動物看護師の悲痛な訴え…
飼っていた猫を保健所に持ち込む「飼い主の無責任」
2020年7月29日(水) PHP Online 衆知:
SNSで無数に公開されている犬や猫をはじめとする愛くるしい「ペット動画」。
多くのユーザの琴線に触れればたちまち拡散され、動物たちを愛でるコメントで埋め尽くされる。
しかし、動物看護師として病院でペットの哀しい現実と向き合い続けている鈴木聖子さんはこの現状に対して「ペット自身が本当に幸せでしょうか?」と疑問を投げかける。
そして、日本で数多くの犬や猫が飼い主の飼育放棄によって保健所に引き取られている現状を訴えている。
本稿では鈴木さんの新著『ペットと幸せに暮らすための「13の質問」』より、無責任な飼い主を生んでしまう背景を指摘した一節を紹介する。
動物看護師の鈴木聖子さんは自身の新著『ペットと幸せに暮らすための「13の質問」』について、「未来の飼い主さんに“ペットの現実“をみていただくため」に執筆したと語っている。(写真はイメージです)
※本稿は鈴木聖子著『ペットと幸せに暮らすための「13の質問」 未来の飼い主さんが準備しておくべきお金や保険のこと』(インプレス刊)より一部抜粋・編集したものです。
◆「飼い主の飼育放棄」で保健所に持ち込まれるペットは想像以上に多い
「あなたはそのペットを一生きちんと愛せますか?」
私が勤めている動物病院には、毎日たくさんのペットとその飼い主がやってきます。
しかし、動物病院にはそんな一般のペットたちだけでなく、店頭に並ぶ前の子犬・子猫も検診を受けにきます。
その健康診断で問題がなければそのままペットショップの店頭に並びますが、そこでなにか問題が見つかれば「売れない子」としてブリーダーの元へ返されます。
そんな子犬や子猫をみているうちに、いつしか「ペットショップで売れない子は、その後はどうなるのだろう?」という疑問を持つようになりました。
そこで自ら調べていくうちに、ペットの流通には大きな闇があると知りました。
そのなかで浮かび上がってきたのが「殺処分」の問題でした。
殺処分とは、「人間に害を及ぼす恐れがある動物」及び「不要になった動物」を殺害することです。
各自治体に置かれている保健所にあらゆる理由で引き取られた犬猫は、引き取りから7日間は保管されるものの、身寄りが見つかることがなければそのままガス室に押し込まれ苦しみながら死んでいくのです。
日本では現在も、犬猫あわせて年間約4万3000匹の命が人間の手によって奪われています。
何の罪もない犬や猫が、今日もどこかで命を落としているのです。
環境省の調査によると、その大部分は「所有者不明」の犬や猫。
逃げ出してしまって身元がわからなくなってしまったペットや、野良犬・野良猫がこれに当てはまります。
しかし、ここでさらに注目してほしいのが「飼い主から」の割合です。
保健所に引き取られた犬のうちおよそ10.4%の3,726頭が、猫はおよそ18.5%の10,450頭が飼い主の飼育放棄によって持ち込まれています。
このような殺処分の問題においては、飼い主の身勝手な飼育放棄を根絶するよう取り組んでいくことが根本的な解決につながっていくと思っています。
世の中のペット飼育に対する間違った認識、理解の浅さ、心構えのないままに飼い始めてしまうことが、飼育放棄の大きな要因。
「自分は大丈夫、絶対に飼える」と思っていても、将来あなたの身になにが起こるかはわかりません。
心構えのないままに飼い始めてしまえば、飼育放棄してしまう可能性は十分にありえます。
「どんな状況になっても飼い始めたペットを生涯飼育する」と、あなたは今自信を持って言えるでしょうか?
◆なぜ無責任な飼育が増えてしまうのか?
もしも一度「ペットを飼う」と決めて家族に迎え入れたのであれば、生涯飼育をするのは大前提です。
それなのに、飼い主自身が保健所へ持ち込むペットが絶えないという悲しい事実があります。
なぜこのようなことが絶えないのか?
それは、ペットを飼う前に飼育に関する正しい知識を得られる機会がないことに大きな理由があります。
人間の子どもが生まれる際には、本や雑誌はもちろんのこと、夫婦で受講できる子育て教室など子育てを学ぶ手段は数多くあります。
しかし、ことペットとなるとそういった「飼育を学ぶ機会」はほとんどありません。
人間もペットもひとつの命を育てることには変わりないのに、知識や覚悟が浅いままにペットを飼い始めてしまうことも身勝手な飼育放棄につながってしまうのです。
知識や理解が浅いうちに飼育を始めてしまうことには、ペットショップの問題も関係しています。
命を売ることがひとつの商売として成立しているペットショップでは時に、飼育の知識がない人にも安易にペットを売ってしまうことがあります。
◆身勝手な飼育を引き起こす「衝動買いの助長」
ペットショップでの「衝動買い」は身勝手な飼育を引き起こす大きな原因です。
大型スーパーにペットショップが併設されていると、ついついペットを見に行ってしまうことはありませんか?
飼う気はなくても買い物のついでに寄ったペットショップで、かわいさのあまりに衝動買いしてしまう人も実は多いのです。
気になった子はショーケースから出して実際に触れ合うことができますが、小さくてかわいい子犬や子猫を抱いてしまったら誰だって飼いたくなってしまいますよね。
実はこれ、ペットショップの売り方のひとつでまさに衝動買いを促しているようなもの。
購入してくれそうなお客さんには積極的に売ろうとするのは当たり前です。
「この子はとてもあなたになついていますよ」 「体も丈夫で、病気になりにくい犬種なんです」 「一緒に帰りたがってるみたいですね!」
こんな風に、購買意欲をかきたてるのもペットショップの売り方。
また、購入後もペットショップ側からは簡単な説明しか行われないのが一般的です。
生涯飼育にかかる手間や費用については、購入者の不安を誘って購入がその場でキャンセルにならないためにも、そこまでは深く触れないほうが店側にとっても都合が良いのです。
ちなみに、現在は動物愛護管理法によってペットショップでの犬・猫の展示時間は規制されているので、深夜まで展示・販売を行っている店舗はありませんが、それ以前は普通に行われていました。
一時期、私が働いている動物病院でも深夜営業を行っていたペットショップと提携し、購入されたペットの健康診断などに対応していたことがあります。
深夜営業中のペットショップに訪れるお客さんには、「ペットを飼おう」という目的やその覚悟を持って足を運ぶ人はあまりおらず、その多くがプレゼント目的やお酒に酔った勢いで購入していました。
そのため、朝方に健康診断のために動物病院を訪れる飼い主さんは、夜のお仕事をされている方が多かったのをよく覚えています。
しかし、夜のお仕事をしている方はなかなか家で過ごせる時間を確保できなかったり、ペットの世話をしっかりとみることが難しいと思います。
加えて、自分の意思ではなく心構えもないままに飼い始めてしまったペットですから、飼育放棄のきっかけになっていたとしても不自然ではありません。
◆ローン決済の存在が衝動買いをさらに助長する
出典:鈴木聖子著『ペットと幸せに暮らすための「13の質問」 ~未来の飼い主さんが準備しておくべきお金や保険のこと~』(インプレス刊)
犬と猫の場合、ペットショップで販売されている金額は数万円から数十万円が相場です。
種類や年齢にもよりますが、決して安い買い物ではないため衝動買いが起きてしまうのを不思議に思う人もいるかもしれません。
しかし、最近ではペットショップでもクレジットカードの分割払いに対応しており、簡単にローンを組むことができてしまいます。
また、クレジットカードなどを発行しているローン会社が独自に用意している商品のなかには、ペットの購入費用だけでなく、多額の医療費などにも幅広く利用することができる「ペットローン」も用意されています。
参考として、実際にあるペットローンの例を下記にまとめました。
【ペットローンの例1】
10~700万の借入可能 ・借入期間は1~8年 ・金利 年3.8~13.5% ・担保/保証人不要 ・満20歳以上、満60歳未満であること ・年金収入のみ、学生、専業主婦(夫)、無職だと利用不可
【ペットローンの例2】
10~800万円の借入可能 ・借入期間は6ヶ月~10年 ・金利 年2.5~7.5% ・担保/保証人不要 ・満20歳以上、満65歳未満(完済時の年齢が70歳以下)
安定した収入があること 例えば、(1)のローンを利用して、ペットの購入費に充てる30万円を借りたとします。
返済期間を3年とし、金利が最も高い13.5%だとしても月々の返済は1万円ほど。
そのため、収入がアルバイトだけの学生でも購入費を分割し、毎月少額ずつ支払えばペットを購入できてしまうのです。
さらにペットショップと提携している場合、指定の回数で返済すれば「金利はゼロ」ということもあります。
そのため、ペットの値段が高額だったとしても毎月数千円~数万円の分割払いで購入できてしまうのです。
ローンを組める年齢であれば、金銭的に余裕のないときでもかわいいペットにひとめぼれし、借金をしてまで衝動買いしてしまう可能性は十分にあるのです。
鈴木聖子(動物看護師、彩の国動物愛護推進員)
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