かわいい野良猫を襲う「残酷すぎる現実」
…なぜ猫の殺処分は犬より5倍も多いのか?
2021年3月16日(火) 現代ビジネス
写真:現代ビジネス
コロナ禍で、孤独感が強まった人も増えたかと思います。
外を歩いていると、野良猫がのんびりと散歩をしたり、母猫の後を歩いている子猫を見たりすると、「野良猫はいいな」と思いませんか。
実は、そんな猫には「過酷な運命」が待っているのです。
猫の殺処分は、犬よりはるかに多いという事実を知っていますか?
◆猫の殺処分は犬の5倍以上!
環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」より
室内飼いの猫は、十数年の寿命があります。
20年を超えても生きている子もいます。
それに引き換え、野良猫の寿命は数年です。
雨風にさらされる、食べ物が満足にないなどの過酷な環境下に生きています。
それに加えて、殺処分の数は犬より五倍以上多いのです。
それでは、実際の数を見ていきましょう。
令和元年度の1年間で、全国の各行政で行った殺処分の数は、環境省の発表によれば、「犬=5,635匹」「猫=27,103匹」です。
つまり猫の殺処分は、犬の5倍以上多いのです。
これでも近年、市民の意識の高くなり殺処分の犬や猫の数は減ってはいますが、犬と猫を合わせると3万匹以上が殺処分されているのです。
10年前の平成21年の数字を見ると、「犬=64,051匹」「猫=165,771匹」です。
10年前の犬の殺処分の数より10分の1、猫は6分の1ぐらいになっています。
どの時代も猫の殺処分数は、犬より多いのです。
それではなぜ、猫の殺処分がこのように多いのでしょうか。
◆なぜ猫の殺処分が多いのか?
収容される猫の元々の数の多さとなかなか譲渡ができない子猫が含まれているからなのです。
・乳飲み子がいる
猫の保護には、まだ目が開かないような乳飲み子が含まれているからです。
猫は、1回の出産で数匹の子猫を産みます。
自分のところは、母猫は飼うけれど、子猫を飼えないからとこっそりと飼育放棄する人がいるからです。
乳飲み子の場合は2~3時間おきの哺乳や排泄の介助、保温が必要です。行政の職員は24時間勤務ではないので日中だけ哺乳をして子猫に頑張ってもらうか、職員が自己犠牲の精神で連れ帰り、夜間も哺乳するかのいずれになります。
最近では、生まれて間もない子猫は、ミルクボランティアという子猫にミルクを飲ませてくれる愛護活動もあります。
その人たちに、子猫を託します。
民間ボランティアへ哺乳をお願いしているので子猫の殺処分が減少しています。
それでも、全部の子猫が育てられないと殺処分になってしまうこともあります。
母猫が育てず、外にほったらかしにされていたような子猫は、やはり抵抗力が弱いので、お世話をしてもすぐに亡くなってしまうことが多いのです。
・日本には野良猫が多い
犬は狂犬病予防法があるので、野良犬は捕獲されます。
一方、猫はその法律が適用ではないので、街のいたるところにいます。
そして、それにいわゆる「餌やりさん」がいて、餌をあげるので増えるのです。
野良猫は不妊去勢手術をしていない子が大半なので、ネズミ算ならぬ猫算で増えてしまうのです。
1匹の雌猫が、生後4カ月で発情がきて、1回で3~4匹産みます。
これを考えると1年間で、周りに雄猫が居る場合は、簡単に20匹ぐらいになります。
それに忘れてならないは、猫は犬に比べて安産です。
最近、誘拐事件で話題になったレディー・ガガさんのフレンチブルドックは、難産です。
大半が帝王切開で産まれます。
人間が改良しているので、自然には産まれにくい体になっているのです。
猫は犬のようにあまり改良されていないので、自分で産むことができるので、野良猫でも過酷な環境下でもたくさん子供を産むことになります。
子猫たちは母猫が餌を探しに行っている間に人に発見され、警察に連れて行かれることもあります。
警察署では子猫を育てられないため、所轄の保健所や動物愛護相談センターなどに移送されます。
野良猫は、人に懐いていない子も多く、とても凶暴な子もいます。
そんな場合は、譲渡の対象には、なりにくいので殺処分になります。
野良猫は、とても交通事故事に遭いやすいです。
治療をしようにも威嚇してくる場合は、なかなか処置することができず、重傷の場合は一般家庭に譲渡できる可能性が低くなるのもその理由のひとつです。
このような理由より、猫の殺処分が多くなります。
街でみかける猫を見たら、このような悲しい運命を持っていることを知ってください。
◆高齢者と多頭飼育
もちろん、殺処分されるのは、野良猫だけではありません。
殺処分される猫は一般家庭から飼われている猫もあります。
現在問題になっているのは高齢者と多頭飼育です。
猫が長生きになり、そして飼い主が高齢になって病気などで猫の世話ができなくなるのです。
それに加えて、高齢者の飼い主が、老人施設などに入る場合は、ほとんど場合がペット不可です。
長年、飼っていた猫を連れていけないので、動物センターなどに連れて来られるのです。
筆者の動物病院でも一人暮らしの飼い主が、脳梗塞で倒れて入院になりました。
猫が複数匹いて、その子供もペットが飼える環境でなくて困ったというケースもあります。
現代では、猫が長寿になったので、そのため飼い主が高齢になり、自分の生活も介護が必要になり、猫の面倒を見るどころではなく、殺処分されることになるのです。
猫の多頭飼育崩壊は、決して珍しいことではなく、簡単に陥ります。
不妊去勢しないで、外に出していると、あっという間に20匹ぐらいになるのです。
猫は、繁殖力が旺盛な動物です。
快適な環境と餌さえあれば、いくらでも増えます。
増えすぎると飼い主は、ネグレクト状態になり放置をするため近所から苦情もきて、行政が引き取ることにもなります。
◆どうすれば殺処分を減らせるか?
〔PHOTO〕iStock
飼い主の意識の向上、そして獣医学の進歩により、猫のライフスタイルは大きく変わっています。
このような野良猫や猫の実情をみんなで、しっかり共有することが大切ですね。
具体的にいうと、猫はネズミ算ならぬ猫算で増えることを知って、不妊去勢手術をすることは、基本です。
そのうえ、猫は長生きになっているので、そのことを考えて飼育することです。
たとえば、70歳の人が猫を飼うときは、生後数カ月の子を飼うと終身飼育をするのは難しいということです。
飼い主が、80歳になっても愛猫が年老いたときに、ちゃんと世話できるか難しいのです。
ただ、かわいいから猫を飼い始めるのでは、終身飼育を念頭に置いてくださいね。
そして、1匹でも殺処分の猫を減らしましょう。
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石井 万寿美(獣医師・作家)