バイデン政権で動物の保護はどうなる? 重要な6項目を解説
保護犬飼うバイデン氏、「F(不合格)よりも低い評価」のトランプ氏と対照的
2020年11月12日(木) NATIONAL GEOGRAPHIC
この写真に写るハクガンなどの渡り鳥は、トランプ政権の下でほとんどの保護を失った。
動物保護家は、バイデン政権が動物保護に向けて舵を切ってくれるだろうと期待する。(PHOTOGRAPH BY JOHN EASTCOTT AND YVA MOMATIUK, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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米国の大統領選挙でジョー・バイデン氏の当選が確実となり、動物の保護活動家たちが期待を高めている。
新政権の下、米国の動物たちが、野生であっても飼育されていても、さらには食用であっても、これまでより手厚い保護が受けられるようになると考えているためだ。
バイデン氏は選挙運動中、動物を保護する政策について説明していなかった。
そこでナショナル ジオグラフィックは、これに関してバイデン氏の報道官にコメントを求めたが、返事はまだない。
だが多くの活動家は、バイデン氏が就任後ただちに、トランプ政権で大きく後退した動物保護政策を元に戻す作業に取り掛かるだろうと期待している。
「政権が交代するたびに、前政権が行ったことが一部取り消されます。そして、せっかく勝ち取ったと思っていたものをまた取り戻す闘いが始まるのです。でも、トランプ政権のやったことは規模が大きすぎました」と、非営利団体「動物福祉研究所」の政府問題担当者ナンシー・ブレイニー氏は語る。
ブレイニー氏をはじめとする活動家は、トランプ政権下の4年間は規制緩和と不透明性の連続だったと表現する。
政治家の環境問題に関する立場を正確に評価することで定評のある「自然保護のための有権者行動連盟」は、トランプ大統領の就任から1年後に、「F(不合格)よりも低い評価をつけられるとしたら、トランプ大統領にそれを与えます」と声明を出した。
同連盟によれば、トランプ政権の評価がその後改善されることはなかった。
一方、上院議員としての長い経歴を持ち、バラク・オバマ大統領時代には副大統領を務めたバイデン氏は、環境問題と動物の保護における実績が認められ、生涯評価で83%という高い生涯評価を同連盟から受けている。
動物福祉に関する法案にほぼ一貫して賛成票を投じてきたことから、大統領選ではヒューメイン・ソサイエティー立法基金の支持を受けた。
また、馬を殺処分から守る法案、闘犬や闘鶏など動物同士を戦わせるイベントを禁止する法案、趣味の狩猟に飼育動物を使うことを禁じる法案を共同で議会に提案したこともある。
バイデン大統領誕生によって、ホワイトハウスに初めて保護犬がすむことにもなる。
バイデン氏はジャーマン・シェパードを2匹飼っているが、そのうちの1匹であるメイジャーは、デラウェア州のヒューメイン・アソシエーションに保護され、2018年にバイデン氏に引き取られていた。
バイデン氏が大統領に就任すると、動物保護政策はどのように変わるのだろうか。
米国の現状と、新政権がこの問題に取り組むであろう方向性を解説してみた。
1.絶滅危惧種法の施行拡大
トランプ政権下で最も懸念されていた政策のひとつが、絶滅危惧種法(ESA)の施行をめぐる方針の変化だ。
2019年8月、トランプ政権は同法の大幅な改定案を発表、同法を施行するにあたり経済的影響を考慮できるようにすることや、絶滅の恐れのある種(threatened species)には自動的に保護措置を適用することはないといった変更が加えられた。
また、絶滅危惧種(endangered species)にとって重要な保護地区の指定が困難になり、新たに種を保護指定する際に気候変動による影響が考慮に入れられなくなった。
これら「驚くほど包括的な変更は、絶滅危惧種法の目的に真っ向から反対しています」。
野生生物問題に取り組む環境保護団体「アースジャスティス」の専属弁護士クリステン・ボイルズ氏はそう語り、バイデン政権がこれを元に戻すことに望みをかけている。
変更は内務長官と商務長官が決定できるため、それほど難しいことではないはずだという。
トランプ政権の発表に対してバイデン氏は8月12日に、以下のようにツイートしている。
「絶滅危惧種法は数十年間にわたって、わが国で最も脆弱な野生生物を絶滅の危機から救ってきた。それをトランプ大統領は全て台無しにしようとしている。気候変動で地球が瀬戸際へ追い詰められているこの時期に、私たちは保護を強化しこそすれ、弱体化するべきではない」
ワイオミング州イエローストーン国立公園のオオカミ。2020年10月に、トランプ政権はオオカミを絶滅危惧種のリストから除外したが、保護派は決定が時期尚早であると反発している。(PHOTOGRAPH BY RONAN DONOVAN, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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2.気候変動を考慮
バイデン氏は、気候変動が私たちにとって「存続に関わる脅威」であるとの立場を明確にしている。
バイデン氏がそのような姿勢から野生生物の保護に取り組むことは好ましいと、非営利団体「ディフェンダーズ・オブ・ワイルドライフ」のジェイコブ・マルコム氏は言う。
米国には「この問題に向き合うリーダーが何としても必要です」と、マルコム氏。
気候変動は、生息地の消失と乱獲とともに、生物多様性の危機を悪化させている3大要素のひとつであるという。
3.保護が必要な種の指定
トランプ政権は、絶滅危惧種を次々に保護リストから外し、新たに種をリストに含めることを拒んできた。
ここ数週間だけでも、オオカミをリストから外し、クズリをリストに加えることを拒否した。
(参考記事:「オオカミを「絶滅危惧種」から除外、訴訟急増か、米国」)
特集ギャラリー:しぶとく生きるクズリ(写真クリックでギャラリーページへ)
米国モンタナ州のスワン渓谷で、シカの死骸をあさるクズリ。自動撮影装置でとらえた。山奥にひっそりと生息する肉食動物で、寒冷な自然環境に適応している。 非営利組織「スワン・バレー・コネクションズ」の協力を得て撮影(PHOTOGRAPH BY STEVEN GNAM)
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35年間デラウェア州選出の上院議員を務めたバイデン氏は、大体において絶滅危惧種の保護を支持し、適切と思われれば新たな種を保護リストに加える案を支持してきた。
その傾向が今後も続くことは十分に期待できると、専門家たちは考えている。
1973年にバイデン氏は絶滅危惧種法の成立に賛成票を投じて以来、同様の法案を何年も支持してきた。
(参考記事:「地球のいのち 絶滅危惧種」)
副大統領としての8年間にも、絶滅危惧種の保護をめぐってバイデン氏はオバマ大統領とともに多くの実績を残し、前任のジョージ・W・ブッシュ大統領による反環境保護政策や規制の一部を撤回した。
例えばボイルズ氏によると、米北西部太平洋沿岸の原生林に生息するニシアメリカフクロウの仲間(Strix occidentalis caurina)の回復計画を、ブッシュ政権は林業に有利になるように修正したが、オバマ政権がこれを再び書き換えている。
「科学と気候変動の深刻な脅威を信じ、絶滅危惧種の保護をいかに強化するかについて既に発言している政権であれば、野生生物にとっては良い政権です」
4.鳥の死を防ぐ
北米では、生息地の消失や農薬の使用、その他の原因により、鳥の数が激減している。
1970年から現在までに、その数はおよそ30億羽も減ったという。
1918年に制定された渡り鳥保護条約法は、鳥の死の原因を作っている企業に罰金を科すると定めている。
長年施行されてきた法律であるにもかかわらず、トランプ政権の内務省はこの解釈を歪曲して、意図的でない鳥の死に関しては罰金の対象としないという項目を加えた。
(参考記事:「2018年を「鳥の年」宣言、鳥はなぜ大切なのか?」)
ジョージ・W・ブッシュ元大統領は、北西部太平洋沿岸の原生林で森林伐採を大幅に拡大することを認め、そこに生息するニシアメリカフクロウの仲間に深刻な脅威を与えた。だが、後任のオバマ政権がこれを撤回した。その流れをくむバイデン政権も、野生生物を危険にさらす同様の政策を多く撤回することを、保護活動家たちは期待している。(PHOTOGRAPH BY GERRY ELLIS, MIDEN PICTURES, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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「ようするに、鳥の死に対する企業の責任をほぼすべて免除するということです」。
非営利団体「生物多様性センター」の絶滅危惧種担当者ノア・グリーンワルド氏は指摘するが、バイデン政権が従来の法の解釈を復活させるだろうと期待している。
その他の問題も含め、「トランプ政権の下で、失う必要のなかった4年間が失われてしまいました。バイデン氏が再び元の道に戻り、改悪をただ取り戻すだけでなく、さらに前へ進んでくれることを期待しています」
5.動物福祉法を強化
動物福祉法(AWA)と人道的なと畜に関する法律(HMSA)の施行は、米農務省が管轄する。
動物福祉法は、ペットとして売られる動物や、研究または展示用動物の扱いに関して、人道的なと畜に関する法律は食用動物の殺処理の基準を定める法律だ(ニワトリやその他の鳥類は除く。これらは規制されていない)。
また、農場における動物の取り扱いは連邦政府ではなく州政府が取り締まり、その他上記2法に含まれない動物福祉問題も、州に委ねられている。
2017年、トランプ大統領就任から2週間後に、政権は動物福祉に関する政策の方向性を明らかにした。
農務省が、動物福祉法違反を記録した公的データベースをなんと完全に消去してしまったのだ。
検査記録や、動物園、ブリーダー、工場式農場、研究室などすべての商業飼育施設に関する年次報告書も抹殺された。
その後、一般からの批判を受け続けた農務省は、2020年2月になってようやくデータベースを復活させたものの、その過程でトランプ大統領の下での施行件数が激減していたことが明らかとなった。
2018年に動物福祉法違反で農務省が召喚状を発行した数は1716件だったが、オバマ政権下の2016年には4944件だった。
6.家畜の福祉基準を改善
食用豚は、1時間で殺処理できる数に制限がかけられていたが、トランプ政権がこの制限を撤廃したために、工場は殺処理の時間を大幅に短縮できるようになった。
ということは、豚が完全に失神する前に、意識がある状態でのどを切られたり、沸騰した湯に入れられるという事態も起こりうる。
オバマ政権は、動物が生きている間の取り扱いが一定の福祉基準を満たしている製品にのみ「オーガニック」という表示を認めるルールを定めていた。
基準を満たすには、外の新鮮な空気と太陽光に当たり、快適に体を動かすことのできるスペースが確保されていなければならない。
鶏のくちばしや牛の尾を切り取ることも禁じられていたが、トランプ政権はこれも廃止した。
またトランプ政権は、オバマ政権による馬のソーリング禁止令も差し止めた。
ソーリングとは、ショーに使う馬の脚を故意に傷つける行為。痛みを軽くするために馬が足を高く持ち上げるさまが、パフォーマンスとみなされる。
「バイデン氏がすぐにでもできることは、ソーリング禁止令を完成させることです。オバマ政権がほとんどの作業を終えているのですから、あとはただ公布するだけです。こんな簡単なことはありません」と、ブレイニー氏は主張する。
上院議員時代に、バイデン氏は馬を保護する法案をいくつか共同で提出している。
ブレイニー氏は、動物保護に関してバイデン氏がトランプ氏とは別の道を進むだろうと考えている。
つまり、オバマ政権時代の取り組みを復活させ、議会と協力してより厳しい連邦動物福祉法案を可決させると期待する。
「昔は、動物福祉法案を提出するにしても、真剣に受け取ってもらうのが大変でした。それが今では、全ての議員事務所に動物福祉の担当者がいます。動物の生命や、それがいかに人間にとって大切かということに、以前よりも多くの人が関心を抱き、敏感になっています」
ギャラリー:絶滅の危機から復活しつつある動物 11選(写真クリックでギャラリーページへ)
クロアシイタチは、イタチの仲間としては数少ない北米原産種のひとつ。長くほっそりとした体をもち、夜にプレーリードッグを狩って食料にしている。1日の9割を、プレーリードッグから奪った地下の巣穴で過ごす。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK)
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文=NATASHA DALY、DOUGLAS MAIN/訳=ルーバー荒井ハンナ