【獣医師の告白】
野良猫は「ほとんど生き残れない」
なぜ殺処分より交通事故死が多い?
2021年2月1日(月) 石井万寿美 | まねき猫ホスピタル院長 獣医師
コロナ禍で、ストレスを感じ、そして孤独を味わっている人も多いでしょうね。
そんな中、屋根や車の上でのんびりしている野良猫を見ると、「いいなぁ」と思っていませんか。
しかし、猫の殺処分の数より、交通事故死の方が多いという現実があります。
そして、1〜3月に交通事故死が増えるのです。
今日は、それはなぜなのか理由を見ていきましょう。
(写真:PantherMedia/イメージマート)
◆猫の殺処分の数より交通事故死が多い
「大分市猫の適正飼養・管理ガイドライン」によりますと、交通事故などによる猫の死体の回収頭数は、2013年度2631頭、殺処分数が725頭です。
2012年度も交通事故などによる猫の死体の回収頭数は2757頭、殺処分数は905頭です。
表を見ていただければ、交通事故死は殺処分数よりずっと多いことが分かります。
「大分市猫の適正飼養・管理ガイドライン」より
決して大分市だけ特別にこういう状況なのではなく、全国的にも同様の傾向が見られています。
◆なぜ、猫の交通事故が多いのか?
野良猫は、交通事故で命を落とす子が多くいます。
その理由はなにかを見ていきましょう。
・発情
(写真:アフロ)
人の月経周期は、約1カ月ごとで、犬は半年ごとなので、猫も時間周期で発情が来るように思われがちです。
しかし、猫は時間ではないのです。
日に当たることで、発情が来ます。
猫は季節繁殖動物で、一定の季節に繁殖活動を行う動物なのです。
長日性季節繁殖動物と呼ばれて「日照時間」が長くなるとメス猫が発情するのです。
簡単に説明すると、猫は、自然界では日照時間が長くなると雌が発情します(人工的な環境によって、光に当たる時間が長いと発情します)。
1月から9月が猫の発情期間なのです。
発情期になると、雌は交配相手を求めて活発に動き回ります。
1回の発情期で複数の雄と交配するので、周りに雄が集まってきて雌を取り合いするので、相手を求めることに没頭して交通事故に遭いやすいのです。
それに加えて、1~3月は比較的暗くなるのも早いので、交通事故も増えるのでしょう。
・真空行動
(写真:アフロ)
猫の行動の中に「真空行動」というものがあります。
それを見ていきましょう。
真空行動とは?
飼い猫でも、なにも環境の変化などがないのに突然、全速力で走り回る子もいます。
夜中の運動会といわれる行動ですね。
そして、突然、この行動も終わります。
飼い主から見れば、発作などの病気かもと思うこともあるほどに激しいです。
このような「大暴れ」を「真空行動」と呼びます。
なぜ真空行動をするか?
猫はもともと「狩り」をする動物です。
飼い猫や保護猫で餌をちゃんともらっている場合は、狩りなどをしなくてもいいわけけです。
捕獲するネズミに気づかれないように飛びかかるとか、迫りくる危険から身をかわすといったこともなく、のんびりと暮らしています。
そんな生活をしていると鬱積したエネルギーが爆発して、真空行動をするのです。
室内飼いの子が、この真空行動を家でする場合は、もちろん交通事故になりません。
一方、外にいる地域猫などが、「狩り」をしたい欲求が強くなると、危険な環境下で、このような真空行動をしてしまいます。
そのため、周りが見えなくなり交通事故に遭う危険性があるのです。
◆猫のなきがらを見つけたら?
路上で傷ついた猫や息絶えた猫を発見しても、どうしたらよいか分からないという人が多いでしょう。
もしすでに息絶えているようであれば、その地域の清掃局が担当です。
息がある、もしくは生死が分からない場合は、動物愛護センターが担当であるケースが多いようです。
地域の行政によって名称が違うこともあります。
その他には、道路は、管理者によって異なり高速道路と国道などの国土交通省管轄なら、道路緊急ダイヤルで対処してくれます。
番号は全国共通「#9910」。
通話は無料で受付は24時間です。
使用できる電話はNTTの固定電話、ドコモ、au、ソフトバンク各社の携帯、各携帯電話会社の電波を使用している格安SIM携帯(IP電話は使用できません)。
◆野良猫を交通事故に遭わせないためにできること
野良猫がこの世からいなくなると、つまり、全ての猫が完全室内飼いになると、交通事故に遭うことはないです。
いま、そうは言ってもなかなか難しいですね。
それで私たち人間にとって、他にできることは、以下のことです。
・野良猫の不妊去勢手術
発情期になり、雌猫が、雄を求めて動き回ると交通事故に遭うリスクが高まります。
不妊去勢手術をしておくと、少しはそのリスクを減らせます。
・ドライバーの人は、猫の行動を理解する
安全運転で走行していても、猫は1~3月、特に活発になるので、猫がいそうなところは特に注意してくださいね。
そして、真空行動をとって、急に走り出す動物だということも覚えておいてください。
猫は、突然に突っ込んでくる動物だということなのです。
◆まとめ
(写真:TopPhoto/イメージマート)
野良猫は、餌や水、そして寝る環境にも恵まれていません。
その上、動くと交通事故に遭う可能性もあります。
人知れず、路上でなきがらになっていることもあるのが現状です。
そんなことを踏まえて、野良猫がいない日本になることを願っています。
石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は栄養療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医師さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らす。
manma14956711
masumi0514
official site https://manekinekohospital.com/
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