虐待事犯統計』によると、全国の警察が2019年に摘発した動物愛護法違反容疑の件数は105件、検挙人数126人と統計のある2010年以降最多となりました。動物の遺棄が最も多く、そのほかには食事を与えず不衛生な環境での飼育や殺傷行為などがあります」
「地域の教育活動にも参加し、中学生を対象にしたプログラムの受け入れも積極的に行っています。今年は2つの中学校に訪問し、私たちの仕事の内容やしつけの大切さを伝え、体験学習もしてもらいました」
「動物虐待が、犯罪や家庭内暴力など人間に対する暴力の予兆としてあるともいわれています。もともと団体立ち上げの主旨として、動物と触れ合い、いのちの大切さ伝えることで、犯罪を減らし、よりよい暮らしにつなげていきたいという思いがありました。ペットを通じて思いやりの心を育むことは、私たちの大きな使命だと考えています」
「言葉を通じないペットを相手に思いを馳せることで、相手が人に変わった時にも、思いやりの気持ちを持って接してほしい。将来の担い手である子どもたちに、少しでもいのちの大切さや慈しみを伝えたい。それはもしかしたら、10伝えて0.5感じてもらえるぐらいのこともかもしれませんが、それでも何か一粒、種を落とすことができたらと思っています」
山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は360を超え、チャリティー総額は6,000万円を突破しました。