馬の殺処分は年間7千頭、「使い捨て」の現実 元騎手が始めた牧場
2021年10月16日(土) 朝日新聞社
年間7千頭の馬が殺処分されるなか、働きを終えた馬が余生を過ごす養老牧場は全国的にも少ない。
新潟県胎内市の「松原ステーブルス」は16年前から殺処分される競走馬などを引き取り、その最期をみとってきた。
今年からNPO法人化し、馬との触れ合いを通じ子どもたちに現状を知ってもらう取り組みを始めた。
体験乗馬の準備をする松原さん(左)=2021年5月19日午後2時8分、胎内市築地、友永翔大撮影
松原ステーブルスの厩舎(きゅうしゃ)では16頭の馬が余生を過ごす。
多くはけがが原因でレースに出られなくなったサラブレッドだが、ミニチュアホースや日本の在来種など様々な馬がいる。
馬に触れ、身近に接してもらおうと、厩舎(きゅうしゃ)の見学は無料だ。
前日までに予約すれば500円から体験乗馬もできる。
ただ、馬の健康が最優先、気温が30度を超えれば体験乗馬は休みだ。
牧場は、元騎手・調教師の松原正文さん(60)が2005年に始めた。
馬との触れあいを子どもの教育に生かそうと明星(あけぼし)泰崇さん(42)が運営を継ぎ、今年4月、NPO法人としての活動を始めた。
松原さんは馬の産地として知られる北海道日高町出身。
父は道産子(どさんこ)の馬とともに切り出した木材を山から運び出す「馬車追い」だった。
幼い頃から馬が身近だった松原さんにとって「馬は人と同等の存在」だ。
牧場を偶然訪れていた新潟県競馬の調教師にスカウトされ、16歳で競馬界へ飛び込んだ。
騎手として過ごす日々のなか、「けがや能力が無いばかりに殺処分される馬がいると知った」。
厩務(きゅうむ)員、調教師などを経て牧場を立ち上げた。
「現役時代に救えなかった馬を1頭でも救いたい」との思いだった。
これまで15頭をみとった。
体調が悪い馬がいれば昼夜を問わず付き添う。
手間がかかる割にはお金にならないため、馬の最期をみとる養老牧場は全国的にもまだ少ない。
松原さんは「競走馬が優勝すれば騎手や調教師には名誉が、馬券の購入者にはお金が入る。馬は人間に夢をくれる動物なのに使い捨てになっている」。
明星さんは、5年ほど前から粟島浦村で子どもたちに馬術を教えるNPO法人で活動していた。
その中で役目を終えた馬たちと一人で向き合う松原さんを知り、馬の殺処分に疑問を持つようになった。
「人間のエゴのために馬は殺されているのではないか」。
昨年9月、活動に本格的に加わるか悩んでいたころ、けがで走れなくなったサラブレッドを引き取ってほしいとの依頼が馬主からきた。
どうするか迷っていたところ、松原さんから「命を救いたいなら覚悟を決めろ」と言われた。
その場で馬を引き取ることを決めた。
以来、松原さんとともに、殺処分されそうな馬を救う活動に取り組んでいる。
今年4月、持続可能な活動にするため、NPO法人化し自ら代表に就き、専属のスタッフも雇った。
牧場近くの空き家を借り、馬と暮らす「うま友留学」も今年から始めた。
牧場スタッフとともに馬の飼育をすることで、将来馬に関わる職に就きたい人が飼育や馬との接し方などを学べる。
料金は1泊3千円程度。
牧場にはキャンプ用の敷地もあり、1団体2千円からテントを設置できる。
明星さんは「馬との触れあいを通して子どもたちに思いやりの心を学んでほしい」と話す。
牧場だけでなく、保育園や幼稚園へも出張する。
馬の現状を知ることで、いつか状況を変えるような子どもたちが育つことを期待している。
連絡先は松原ステーブルス(https://matsubarastables.webnode.jp/)へ。
(友永翔大)