難病を宣告された猫、腎不全末期…
「これ以上苦しめられない」延命治療を止めた保護猫カフェ店主の思い
2021年10月25日(月)
大阪市大正区の保護猫カフェ「NyankoCafe(以下、にゃんこカフェ)」で暮らしてきた雌猫のマリモちゃん。
9月下旬、カフェのスタッフや猫、常連客らが見守る中、虹の橋に旅立ちました。
大阪市大正区の保護猫カフェ「NyankoCafe(にゃんこカフェ)」で暮らしてきた雌猫のマリモちゃん。9月下旬、虹の橋に旅立った(田中さん提供)
マリモちゃんは、8月に致死率の高い猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症。
腎不全も患いながら闘病していましたが、治療で痛そうな顔をするマリモちゃんを見かねたカフェ店主さんは延命治療を止め、肉体的・精神的苦痛を和らげるために行われる「ターミナルケア(終末期医療・看護)」を選んだといいます。
ターミナルケアを決意した経緯やその思いについて、「にゃんこカフェ」店主の田中久美子さんにお話を伺いました。
◆神戸の多頭飼育崩壊から猫たちをレスキュー 2018年に保護猫カフェをオープン
田中さんは、神戸市で起きた多頭飼育崩壊によって行き場を失った猫約30匹を保護して2018年4月に「にゃんこカフェ」をオープン。
その中の1匹がマリモちゃんでした。
神戸市で起きた多頭飼育崩壊現場。田中さんは行き場を失った猫約30匹を保護して「にゃんこカフェ」をオープンした(田中さん提供)
「正直保護した当初のことは、覚えてないんです。多頭飼育されていたお宅の家は神戸の山手にあり、私は大阪から神戸まで通いながら保護に乗り出しました。遅くなるとイノシシが5~6頭群れをなして出るため、日が暮れるまでに掃除を終わらせる必要があり、必死でした。 カフェに連れて来てからも、マリモより前に出てくる人懐っこい猫がいて、そのころの彼女はそういったタイプではなかったため、そこまで気に掛けてなかったんです。お店は見切り発車でスタートしたため、オープンしてからもリフォームをしたり、資金繰りのために自身の仕事を増やしたりと、猫とゆっくりと向き合うことよりこれからどうやって運営していくのかと不安で頭がいっぱいで…。 年齢はどの子も全く分かりません。マリモは見た目がかわいいので若いかと思っていましたが、多頭飼育をされていた方に最近猫たちの年齢をお電話で伺ったところ、個別には覚えていらっしゃらず。ただ、半数の猫は『10歳は過ぎている』とのことでした」
カフェに来たばかりのころは、目立たなかったというマリモちゃん。
亡くなった当時、既に10歳を超える高齢猫だったようです。
そんなマリモちゃんに異変が起きたのは今年3月でした。
吐血をし、その際に血液検査をしたところ、腎不全と診断。
その後、毎日腎不全の薬やサプリを飲ませるなど治療をしていたといいます。
◆今年8月、カフェの猫2匹が難病のFIP発症 1匹は腎不全の雌猫だった
そして、半年ほど経った8月、カフェにいた雄猫トラくんの体調が優れず、もともと腎不全で調子の良くなかったマリモちゃんも一緒に病院へ連れて行ったときのこと。
2匹ともに猫伝染性腹膜炎(FIP)と宣告されたのです。
「2匹とも全く違う症状なのに、FIPなんて信じられませんでした。トラくんはまだ若く入院させ治療させようと思い先生に託しましたが、マリモは神経が細く繊細なため、入院させると余計食欲がなくなり、体力が弱るだろうと思い連れて帰りました。でもトラくんを助けることができず…打ちのめされる中、せめてマリモは高額な医療費を支払ったとしても助けたいと思いが強くなり、お薬を購入し治療にトライすることになったのです」
マリモちゃんのFIPの治療を始めたのは9月中旬ごろ。注射による投薬をすることになりました。
「病院の先生にも協力していただき、注射の打ち方なども教わりトライしましたが…どんどん食欲がなくなり、また注射がとても痛いようで目を細めて苦しい顔をするんです。見ていられなくて。このまま治療を続けるのがマリモのためなのかと考えた末、延命治療を止めました」
◆FIPの雄猫の死…雌猫も投薬を始めたが、腎不全末期と分かり延命治療の中止を決意
田中さんはマリモちゃんの延命治療を中止。
ターミナルケアに取り組むことを決意しました。
決断したきっかけは、思いのほか腎不全が進んでいたことだといいます。
「マリモの歯茎が白く膿(うみ)が出るようになって、病院で診てもらったところ、先生から『腎不全末期の子は歯茎が壊死することがある』と言われたんです。もうそこまで腎不全が進んでいるならば、FIPの治療が成功したとしても長くは生きられないだろうと思いました。 生きたいと思う子、良くなる望みのある子には、精一杯前向きな治療をしてあげたいと思いますが、そうでないなら猫が嫌がることをしてまで、私は延命を望みません。カフェのメンバーとも相談し、それならば、できるだけ穏やかに天国へ旅立たせてあげようと。そのためには、ある獣医師さんのブログに書かれていた動物の終末期の過ごさせ方として『体が食べ物を受け付けなくなって枯れるように旅立つ』ことがベストなのだと思ったんです。だから、注射による投薬だけではなく腎不全の治療である点滴も全て中止しました」
マリモちゃんが最期までできるだけ心地よく過ごせるようにと、なるべくカフェにいるようにしていたという田中さん。
とはいえ、大きな心の葛藤があったといいます。
「私ができたことはそばにいることくらいでした。してあげられることがないことほどつらいことはなくて。何かしたい、病院へ連れて行きたい、でも諦めてあげなければ、と葛藤しました」
そして…カフェの猫たちは命の期限を感じ取ったかのように最期まで入れ替わり立ち替わりマリモちゃんに寄り添い、そばにいたそうです。
◆静かに息を引き取った雌猫 カフェ店主「苦しめてまで延命を望まない」
亡くなる数日前。マリモちゃんが最期までできるだけ心地よく過ごせるようにと、なるべくカフェにいるようにしていたという(田中さん提供)
9月25日、マリモちゃんはカフェのスタッフや猫、常連客、ボランティアらが見守る中、静かに息を引き取りました。
猫たちや、カフェのスタッフに見守られ、息を引き取ったマリモちゃん(右)
生前のマリモちゃんについて「カフェにだいぶ慣れてからのマリモはよくくねくねしながら、『早く私をよしよししなさーい!』と訴えてくるなど女子力がとても高い女の子でした。嫌いな子には手厳しく、ビシバシとパンチをし、好きな子には思いっきりセクシーに迫り虜にさせるんです。皆でマリモの生き方を見習わなければ、なんてスタッフと話したりしたことが今では感慨深い思い出ですね」と振り返る田中さん。
延命治療を止めたことには「後悔していません。猫を苦しめてまで、私は延命を望みませんから。これからも、治療に苦しむなど諦めてあげた方が良いと思ったときは、できるだけ楽に天国へ導いてあげられるようにしてあげたいと思っています。とはいうものの、先にいってしまった子たちのことを思って、残された私たちの方が後を引きずりつらいものです」と話してくれました。
延命治療を止め、ターミナルケアを選択した田中さんは「猫を苦しめてまで、私は延命を望みません」と話す(田中さん提供)
◇ ◇
現在、カフェの猫たちの医療費への支援を求めて「READYFOR(レディーフォー)」にてクラウドファンディングにチャレンジする予定です。
【NyankoCafe(にゃんこカフェ)】
住所:大阪市大正区三軒屋西2-13-25 電話:06-6599-8473 営業日:土曜・日曜日のみ 営業時間:14:30~19:00(最終受付18:00)
マリモちゃんと仲が良かったというレンくん(右)。亡くなる直前、マリモちゃんに寄り添っていたという(田中さん提供)
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)
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