ハチ公にマスク「善意でも控えて」 話題で「密」な空間
2020年5月1日(金) 朝日新聞
新型コロナウイルスの感染拡大で閑散とする東京・渋谷駅前(東京都渋谷区)で「忠犬ハチ公像」がたびたびマスク姿にされ、管理する区などが頭を痛めている。
SNSなどで話題になると人が集まり、「密」な空間が生じることも。
関係者は「マスク不足で困っている人に1枚でも行き渡るように、善意でも像に着けるのは控えて」と訴える。
口元に白いマスクを着けられていた東京・渋谷駅前のハチ公像(2020年4月8日、渋谷区観光協会提供)
4月8日。
この日予定されていたハチ公の死を悼む没後85年の慰霊祭は感染拡大の影響で中止となり、関係者の献花のみが執り行われた。
ただ、献花に先立ち、この日のハチ公像の口元には白いマスクが……。
管理する区観光協会は「善意のマスクなのかもしれないが、ハチ公を使った私的な宣伝行為はできない」として取り外した。
ハチ公像の脇の広場に落ちていた白いマスク=2020年4月19日午後6時20分、東京都渋谷区、池田良撮影
感染拡大が懸念された年明け以降、ハチ公像は数回にわたりマスク姿にされた。
過去にはマフラーを巻かれていたこともあり、協会などの関係者が見つけるたびに外している。
区は無許可でハチ公像に展示物をつけることなどを禁じており、展示物を着けて宣伝に使用できるのは国政や地方選挙の投票の呼びかけや交通安全のPR、国際的なスポーツイベントといった公益性が高いケースに限定。
商店街や百貨店などでつくる「忠犬ハチ公銅像維持会」への申請が認められれば、一定期間を宣伝活動に充てられる運用だ。
地元の商店街振興組合が主催してサンタの装いになったハチ公像。正式な手順を経てマフラーや装飾を着飾っている=2016年12月、東京都渋谷区、池田良撮影
長年、目立ったいたずらに遭ったことはなく、みんなに愛されてきた渋谷のシンボルがマスク姿になることに、区の幹部は「正直いたちごっこ。でも、厳しい取り締まりはしたくない」とこぼす。
協会や維持会は「ハチ公への敬意や感染防止啓発の意味を込めた善意のプレゼントかもしれない」と口をそろえる。
そのうえで、「見物や撮影に集まる人たちで密な空間になることもある。お気持ちには感謝しつつ、マスク不足で困っている人たちに行き渡るように、像に着けるのはやめて」と理解を求めている。
ハチ公像と記念写真に納まる人たち=2020年4月19日午後、東京都渋谷区、池田良撮影
ハチ公は秋田県大館市生まれの秋田犬。
飼い主だった旧東京帝国大教授の上野英三郎博士(1871~1925)を毎日、渋谷駅まで送り迎えし、博士が亡くなってからも約10年間、駅前で待ち続けた姿から「忠犬」として語り継がれる。
口元に白いマスクが着けられていた東京・渋谷駅前のハチ公像=2020年4月11日午後5時28分、東京都渋谷区、内田光撮影
渋谷生まれで長年、地元の街並みを撮影し、郷土資料の保存に取り組む佐藤豊さん(69)が、コロナ禍で閑散とする街の様子を見つめてしみじみと話す。
「上野博士の帰りをずっと待っていたハチ公には忍耐があった。ハチ公像もきっと、感染拡大の収束を我慢強く待っていると思う」
(池田良)