動物の死骸は遺体かゴミか
弔いの気持ち、欠けた法律
2020年4月26日(日) 朝日新聞
神戸市立六甲山牧場で飼育していた羊など動物の死骸を、飼育員らが牧場内に埋めていたことが問題になった。
ペットが死んで自宅の庭に埋めるのはどうなのか。動物の死骸には、廃棄物として扱われるものと、そうでないものがあるらしい。
牧場を運営する市の外郭団体・神戸みのりの公社によると、2013年ごろ~19年11月ごろ、飼育員9人は牧場で亡くなった動物推計64体を敷地内に埋めていた。羊、ヤギ、豚、ウサギ、アヒルなどだ。
同公社は不法投棄の可能性があるとして、県警に通報した。
公開されている羊の赤ちゃん=2020年3月14日、神戸市灘区、武田遼撮影
本来は、産業廃棄物業者や県の家畜保健衛生所に引き渡して処理するのが手順だ。
牧場内に埋めたのは、繁忙期に外に運び出す人手が足りなかったり、適正な処理の手順が飼育員に伝わっていなかったりしたためだという。
ただ気になるのは、同公社によると「可愛がっていたのでそばにおきたかった」と説明した飼育員がいたことだ。
ゴミとして処理するのにちゅうちょし、牧場にいる仲間の近くにおいてあげたい気持ちがあったという。
◆法律上「廃棄物」=ゴミ扱い
動物を埋葬してはいけないのか。
廃棄物処理法で、「動物の死体」は「廃棄物」とされている。ゴミ扱いだ。
さらに、牧場など畜産業から出る死骸は「産業廃棄物」と定められている。
環境省によると、畜産業からは動物の死骸が大量に出て、悪臭も発生する。
一般に処理が難しいため、産業廃棄物に指定されている。
一方、動物園やペットショップで扱われる動物の死骸は「一般廃棄物」にあたる。
こちらも法律上はゴミだが、実際にはゴミ扱いしないよう、工夫しているところは多い。
神戸市では、一般廃棄物にあたる死骸は、原則として市動物管理センターの専用焼却炉で処分している。道路で車にひかれた動物や、神戸市立王子動物園(同市灘区)などからも引き取っているという。
神戸どうぶつ王国(同市中央区)では、園内にある専用焼却炉で処分している。
遺骨は業者に引き取ってもらっているが、園内に慰霊碑がある。佐藤哲也園長は「理念的にゴミとは扱えず、遺体という位置づけだ」と話す。
◆ペット 飼い主の気持ち次第
例外はペットの死骸だ。
環境省によると、「廃棄物」にあたらない可能性がある。
1977年、宝塚市が「動物霊園で扱う動物死体は廃棄物か」と問い合わせたところ、国は「廃棄物に該当しない」と回答した。
ただ、ペットならすべてゴミ扱いを免れるわけではない。
同省によると、廃棄物か否かは「自治体の個別の判断」だが、判断の基準となるのが「飼い主の気持ち」だという。
「飼い主に弔いの気持ちがあれば廃棄物として扱われないだろう」と同省の担当者。
ただ、「飼い主本人が『供養の気持ちがあった』と言っても、処分方法が乱雑なら不法投棄とみなされる可能性がある」と言う。
大事なのは「墓を建てるなど人間の遺体と同等の扱いをして供養しているかどうか」とも話す。
六甲山牧場の飼育員たちにも、弔いの気持ちがあったのではないか。
だが、神戸市の担当者は「六甲山牧場の動物は事業として飼育されていたもので、ペットとしては位置づけられない。産業廃棄物にあたるだろう」との見方を示す。
◆命の尊厳守り ルール作りを
動物福祉に詳しい日本女子大学の細川幸一教授の話 日本では動物の死骸の法的な位置づけがあいまいで、動物の命の尊厳を守ろうという意識が低い。
廃棄物処理法は不法投棄などの悪事を防ぐための法律のはず。
弔いで家畜の死骸を敷地に埋めたことが違反に問われるのであれば、不思議な話だ。動物の死骸の処理方法を自治体の判断に任せるのではなく、包括的なルールづくりに向け議論していくべきだ。
(笹山大志)