犬猫の販売・繁殖業者への数値規制 議連や団体が独自案まとめる
2020年3月24日(火) 朝日新聞
身動きがままならないケージで飼育するなど、悪質な繁殖業者やペットショップへの行政指導を効果的にできるようにするため、具体的な数値を盛り込んだ基準作りが、環境省を中心に進められています。
昨年6月の動物愛護法改正の「宿題」で、超党派の議員連盟は独自案をまとめました。
ペット関連の業界団体や動物愛護団体からも私案が示されています。
◆ケージの広さや上限飼育数などを規制する議連案
超党派の「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」(会長=尾辻秀久参院議員)は13日、基準案をまとめた。
取りまとめにあたった議連事務局次長の高井崇志衆院議員は、「問題のある業者を取り締まり、改善するためには具体的な数値が必要だ。自治体の職員が使いやすい基準にするとともに、欧州の先進国で行われているような水準の数値規制の導入を目指したい。たとえば、犬のケージの広さは小型犬で最低2平方㍍を確保してほしい」などと話す。
3月中をめどに小泉進次郎環境相への提出を目指す。
繁殖業者やペットショップを巡っては、ほとんど身動きできない狭いケージに入れっぱなしで飼育・展示したり、一つのスペースに多数の繁殖用犬猫を入れてすし詰め状態にしたり、ケガや病気をしても適切な診療を受けさせなかったりといった劣悪飼育が社会問題になっている。
朝日新聞の調べでは、繁殖から小売りまでの過程で毎年、約2万5千匹の犬猫が死亡していることも明らかになっている(死産を含まず)。
だが動物愛護法にはあいまいな表現しかないため、自治体は悪質業者に対する指導が効果的に行えてこなかった。
こうした状況の改善を目指し、昨年6月に議員立法で成立した改正動愛法には、環境省令により「できる限り具体的な」基準を設けるよう定められた。
同議連では半年にわたり業者や有識者らにヒアリングを重ね、海外事例も調査し、50の重点項目をベースとする基準案を作った。
ケージの広さや運動にかかわる数値規制のほか、適切な世話や掃除が行われるようにするため、従業員1人あたりの上限飼育数を繁殖業者では犬は15匹まで、猫は25匹までなどと規定した。
日大の津曲茂久・元教授(獣医繁殖学)へのヒアリングで、頻繁だったり、高齢だったりする出産を制限すべきだと指摘されたことなどを受け、犬猫とも出産は「1歳以上6歳まで」「生涯に6回まで」などとした。
◆業界団体「ドイツのようになれば、日本から犬が消える」
一方で、ペット関連の業界団体「犬猫適正飼養推進協議会」(会長=石山恒ペットフード協会会長)は昨年11月、中央環境審議会動物愛護部会で行われた関係者ヒアリングの場で、業界としての案を示している。
石山会長は欧州並みの基準導入への懸念を示しつつ、犬の寝床の大きさに関して「高さ=体高×1.3倍」「幅(短辺)=体高×1.1倍」などとする案を提示。
「基準がもしドイツのようになれば、日本からほとんど犬が消えてしまう」(石山氏)と主張した。
動物愛護団体からも案が示されている。
環境省が基準を定めるために設置した検討会で今年2月、「動物環境・福祉協会Eva」と「動物との共生を考える連絡会」が、具体的な数値を含む基準案を示した。
Eva理事長を務める俳優の杉本彩さんは「業者の利益を優先的に配慮したものであってはいけない。動物を適正に扱える基準を」と訴え、いくつか具体的な案を提示。連絡会は、例えば犬の寝床は「体長の1.5倍以上の長さと体高の1.3倍以上の幅が必要」などとし、寝床に入れておくのは犬が起きている時間の「50%以下」にするよう求めた。
また猫では、1日の大半をケージの中で過ごさせる場合には、「2段以上のケージ」「トイレ、休息場所、食事場所は50センチ以上離すこと」などとした。
米国獣医行動学専門医の資格を持つ入交眞巳・北里大客員教授は「動物本来の行動ができるよう、動物福祉を第一に考えた飼育管理が実現できるような基準を定めるべきだ。業者のもとにいる犬猫の飼育環境を向上させることは、心身ともに健康な子犬・子猫が販売されることにつながり、消費者にも大きなメリットがある」と指摘する。
環境省は今春にも具体的な数値を盛り込んだ素案を示す予定で、新たな基準は来年6月に施行される。
犬の飼育施設に関する主な基準案
◆自治体、上限飼育数や施設の広さなどの規制求める
新たに導入される、具体的な数値を盛り込んだ基準を実際に運用することになるのが、全国の自治体。朝日新聞では昨年12月から1月にかけて、動物取扱業に関する事務を所管する都道府県、政令指定都市など106自治体に、どのような事項について数値規制や具体的な基準が必要と考えるか、アンケートを実施した(回収率100%、複数回答可)。
最も多かったのは「従業員1人あたりの上限飼育数」で、71自治体が必要と回答。
「飼育数に対して従業員が少ない施設は、管理が行き届かないケースが見受けられるため、厳格な規定が必要と考える」(青森県)などの意見が寄せられた。
また、動物の繁殖や飼育には専門的な技能や知識も求められることから、単なる従業員ではなく、「(ある程度の知識や経験を持つ)動物取扱責任者1人あたりの上限を設ける必要があるのではないか」(宮城県)という指摘もあった。
また「飼育施設の広さや高さ」が68自治体で続き、母体や産まれた子どもの健康を守るため「出産の頻度」(49自治体)、「出産の上限年齢」(46自治体)について必要だとする自治体も多かった。
「飼養施設の床材については、消毒しやすい材質のものがいいと考えられます。出産上限年齢は7歳程度がいいと考えられます。出産の頻度は10カ月程度の間隔をあけた方がいいと考えられます」(佐賀県)など、具体的な提案もあった。
自由記入欄には、具体的な数値を盛り込んだ基準を歓迎する意見が目立った。
「具体的基準が明示されることによって、基準違反などが明確になるため、指導は行いやすくなると思います」(名古屋市)
「より多くの項目にある程度の数値規制があれば、監視・指導のよりどころになると思う」(山形市)
一方で、「数値規制(具体的基準)は必要ない」と回答した自治体は二つにとどまった。
11自治体は無回答だった。
(専門記者・太田匡彦)