犬猫業者の飼育数制限、完全施行を3年先送り 環境省
2020年12月25日(金) 朝日新聞
繁殖業者によって大量に繁殖され、ペットショップで販売される子犬たち
繁殖業者やペットショップが犬猫を飼育・管理する際に、飼育者1人あたりの飼育数の上限を定める規制の完全施行が、予定より3年先送りされることがわかった。
25日の中央環境審議会動物愛護部会で環境省が明らかにした。
数値規制の導入は、昨年成立した改正動物愛護法で定められたもの。
一部業者による劣悪な飼育状況を改善するのが目的で、来年6月に省令として施行されることになっていた。
環境省は今年7月、飼育者1人あたりの飼育数について、繁殖用の犬は15匹、猫は25匹、販売用の犬は20匹、猫は30匹を上限とする規制案を提示。
これに対しペット関連の業界団体や一部の繁殖業者らは、廃業に追い込まれる業者も出るとして、「13万匹以上の繁殖用の犬猫が行きどころを失う」「殺処分が増える」などと強く反発していた。
環境省は今回、上限は案の通り定めるとしたものの、来年6月の施行を断念。
22年6月から繁殖用の犬は25匹、猫は35匹、販売用の犬は30匹、猫は40匹とゆるめの上限を定め、その後は年5匹ずつ減らすとした。
省令通り完全施行されるのは24年6月で、予定より3年先送りされる。
業者の犬猫飼育数制限が3年先送り
犬猫にとって負担大きく、次回法改正に影響も
2020年12月28日(月) sippo(朝日新聞社)
繁殖業者やペットショップの飼育・管理方法に関する数値規制のうち、飼育者1人あたりの上限飼育数にかかわる規制の完全施行が、予定より3年先送りされることになった。
12月25日に開かれた中央環境審議会動物愛護部会で、環境省が明らかにした。
繁殖業者のもとで飼育される犬たち
◆完全施行されるのは24年6月に
数値規制は、昨年成立した改正動物愛護法で導入することが定められていたもの。
一部業者による劣悪な飼育状況を改善するのが目的で、来年6月に省令として施行されることになっていた。
このため環境省は、今年7月に規制案を示したうえで、議論を重ねていた。
環境省の規制案では飼育ケージの広さや雌犬・雌猫の交配年齢の上限などを規制するほか、飼育者1人あたりの飼育数については繁殖用の犬は15匹、猫は25匹、販売用の犬は20匹、猫は30匹を上限としていた。
このうち飼育者1人あたりの上限飼育数について、ペット関連の業界団体や一部の繁殖業者らは、廃業や飼育数の削減に追い込まれる業者が出るとして、「13万匹以上の繁殖用の犬猫が行きどころを失う」「殺処分が増える」と強く反発。
業界団体の横断的な組織である「犬猫適正飼養推進協議会」(会長=石山恒ペットフード協会会長)は、一部新聞社のニュースサイトに意見広告を載せるなどしていた。
こうしたことから環境省は、案の通り上限を定める決断をしたものの、来年6月の施行を断念。
2022年6月から繁殖用の犬は25匹、猫は35匹、販売用の犬は30匹、猫は40匹とゆるめの上限を定め、それ以降、毎年段階的に5匹ずつ減らしていくこととした。
省令通りに完全施行されるのは24年6月で、予定より3年先送りされることになった。
また、業者から反発があった、ケージの広さを計算式などによって定める規制と雌犬・雌猫の交配年齢を6歳までなどとする規制の施行も、予定より1年先送りされる。
部会で環境省の長田啓・動物愛護管理室長は「(業者によって犬猫が)遺棄をされたり、殺処分をされたりというのを防ぐのが目的。また業者が従業者(飼育者)を新たに確保するには期間が必要なため」などと説明した。
◆犬猫にとって3年は一生の5分の1相当
今回の数値規制を全体としてみれば、犬猫の繁殖業者やペットショップの飼育・管理の状態を大きく改善することにつがるもので、これまでは悪質業者が野放し状態になっていたことを考えても、大きな前進となった。
小泉進次郎環境相の「レガシー」として評価されることになるだろう。
それだけに、飼育者1人あたりの上限飼育数について、完全施行が3年先送りされることになったのは、残念だ。
人手不足で飼育者集めがスムーズに進まないことなどを考慮すれば、段階的な施行はもとより必要だ。
しかし、完全施行を3年も先送りすることは、主に繁殖に使われる犬猫にとって負担が大きすぎないだろうか。
ペットフード協会の20年の調査では、犬の平均寿命は14. 48歳、猫は同15.45歳。
つまり犬猫にとって3年という期間は、一生の5分の1にあたるのだ。
しかも最初の1年間は無規制の状態となり、業者によっては1人で50匹前後、なかには100匹前後もの犬猫を飼育するような現状が、環境省のお墨付きで維持されてしまう。
業者の都合にあわせてこれだけの負担を犬猫に強いることは、小泉環境相が規制案の策定にあたって折に触れて「動物愛護の精神にのっとった基準とする」と発言してきたことにかなっているかどうか、疑問が残る。
「5匹ずつ減らす」段階的施行で規制導入の影響を最小限に抑える意図はわかるが、せめて来年6月から第1段階の施行を始め、先送り幅を「2年」にとどめる選択肢はなかったのだろうか。
◆次回法改正で規制議論ができなくなる恐れも
さらに、この1、2年の違いは、次の動物愛護法改正に悪影響を及ぼす可能性があることも指摘しておきたい。
議員立法で改正されてきた動物愛護法は、付則で「施行後5年を目途」に見直すよう定められている。
改正動物愛護法が施行されたのは今年6月だったから、これまで通りのスケジュール感を踏襲すれば、次回法改正については24年から25年にかけて見直し議論が進むと見られていた。
ところが今回、数値規制の主要な要素である飼育者1人あたりの上限飼育数の完全施行が、24年6月まで先送りされることになった。
これでは、動物愛護法の次の見直し時期までに、ほとんど施行実績をふまえることができない。
規制を強化するにしろ、緩和するにしろ、次回の動物愛護法改正では、業者の規制にかかわる議論や検討が実質的にできなくなる可能性があるのだ。
その意味で「3年先送り」は、今後の日本の動物愛護のあり方にまで禍根を残すかもしれない。
筆者:太田匡彦 (おおた・まさひこ)
1976年生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当。AERA編集部記者、文化くらし報道部を経て、特別報道部・専門記者。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)がある。
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