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犬・猫の「数値規制」で何が変わる?

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犬・猫の「数値規制」で何が変わる?
 ターゲットは悪質業者、弁護士に聞いた

2021年1月8日(金) まいどなニュース

ブリーダーやペットショップが飼育している犬や猫に関して、ケージの大きさや出産年齢、出産回数などを数値で定めて明確に規制する「数値規制」が施行されることになりました。
数値規制で動物たちが置かれた状況は変わるのでしょうか。
動物虐待事件やペットに関する事件を数多く手がけている弁護士の細川敦史さんに聞きました。


マスの中に入れられた犬たち、足元は金網。糞尿はホースで水をかけて流すという。(公益社団法人日本動物福祉協会 提供)

■悪質なブリーダーなどを取り締まる数値規制
――数値規制をすることで何が変わるのでしょうか。
「いままでは、悪質な業者を指導監督しようにも、自治体職員が重い腰を上げるのに十分な基準がなかったのです。狭くて苦しそうにしているとか足元が金網で痛そうだとか言っても、業者に『エサや水を与えているんだからいいじゃないか』と反論されたら、言い返せないというのが自治体職員の言い分でした。しかし、ケージの大きさや出産回数、出産できる年齢などを数値ではっきり定めることで、基準が明確になり指導しやすくなります。」

――ケージの大きさや出産回数以外に、どんなことが定められるのでしょうか。
「従業員一人当たり、何頭まで飼育できるのかという基準が定められます。無茶苦茶な繁殖場のようなものは淘汰されるでしょう。以前、私が関わった福井県の繁殖工場(パピーミル)には、従業員2、3人の施設に400頭もの犬猫がいました。しかし、数値規制がなかったので、自治体側も『違法とはいえない。問題があるとはいえない。』という感じだったのです」

■自治体職員が重い腰をあげるには
――数値規制があると、自治体も動きやすくなるのでしょうか。
「いままでは、『(数値)基準が明確じゃないから』指導できないと言ってきたのですが、明確になったので動かざるを得ないでしょう。『都市部は業者の数が多すぎるから、定期的に巡回できない』と、マンパワー不足を問題にする職員もいましたが、それは解決できない問題ではないでしょう」

――保健所の職員は警察ではないので、悪質な業者に向き合うのを嫌がるのではないでしょうか。
「実際に指導監督に行く職員が及び腰になるのも分かります。動物の業者と産廃業者に対する規制の構造は似ているところがあるのですが、産廃業者の巡回には警察OBが絡んでいます。動物に関わる行政組織にも警察OBを配置すべきという意見も出ていますが、いまのところ実現するきざしはありません。制度改革をすると重い腰をあげなくてはならないので、改革に後ろ向きということもあります。」

――法規制だけでは不十分ということですね。
「数値規制で一定の基準を示すことができたので、それを業者などにきちんと守らせるための仕組みづくりをしなければなりません。」

■先送りされた数値規制、止まない過酷な環境での飼養
――規制は犬猫の保護団体(第二種動物取扱業)にも準用される予定なのですか。
「保護団体は営利を目的としないわけですが、営利目的の有無にかかわらず、適切な飼育環境を確保する必要があるため、準用されることになります」

――今回の数値規制の主なターゲットは、悪質な業者なのですね。
「劣悪な施設で犬や猫をむやみに増やす、悪質な業者を排除することが主な目的になっています」

――いつから施行されるのでしょうか。
「原則は、2021年6月から施行される予定ですが、肝心の、飼育者1人あたりの上限飼育数に関する規制が完全に施行されるのは3年先送りされて2024年6月から、ケージの広さと雌犬、雌猫の交配年齢を6歳までとする規制の施行も1年先送りされることになりました」

――なぜそのようなことになったのでしょうか。
「ペット関連の業界団体を中心に構成される『犬猫適正使用推進協議会』が、数値規制導入により飼育が削減されると、基準を超えた13万頭の犬や猫が施設に住めなくなる、一部の業者は廃業に追い込まれるとして、環境省に省令の施行を遅らせるよう要望書を提出しました。 こうした意見もふまえ、環境省は、新たな基準に適合しない事業者が、販売、譲渡等により頭数を減らしたり、従業員を新たに雇用したりする必要があるため、ケージの規模、従業者の員数、繁殖に係る基準については、違法な遺棄や殺処分、不適正飼養を防止し、必要な準備期間を確保するための経過措置を規定するとして、当初予定より施行を遅らせました。 環境省は、ペット業界の意向に配慮して、経過措置を設けて施行時期を遅らせた可能性があります。数値規制については10年以上前から環境省でも議論検討されていた重要課題であり、将来的には導入可能性があるとしてペット業界でも対応の準備を進めていればよかったわけです。 具体的な数値自体は、2019年6月の法改正でも決まっておらず、昨年夏以降に明らかになってきたので、今年6月からの完全施行では準備期間が足りないと言われれば、理解できないわけではありません。ただ、3年というのは猶予期間として長すぎ、仮に設けるとしても1年程度でよかったと考えます。営利のみを追求する問題業者は、先送りにされた施行日のギリギリまで、犬猫にとって過酷な状態での飼養管理を続けることになるでしょう。 これまでなかった数値基準がようやくできたこと自体は評価に値しますが、最後の最後で、後味の悪さが残った感が否めません」

【写真】真っ直ぐに立つことができない小さなケージに閉じ込められた犬たち

◆細川敦史
2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。ペットの法と政策研究会代表、ペット法学会会員。 (まいどなニュース特約・渡辺 陽)

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