路上に「毒餌」、散歩中の犬が犠牲に 劇物メソミル含有 北九州市
2020年6月14日(日) 西日本新聞
警察、役所は対策とれず
北九州市小倉南区の郊外で散歩中の犬が路上に落ちていた青いペットフードのようなものを食べた直後に泡を吹いて死んだとの情報が「あなたの特命取材班」に寄せられた。
住民は区役所や警察に相談したが、具体的な対応は取られなかったという。
いったい何があったのか。
現場を訪ねた。
現場近くのガードレールには、注意を呼び掛ける紙が張られていた(写真は一部加工しています)
現場は田畑の間に民家が点在する集落。
周辺住民によると、昨年10月、住民の女性が飼い犬を散歩させていると、犬が青色の粉がかかったペットフードのようなものを食べた。
青いペットフードのような物体
直後に口から泡を吹いて、けいれんしたので、動物病院に連れて行ったが、数時間後に死んだという。
同じようなものは周辺に散らばり、一カ月ほど前にも近くの路上に落ちていたという。
住民が警察署に相談し、現場を訪れた署員に状況を説明したが、「犬を狙って故意に置いたとは断定できない」と言われ、その後、区役所に行ったものの「犬の殺傷は器物損壊罪に当たり、警察の対応」と言われた。
記者が現場で見つかった青い物を分析機関の九州環境管理協会(福岡市)で分析してもらうと、農業用殺虫剤として使われる劇物「メソミル」が含まれていたことが判明した。
メソミルは野菜の害虫駆除に使われ、一部のホームセンターやJAで販売しているが、購入するには「譲受書」に氏名や住所を書き、押印する必要がある。
散布する際に千~2千倍に希釈するという。
正しく使えば人体に影響はないが、薬物中毒に詳しい横浜市立大医学部の福家千昭准教授は「動物が高濃度のものを摂取すれば呼吸困難などの中毒症状を引き起こす」と指摘する。
周辺で聞き込みを続けると、付近では以前から飼い猫をめぐる近隣トラブルがあったことが分かった。
現場近くの住宅では住民が猫数匹を飼い、家に寄りつく猫にもエサを与え、数年前から近くの畑の持ち主が「猫がふんをしている」などと、この住民に苦情を言い、口論になっていたという。
苦情を言ったとされる男性と会って話を聴くと、「猫が畑をガサガサと荒らす。放し飼いにするのは非常識だ」と不満を漏らしたが、毒餌については「心当たりはない」と全否定した。
北九州市小倉北区の離島・馬島では近年、島の猫が急減し、周辺で青い薬物のようなものが付着した魚の切り身が見つかった。
動物虐待防止に取り組むNPO法人「SCAT」(福岡市)の調査でメソミルが検出され、同法人が刑事告発。
県警は毒入りの餌をまいて猫を殺傷したとして動物愛護法違反などの疑いで、区内の男性を書類送検した。
同法人の山崎祥恵代表理事は「故意でも過失でも毒物が路上に落ちていること自体が問題だ。子どもが拾って口に入れる危険もあり、警察にはしっかりと対応してほしい」と訴える。
ペットを巡るトラブルは各地で発生し、ペットの殺傷などを厳罰化する改正動物愛護法が1日に施行された。
ペットトラブルに詳しい渋谷寛弁護士(東京)は「ペットの殺傷は証拠が乏しいことが多く、立件が難しい。トラブルを避けるには飼い主が与えるもの以外、食べないようにしつけるしかないのではないか」と指摘した。
(白波宏野、山下航)