【ABC特集】
一体誰が?
罪なき猫が犠牲に・・・2つの『動物虐待事件』
摘発件数も増加の一途
2021年5月6日(木) ABCニュース
虐待の矛先が動物たちに・・・
ステイホームの生活でペットを飼う人が増えている一方で、動物虐待事件の摘発件数も増加の一途をたどっています。
両脚に、大けがを負った猫・・・。
「手足を縛られて壊死して抜けて逃げてきたという状態です」
そして・・・前脚に罠をかけられた猫・・・。
「トラバサミがかかっているとなると、一刻を争う状態になるんで・・・」
一体誰が、なんのために?
抵抗できない動物ばかりを狙った、卑劣な犯行。
「猫に申し訳ないですよね。ただの被害者ですからね、猫は」
増え続ける動物虐待・・・2つの「猫虐待事件」を取材しました。
住宅の玄関前に捕獲機を仕掛ける『ねこから目線。』のスタッフ(大阪・門真市)
大阪府門真市の住宅街。
暗闇の中、ある1軒の家の玄関先に、大きな網を運ぶ人の姿が・・・。
「トラバサミが手にかかっている猫がごはんを食べにくるという相談をもらって・・・」
連絡を受けやってきたのは、猫の保護活動に取り組む『ねこから目線。』代表の小池英梨子さんとスタッフの2人。
傷ついた猫を保護するため、連絡をくれた女性の家に、捕獲器を設置するといいます。
ねこから目線。代表の小池英梨子さん
「トラバサミがかかっているとなると、かなり一刻を争う状態になるので・・・ひたすらその猫が来るまで張り込みます」(ねこから目線。代表 小池英梨子さん)
餌を用意し捕獲器の中へ。
トラバサミが挟まった猫が食べに来た瞬間に、数メートル離れた車の中から紐を引っ張り捕獲する作戦です。
トラバサミの罠に挟まった猫(発見した福本友美さん提供)
猫を発見した女性が撮影した写真・・・。
左前脚の先に・・・確かにトラバサミとみられる罠が食い込んでいます。
「(猫の)ごはんを置いていた所に、血が3ヵ所くらい落ちていました。写真を撮った時にアップで見たら、出血している感じではないが、がっつり(罠が)挟まっている感じ。とりあえず早く取ってあげたいという気持ちだけですかね」(トラバサミに挟まった猫を発見した福本友美さん)
トラバサミは、イノシシやシカを捕獲するための罠。
鳥獣保護管理法に基づき、許可された場合以外は使用が禁止されています。
現場は畑も山もない住宅街。
猫を傷つけるため、故意に仕掛けられた可能性があります。
肝心のけがをした猫は現れません
小池さんたちは、車の中で気配を消し猫が現れるのを待ちます。
餌につられ、数匹の野良猫が姿を見せます。
しかし、トラバサミを引きずっている猫は、なかなか現れません。
「重いものを引きずっているので、そんなに遠くまでいけない?」(記者)
「あまり遠くに行けないと思います」(小池さん)
近所で聞き込みをする『ねこから目線。』の小池さん
一刻も早く保護したい。
小池さんは静まりかえった街で1人、捜索を始めました。
「この辺で手にトラバサミが挟まった・・・」(小池さん)
「ちょっと待って、この前見たかも。なんかこっちから向こうに行ったの見ました。トラみたいな柄でしたっけ?」(住民)
「そうです、キジトラ」(小池さん)
「音立ててました。結構早かったから、そんな仕掛けやと思ってなくて」(住民)
他にも目撃証言があったものの、結局、猫は姿を現しませんでした。
動物虐待事件は無視できない数字に膨れ上がっています
昨年、全国で動物愛護管理法違反で摘発された動物虐待事件は102件。
10年前に比べて、その数は4倍近くにもなっています。
動物虐待は、確実に増えているのです。
飼育放棄された動物たちを保護するアニマルレスキューたんぽぽ(大阪・能勢町)
大阪府能勢町。
山あいにあるこの小さな町でも、猫への虐待とみられる事件が起こっていました。
町内にある動物保護施設『たんぽぽ』。
現在、捨てられるなどした犬や猫、約60匹が保護されています。
虐待され前脚が壊死してしまっている猫
代表の本田さんが見せてくれた1匹の猫。
「この子が虐待された猫です。(前脚が)腐って壊死して・・・毎日洗浄して壊死した部分の膿がなくなってきたら切断手術して」(本田さん)
猫が保護された直後の写真を見ると、長時間、前脚を縛られていた形跡があり、細菌に感染したのか、壊死していました。
さらに、体中を接着剤で固められたような形跡もあったといいます。
「本当に命の危機ですよね。最後の力を振り絞って逃げてきたと。ガリガリになって戻ってきて」(アニマルレスキューたんぽぽ代表 本田千晶さん)
発見された時の猫たち(『アニマルレスキューたんぽぽ』代表 本田千晶さん撮影)
その猫が発見されたという現場・・・。
そこで新たな事実を知ることになりました。
「たまたまここを通った時に、本当に骨と皮で極度の栄養失調の子が3匹くらい並んでいて、とりあえずご飯をあげようと思ってあげたら30~40匹がバッと出てきたので、びっくりしてこれはもう普通の状態じゃないなと」(本田さん)
15年ほど前から空き家となっているこの建物。
本田さんによると、別の場所に住むこの家の持ち主が、多頭飼育によって増えた猫を置き去りにしていったと言います。
その数、約40匹。
ゴミを漁るほど猫たちは飢えていました
「無人のところに(猫を)置くというのは遺棄ですからね」(本田さん)
「餌を与えていた形跡はあるんですか?」(記者)
「(飼い主は)一応、ご飯は与えていたというけど、あれだけ痩せて1か月食べていない痩せ方ではなかったんですよ。骨が全部見えてて骨格が。お腹が減ってゴミを食べていた状態で・・・」(本田さん)
「それも虐待ですよね?」(記者) 「虐待ですよね」(本田さん)
本田さんたちが世話をしていた猫たちが突然、姿を消しました
本田さんは、空き家に遺棄された猫を一旦保護。
健康状態が良い猫は、不妊手術をして元の場所に返し、小屋を設置したり餌をあげるなどして世話を続けていました。
しかし・・・ 「消えてます」(本田さん)
「消えている?」(記者)
世話をしていた猫、10匹以上が、突然、消えたというのです。
前脚が壊死した猫の発見場所を案内する『アニマルレスキューたんぽぽ』の本田代表
そして数日後・・・、あの、前脚が壊死した猫が発見されました。
遺棄した人物とは、別の誰かに虐待を受けた可能性があります。
「(猫の)体についていたんですよ、“トリモチ”が。私がいつもの場所から呼んだら、草むらから出てきた。隠れてたと思うんですよ、たぶん。びっくりした、ひどい状態だったので」(本田さん)
「そういう形で見つかったのは1匹だけ?」(記者)
「そうです、他の子はたぶん戻ってこれてないんですね、捕まったまま」(本田さん)
現場にはまだ数匹の猫が・・・。
このままでは、残された猫に危害が及ぶことも考えられる。
本田さんは『ねこから目線。』の小池さんに、猫の保護を依頼しました。
“多頭飼育崩壊”により飼い主に捨てられ、その後、何者かが仕掛けた罠によって傷つけられる。
人間の心無い行動により、猫たちは2度、“虐待”を受けたのです・・・。
トラバサミに挟まったキジトラ猫(ねこから目線。撮影)
門真市で“トラバサミが足に挟まった猫がいる”という通報から1週間。
その猫が保護されたという連絡が入りました。
「捕獲器の中で捕まって結構すぐちぎれた」(小池さん)
「ちぎれたというのは?」(記者)
「トラバサミに挟まっていた手が。そこから先が…とれました」(小池さん)
トラバサミに挟まった猫を保護する『ねこから目線。』の小池さんたち
左前脚の先が、切断されていました。
猫は、最初に目撃された場所近くの、側溝にいたのです。
小池さんたちが慎重に誘導すると・・・一直線に捕獲器の中へ。
その後、急いで病院へ搬送したといいます。
壊死した前脚の治療を受ける猫(のらねこさんの手術室 大阪・池田市)
前脚を挟んでいたトラバサミ・・・ 「それはどうする?」(記者)
「門真警察に提出します」(小池さん)
罠に足が挟まれた状態で1週間以上・・・、ちぎれた前脚の先から骨が見えていました。
壊死した部分を洗浄し応急処置を施します。
「(脚が)腐っている、臭いもしてる。もう断脚」(のらねこさんの手術室 安田和美看護師)
傷口と猫の容体を見ながら、後日、足の切断手術をすることになりました。
「猫にしたら今からしんどい治療になっちゃいますけど、とりあえず治療を受けられる環境に連れてくることができて、ほっとしました」(小池さん)
去年、改正動物愛護管理法が施行され、犬や猫などをみだりに傷つけ殺害する『動物殺傷罪』は懲役5年以下、または罰金500万円以下の罪に。
虐待や遺棄に関しても1年以下の懲役、または100万円以下の罰金を科せられることになりました。
動物を傷つけることは、重大な犯罪なのです。
術後のキジトラ猫を見舞う『ねこから目線。』の小池さん
「ニャ~」
「診察してもらったんだね」(小池さん)
保護されてから1週間。
トラバサミによって片足を無くした猫はすっかり元気になっていました。
「しっかりと立てているんですね」(記者)
「そうですね、術後の経過もすごく良好だと言ってました」(小池さん)
「クゥ~ン」
片足を失いましたが、新しい家族から『要』という名前をつけてもらいました
そして、退院の日・・・。
病院に迎えにきたのは、最初にこの猫を発見し通報した女性でした。
「お待たせしました」(スタッフ)
「ニャ~」「はいはい、怖いな、大丈夫、大丈夫、帰るよ」(猫を発見した福本友美さん)
女性はこの猫を家族として迎え入れることにしました。
名前は、“大切なもの”を意味する、『要(かなめ)』。
「幸せになってほしいというだけです。寿命がくるその時まで幸せに暮らせたらな、と思っています」
『宝丸』 という名前をもらい新しい生活を始めました
一方、能勢町で発見され、前脚の先を両方とも失った猫・・・。
「自分でもう歩けます。トイレも自分で入って、生活をきちんとできるようになった」(アニマルレスキューたんぽぽ 本田千晶さん)
宝丸(たからまる)という名前を付け、保護した本田さん最後まで世話をすることに。
しかし、姿を消した10匹ほどの猫たちは、まだ見つかっていません。
「“動物への虐待”が事件として扱われないことこそ社会問題だと思います」
「決して虐待は少なくないですし、こういう虐待が社会の中で事件として扱われないというのが社会問題だと思うので、捕獲して保護してよかったね、じゃなくてそちら側への働きかけをしっかりとやっていきたい」(ねこから目線。代表 小池英梨子さん)
大阪府警は、この2つの“虐待事件”について、捜査を続けています。