日本初のマイクロブタカフェ
触れ合い通じて共生を
2021年3月21日(日) 産経新聞
【いきもの語り】
こちらが腰かけるとトコトコ歩み寄り、短い脚で一生懸命、膝によじ登ってくるマイクロブタ。
人間の赤ちゃんに似た大きさの体を抱きしめなでていると、つぶらな瞳でこちらを見上げ、眠りに落ちた。
かわいい以外の言葉を失うほど強力な愛くるしさ…。
日本初のマイクロブタカフェ「mipig cafe(マイピッグ・カフェ)」は、触れ合いを通してブタの新たな魅力と命の尊さを気付かせてくれる。
ジャックと北川史歩さん。「かわいいを通してブタを知るきっかけになったら」と話す
訪ねたのは、竹下通りに並行する小道に構える原宿店(渋谷区)。
レンガ造りの店から聞こえるブーブー、キュッキュッという鳴き声に誘われ入ると、10匹ほどのブタたちが出迎えてくれた。
イギリス生まれのマイクロブタは、約300キロほどの家畜ブタや映画「ベイブ」の影響で人気が高まったミニブタよりも小さい40キロまでの大きさ。
店では、お昼寝大好きなテン(2歳、18・9キロ)、おとなしく甘えん坊なジャック(5カ月、3・6キロ)、生まれつき脚が不自由でブタ用の車いすを使う少し強気なあゆむ(5カ月、4・5キロ)たちがのんびりと過ごしている。
群れる習性があり、1匹と戯れていると、つられて何匹も集まってくる。
取材に同席してくれたのは、3カ月のローレン。
「人懐っこいんですよ」と広報の北川史歩(しほ)さんが言うや否や、記者の膝に一直線。
通常より小さく生まれ、現在1・4キロ。
38度ほどの心地よい体温に触れていると、これまでのブタの概念が覆されていく。
マイクロブタは、繁殖、販売、サポートなどを行う「mipig」事業を展開するSaLaDa(港区)が平成30年に輸入を開始。
山梨県などのファームで繁殖しカフェに来た後、飼い主のもとへ引き渡されている。
31年には日本初のマイクロブタ専門の動物カフェとして目黒店(目黒区)が誕生、4月には埼玉県に4店舗目が開店する。
カフェは、ブタと触れ合える場所であると同時に「保育園」の役割も担う。
多くの来店客と触れ合うことで人間に慣れ、トイレを覚え、人間社会に出る準備をしている。
「みなさんと一緒に育てていく感覚を持ちたい」と、日頃の様子などはインスタグラムで発信。
引き渡し後も飼い主が成長を投稿し続けることが多く、ファンたちも共に成長を見守っている。
× × ×
賢く攻撃性がなく、きれい好き。
体臭もなく、アレルギーの心配も少ない。
20種類ほどある鳴き声で、豊かに感情を表現する。
ただ、診察可能な病院や保険などに乏しく、家畜扱いのため保健衛生所への連絡が必要となる。
体温調整が苦手で、満腹中枢が鈍く、食事管理は難しい。
mipigでは、飼育の相談や専用フードなどもアプリを通じてサポート。
「誕生から日々の生活に寄り添い、足りない部分を補っていく」という。
飼育放棄や衝動買いをさせないため、飼い主には事前に厳しい審査を行っており、購入は予約制。常に希望者が待機することで、過剰繁殖も防いでいる。
カフェでぬくもりに触れることで、生態や環境に「目を向け、知るきっかけになってほしい」と北川さん。
「ペットとしての新たな生き方ができる子が1匹でも増えてほしい」と、ブタと人間が幸せに共生できる未来を目指している。
カフェで抱きしめた子たちが、すてきな飼い主と幸せに暮らせますように。
膝の上にやってきてくれたローレン。腕におさまる大きさと心地よいぬくもりはまるで赤ちゃんのよう=渋谷区
(鈴木美帆)