「助かる命だったのに」
転売や動物虐待をする“里親詐欺”の卑劣な手口
2020年5月9日(土) 週刊女性PRIME
里親に応募して、犬・猫をだまし取る『里親詐欺』が多発している。
その目的は虐待や売買などとみられ、過去には逮捕され有罪になったケースもある。言葉巧みに近づくその手口とは──。
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◆プロも騙される巧妙な手口
『里親になります。大切に育てます』。そう申し出て、猫や犬をもらい受けながら転売や虐待などをする「里親詐欺」が問題になっている。
一般社団法人 動物愛護団体『愛の肉球会』監事の今津秀行さんは、「春から秋くらいまでの子猫が生まれる時期は詐欺被害が多くなります」
加えて今年は、新型コロナウイルスの被害が蔓延し、終息のめどが立っていないという悪条件も重なる。
猫の保護活動を行う、NPO法人『もふっこひだ』理事長の袈裟丸聡美さんは危惧する。
「今、(保護を願う)問い合わせが増えています。犬猫は生活の中で最も弱い立場なので、コロナ騒動でも大きな影響を受けると思います。収入もなく、家賃も払えないとなれば飼っている動物のえさも買えず、手放すことを考える人は出てくるでしょう」
面倒な手続きを省いて一刻も早く手放したいと考える飼い主がSNSなどを通して個人間取引を呼びかける→それに詐欺師らが食いつく、という構図ができあがる。
通常、里親になりたいと思っても犬・猫の引き取りにはお金がかかることがある。
袈裟丸さんが明かす。
注意深くやっている団体は譲渡する場合に少しお金が必要なことがあります。
譲渡する犬猫の飼育費、避妊代、ワクチン代などどんな健康な子でも検査や治療などを含め、3万~5万円は費用がかかります。
その一部負担分くらいをいただきます。
すべてを団体の持ち出しだけでやっていたら活動自体もつぶれてしまいますから」
ところが、最初からだますつもりの人間は出費を惜しむ。
前出・今津さんは、「詐欺を働く人間は、費用がかかることまではやろうとしない。無償でもらえる子に応募するんです」
なぜ詐欺師らは犬・猫を手に入れようとするのか。金銭的に儲からなければ、食指を動かすはずはない。「理由のひとつがブローカーとブリーダーの存在です」
そう指摘する前出・袈裟丸さんは、かつて見聞した出来事をまじえ、こう伝える。
「黒猫と黒い柴犬が流行したことがありました。一部の国で縁起がいいなどの理由から人気があり、外国人向けに売買しようと動いていた人たちがいたためです。里親募集の掲示板やSNSも黒猫ばかりにアクセスが集まったときもありました。ブリーダーは、避妊・去勢をしていない犬猫を欲しがります。増やして売るためです。ペットショップに裏から安価で販売する人も結構いるんです。仕入れ値が安ければ儲かりますから」
ほかにも『里親詐欺』をはたらく目的として、「不適切な目的です。要するに虐待目的ですね。SNS映えするからちょっと飼ってみたいな、という理由の人もいます」(前出・袈裟丸さん)
猫の『里親詐欺』に詳しい愛護団体関係者は、匿名を条件に取材に応じてくれた。
同じような猫ばかりを集める転売者、動物実験で使う猫を里親サイトで探す医療関係者もいました。
単身男性だと警戒されてなかなか猫を譲渡してもらえないので、知っている夫婦にお金を渡し転売してもらっていたケースもあります」
と実情を明かし、「狙われるのがSNSや掲示板を利用する一般の方。特に自宅繁殖を繰り返す人は注意が必要。子猫は可愛いと、どんどん産ませて、すぐに里親に出す人は狙われやすい。安易に渡せば虐待されて、殺されることもあるんです」
しかし、見極めは難しい。
「実は私も里親詐欺にあったことがあるんです」と前出の愛護団体関係者は、プロでも欺かれる現状を次のように告白する。
「(相手は)親と同居し、子どもがいるシングルマザーでした。持ち家に住んでいて、目が見えない猫を大切に飼っていました。それでだまされました。彼女はたくさん子猫を集めていたようで、定期訪問すると別の子猫が4匹いましたが、私が譲渡した子猫はみんないなくて……。当初はゴマかしていましたが、いないことがバレたら、“脱走した”と言われました。話のつじつまが合わず、“殺しましたか?”と問い詰めたら、否定はしませんでした」
ただ、目の見えない猫は大切に飼われていたという。
「『里親詐欺』を疑われないために、先住猫を使うという巧妙な手口もあります。詐欺をはたらこうとする人たちのやり方はかなり狡猾です」と悔しさを振り返り、「だます人がいちばん悪いのですが、だまされた人も一生自分を責めます。一生、傷は消えません。ちゃんとした里親に引き取られたら生き残れたはずの命だったのにと自分を責めてしまいます……」と唇を強くかみしめた。
◆法律の観点から見る『里親詐欺』
猫の『里親詐欺』の裁判に詳しい細川敦史弁護士は、「私も何度か刑事告発したことがありますが、不起訴が多い。動物はしゃべりません。ですから被害が見つかりにくいんです」と難しさを指摘。
しかしながら、細川弁護士は2019年6月には担当した里親詐欺の民事裁判で約60万円の判決を勝ち取ったことがある。
動物愛護団体に託した7匹の猫の行方がわからなくなり、精神的苦痛を受けた女性が115万円の慰謝料支払いと猫の返却を求めた裁判だ。
そして、新たな詐欺ケースについても警鐘を鳴らす。
「引き取り詐欺です。お金をもらって引き取ります。ちゃんと里親を探しますよ、猫を幸せにしますよ、と言って引き取り、その後は行方がわからなくなる」(細川弁護士)
里親が見つかりにくい成犬や成猫を1匹いくらで引き取ります、と申し出て、引き取った後はどこかへ遺棄してしまうやり口もあるという。
「闇で横行しています。彼らは動物を1万~2万円で引き取る。あとは全部遺棄したり、餓死させたりもあるようです」(前出・袈裟丸さん)
中には数十万円単位で引き取りを持ちかけるケースもあるという。悪質極まりない。
動物虐待の裁判で、動物の愛護及び管理に関する法律違反の罪に加え、詐欺罪を勝ち取ったケースもある。
動物問題に詳しい渋谷寛弁護士は、「ちゃんと飼ってくれると思って譲ったのに違う目的だったとなれば、譲渡段階で詐欺罪は成立しています。ただ、1匹だけ譲り受けた人が殺すつもりだったかどうかを立証するのは難しい」
悪意を腹の底に隠した詐欺師らを、見かけで判別することは困難だ。
万が一、『里親詐欺』にあったときは、「まず相手方に内容証明郵便で、返還請求をします。猫がいる場所がわかれば、返還請求は可能です。でも、詐欺師は人をだますのが得意ですから、見破るのは大変です」
◆どうしたら「命」を救える?
危機回避のノウハウを、前出・袈裟丸さんは、「里親として名乗りがあったらまず、家族全員の同意があるかなどを確認し、家族の様子をそれとなく聞くんです。譲渡の場合は、環境省の基準に基づき、ひとつひとつ聞いていきます。他県だろうがどんなに遠くても、家は必ず見に行きます。迎え入れる飼育環境や意識に問題がないか直接確認し、すべてが整っているうえで譲渡します。ただ中には、そこまでせずに駅で渡します、というところや、性善説に基づいて、“飼ってくれる”という相手を信用してしまう人もいます。絶対にやってはいけません」
相手を吟味する際のキーワードは「初期投資」だ。
「現在は、基本的には猫の完全室内飼いが求められています。最初はケージを用意しないとトイレや爪とぎの習慣づけで失敗し、ちょっとした隙に逃げてしまう。それを理解して準備してくれる家は、継続飼育の意思がある。でも、家に行っても何の準備もしていない。トイレもない場合もあります。そういう人にはお渡ししません。初期投資ができない人は、具合が悪くなっても医者にも連れていかないでしょう」
袈裟丸さんは、受け入れ準備をすぐに実行しない相手に、疑念を持つ。
さらに、「家族や個人情報、職業、住所を明かしたがらない。猫との思い出とか、飼っていない人でも猫への思いや憧れなどがあると思いますが、それを語れない。そういうことで本気度を見分けていきます」
里子だけでなく、迷子猫を飼い主に渡す際も注意が必要。
前出・愛護団体関係者は、「飼い主を装う人もいます。必ず第三者や警察を間にはさんで引き渡してください」と注意を呼びかける。
◆不安を感じる人には譲渡しない!
慎重になる理由は明確で、「猫は人の監視のない密室で飼われるんです。だから虐待もすごく多いんです」(袈裟丸さん)という被害を避けるためだ。
前出・今津さんも、「直接会えないなど絶対に姿を現さない人は注意です。後ろめたい人は自宅を教えようとせず、友人宅を借りて、そこを自宅のようにみせかけた人もいたそうです」 とし、SNSなどで個人間譲渡をする人に対し、「不安を感じる人物なら、絶対に譲渡を断ってください。無責任な人は、引き取った後も無責任なままです。命の譲渡なんです。安易に決めず、慎重に決めてほしい。リセットはききません。責任を持って里親を探してください」と声を大にする。
「むやみに命を消そうとしている人間がたくさんいます。里親詐欺の連絡をもらうたびに苦しくなります。条件が厳しくても、理解して引き取ってくれる人は必ず見つかります。焦らないでほしい」(前出・愛護団体関係者)と里親探しをする人に現状を訴えかける。
ボランティアを装い、猫を集める詐欺一味、転売屋に引き取り屋、虐待常習者……有象無象の詐欺師がのさばる『里親詐欺』。
こうした悲劇は日々起きている。
保護活動に取り組む男性は次のように力説する。
「特に虐待犯は反省はしません。動物愛護法違反で逮捕されていても、再び譲渡会場に現れたり、猫を探しているやつもいるようです」
虎視眈々と狙い、言葉巧みにだましを続ける。
また、「身分証明書を偽造したり、わざわざ女装して猫をもらいに来た男性もいました。家族ぐるみでだまそうとする人もいます。もし被害に遭ったら、SNSなどで拡散してほしい。本当につらいと思いますが、注意喚起が次の被害を防ぐことにつながるんです」
◆里親詐欺で逮捕された事案(一部)
■加害者:40代男性(無職)神奈川県
猫は動物病院などから引き取った。生後3か月の子猫の後ろ足の爪を深く切るなど虐待した。ほかの猫も舌を切断したり、腰を骨折させる、無理やり溺死させた疑いもある。逮捕につながった猫以外にも数十匹が被害に遭ったとみられる
・罪名:動物愛護法違反、詐欺未遂容疑→懲役1年6か月、執行猶予4年
■加害者:30代男性(会社員)神奈川県
猫を殺傷目的で引き取った。床に叩きつけたり、アパートの2階から放り投げて殺害。川に投げ込まれ殺害された猫もいた。さらに譲り主に対して「生きたまま川に投げた」旨もメール。譲り受けた猫のうち13匹が行方不明、死体発見3匹。しかし、もっと多くの猫が犠牲になっているとみられている。部屋にはトイレやケージを置き、先住猫がいるようにみせたり、電話で定期報告をするなど巧妙に虐待を隠していた
・罪名:動物愛護法違反、詐欺罪→懲役3年、執行猶予5年
■加害者:20代男性ほか(無職)北海道
引き取ったチワワやビーグルなどの犬を虐待し、5匹の死体を公園内に不法投棄した。衰弱や刺し傷のあった犬も
・罪名:不法投棄、罰金刑
■加害者:20代男性(県嘱託職員)奈良県
猫はネットを利用し、譲り受けた。フローリングに叩きつけて殺害、死体を遺棄した。ほかにも譲り受けた猫も顔面を殴打、耳をライターであぶる、熱湯をかけるなどの虐待をした。仕事のストレスがたまったときや猫が思いどおりの行動を取らないときに暴力をふるっていたと供述していた
・罪名:動物愛護法違反、廃棄物処理法違反→懲役1年、執行猶予3年
◆里親に渡す前にちょっと考えて!
(※実際の事例をもとに詐欺手口をご紹介)
●●県●●市に住んでいる50歳の主婦です。
私が仲介して以前、里親になってもらった方から猫を飼いたいと連絡をもらっています。
▲▲県▲▲市在住で、先住猫がおります。
ワクチン、手術などもしっかりして、愛情をもって飼われているご夫婦です。
まだ、里親さんは決定されていませんか?
ある里親募集掲示板で実際にやりとりされていたメッセージだ。
送った人物は、実は里親希望者を装い詐欺をはたらこうとしているのだが、見ただけでは「どこが詐欺なのか」を見分けるのが難しい。
愛護団体関係者が解説する。
「実は、この里親希望者は他の人にも同じコメントをしていました。募集主がこの人物に“渡す本人と直接話がしたい”と言っても聞いてくれず、“自分が受け取り渡す”と言い続けて、最終的には怒りだしました」というのだ。
「慣れている人なら文面を見て“怪しいかな?”と注意しますが、一般の人はだまされます」
ネット上でのやりとりは特に気をつける必要がある。
里親詐欺か見分けるためのポイントは、「ボランティアを装う人もいますので里親希望者から連絡が来たらその人のアカウントを注意深く調べる必要があります。特にいろいろな人に里親希望の返事を出していたり、早く動物を手に入れたい焦りがある人は要注意です」
アカウントの作成が新しい、普段ほとんど使用していない、フォロワーが少ないなども注意したい。
何度も作り直している可能性があるからだ。
「やることが多くてめんどくさい」と思う人はいるかもしれないが、慎重な行動が1匹を救う一歩につながる。
【安全に里親に出すためのチェックリスト】