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動物実験、獣医大の驚くべき実態

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「明日殺されるのに…」獣医大の驚くべき実態、学生たちの苦悩
全国の獣医大を取材してわかったこと

2020年3月13日(金) 現代ビジネス

森 映子 時事通信記者 プロフィール

ある獣医大学の実験犬。構内に犬のケージが運び込まれると、ふん尿の強烈な臭いが漂うという。

◆実習にショックを受ける学生たち
「外科実習の前日に実験犬を犬舎から外に出すと、しっぽを振って大喜びします。翌日には殺されるのに……切ない」「バケツにどんどん死体を捨てた」――。
憧れの獣医師になるために大学に入ったら、犬、牛、鶏、ラットなど多くの実験動物を傷つける実習にショックを受ける学生がいる。
最近は、動物が本来の行動ができて幸福な状態であるべき「アニマルウェルフェア」(動物福祉)を重視し、健康な動物を傷付ける実習を減らして練習用の模型など代替手段を取り入れ、治療を要する動物の臨床実習に力を入れる大学が出てきた。
しかし一方で、狭くて汚いケージに実験動物を閉じ込め、麻酔の失敗で動物が苦しんだり、術後のケアも不適切だったりする事例があることが取材で分かった。
私は2017年から2年間かけて、獣医大関係者らの証言、国公立獣医大に情報公開請求した動物実験計画書などに基づき、各地の獣医大を取材した。
全17の獣医大に取材を申し込み、そのうち2大学が飼育施設、1大学が臨床実習の見学をさせてくれた。
 取材を始めたきっかけは、動物保護団体「Cruelty Free International」(本部英国)が17年1月に日本の2獣医大の犬舎の動画と写真をインターネットで公開し、狭くて糞尿臭いケージに実験犬を閉じ込めているなどの状況を暴露したことだった。


写真提供:Cruelty Free International

団体は文部科学大臣に「近年獣医師を目指す人には命を尊重する心を養うことが求められ、故意に動物を傷つけることに懸念の声が高まり、英米、カナダなどでは実験動物を授業で使うことを止めた獣医大、医大が多くあり、代替法や臨床実習に力を入れています」として、犬の侵襲的(傷付ける)な実習をやめるよう要請文を提出した。
ちなみに英国では実験動物で手技の練習をすることが法律で禁じられている。16年には米、カナダの全医学部で生きている動物を使う実習が廃止された。

◆残酷な5日間連続手術
日本の獣医大の「実習」とは、実験動物で解剖、手術の練習などを行うものと、動物病院に連れてこられる病気の犬猫、農場の病気の牛・馬などを診る臨床実習の2種類がある。
日本は長らく実験動物の実習に頼り、臨床実習は「ほとんど見学」(大学関係者)という状態が続いてきた。


ある獣医大の実験犬。後ろ足に何か処置がされている

例えば犬の外科手術は日本では、1日で終えて安楽死させるのが一般的だ。
しかし日本獣医生命科学大(東京都武蔵市)では、連続5日間同じ犬の開腹・開胸手術をしていたことが分かった。
1日目に不妊去勢、2日目に脾臓の摘出、3日目に腸管吻合、4日目に骨盤から大たい骨を外す、5日目に肺の切除、という内容。
毎日、手術をして麻酔から覚めたら翌日再び麻酔をかけて体を切ることを繰り返し、「犬は痛がってキューン、キューンと泣き叫んでいた」(卒業生)。
5日間連続手術について、動物実験に詳しい獣医師は「通常の不妊手術でも、雌犬は術後数日間は非常に痛がる。
残酷極まりない。
これは動物愛護管理法にも違反する行為ではないか」と憤った。
 少なくともこの方法を30年以上続けていたが、ある学生が外部の組織に訴えて翌年から中止された。
同大に事実関係を問うと、17年8月に河上栄一獣医学部長名の書面で「ご指摘の通り、4年前までは実施していました。しかし、現在は1日のみ生体を使用することに変更しました」などと返答があった。
大阪府立大も外科実習で、同じ犬を3回開腹・開胸手術で使っていたことが分かった。
同大に今後の方針を聞くと、岡田利也獣医学類長名の書面で「18年4月から外科実習の犬を半分に減らす予定」と回答があり、今年再び質問すると、「19年4月以降、外科実習で実験犬を用いておりません」(岡田氏)とのことだった。
実験動物の実習について、獣医大卒業生は「医学部では、生きている人間を手術の練習台にせず、御献体を使い、臨床実習で学ぶ。獣医学部なら動物を犠牲にしていいとは思いませんでしたが、教員に理解してもらえず、仕方なく授業を受けました」と打ち明けた。

◆麻酔せずに放血殺して…
酷い話は犬にとどまらない。
酪農学園大(北海道江別市)で09年、北里大(青森県十和田市)で14年、実験牛を麻酔せずに放血殺して解剖に使っていたことが学生の内部告発によって明らかになった。
告発文には「子牛は首をずばっと切られたとき、モーモーと苦しそうに大きな叫び声を上げた」などと記されていた。
両大学は事実関係を認め、「獣医学部においては、研究、教育いかなる場合においても、牛の無麻酔放血殺は廃止してます」(北里大)などと明言し、「16年から全身麻酔をかけた後、筋弛緩薬で呼吸停止を確認。以前は麻酔下での放血も認めていましたが、今は放血はやっていません」(山下和人酪農学園大教授)としている。


ある獣医大学の実験牛。実験の有無に関わらず、短い鎖でつながれたままになっている

最近は山口大、鹿児島大などが、犬などの侵襲的な実習を廃止(牛、豚、鶏など産業動物の解剖実習を行っている大学はある)して、精巧な外国製の模型を購入して念入りに練習した後に臨床実習に臨み、保護犬猫の不妊去勢手術でシェルター・メディシン(保護動物の群管理)教育を始めている。
ただし、取材に応じてくれた大学がごく一部に限られ全体像がつかめない。
また生きた犬の使用はやめても、実験動物の業者から購入した死体を使っている大学もある。

◆麻酔が切れてラットが暴れ出し…
さらに最近の取材で、ラット、マウスなどの実習で不適切な扱いがあることが分かった。
例えば北里大では、教員がラットに麻酔を実演した後にやるのだが、大学関係者によると、「薬を充満させた瓶の中に入れて麻酔をかけたのですが、学生は教員から麻酔薬の量について明確な指示もなく、加減が分からず適当に入れました。すると解剖の途中で麻酔が切れてラットが暴れ出した。二酸化炭素を充満させた瓶に入れて死なせたが、腹から血が流れ出していた。その場で、『やばいね~』『殺害だね』という声が上がりましたが、そのままラットの体を切り続けている学生もいた」という。
術後の処置にも問題を感じた。
北里大の実習では、ラットの卵巣を切除してクリップで縫合後、ケージに戻したが、「ケージは糞尿だらけ。さらに複数のラットを同じケージに入れるので、クリップをかじり合って傷口が化膿してしまった」。
金網のケージ内に、巣箱など動物の行動欲求を満たす環境エンリッチメントの用具は何もなかった。
獣医学的ケアに詳しい関係者は「金網は足裏を痛めます。せめてタオルを入れれば、寒さから身を守れて、くるまって眠ることもできます。本来は、飼い方と術後ケアも含めての教育ではないのでしょうか」と指摘する。
この他、脊髄反射を見るために、上顎をはさみで切って頭がない「脊髄ガエル」を作る生理学の実習がある。
「切る場所がずれると、『はい、別のカエル』と次々と取り換えた記憶が今も頭から離れない」と語る学生もいる。
私はこれらの事実確認のために、北里大の高井伸二獣医学部長に今年2月に質問書を送ったが、返答はなかった。

◆学生たちの「本音」
保定(動物が動かないように押さえておくこと)や腹腔内投与などの練習ができるマウスの模型をいくつか導入した獣医大でも、必ずしも模型を十分活用しているとはいいがたい実態がある。
麻布大(神奈川県相模原市)ではマウスを使う実習で、模型はあったが、「教員は『模型もありますよ。高いから壊さないでね』という感じで、全員が練習をみっちりやりなさい、という感じではなかった」と学生。
生きたマウスは一人1匹ずつ与えられたが、「しっぽに生理食塩水を静脈注射する練習でも暴れたので、何度もしっぽをひっぱり、マウスが疲れ果てるまで繰り返してました」。
最後は麻酔薬を過剰投与して安楽死させ、解剖して臓器の位置を確認した。
実験マウスは「どんどん繁殖するので時々間引きされています。毎日『今日実験、実習に使われるのはこの子』と見送っているうちに、動物実験に嫌悪感を覚えるようになった……」と打ち明ける学生もいた。
有精卵の中にウイルスを投与して1週間後に胎児を取り出す実習もあった。
「グロテスクだった。胎児には血管が通い、ひよこの形をしていた。細胞培養するため臓器を次々取り出して、バケツにどんどん死体を捨てた。嫌になりました」
私はこれらの点について、麻布大に2月に質問したところ、村上賢獣医学部長名の文書で「代替法教材を積極活用するとともに、動物の福祉に配慮した実習を行っております。また臨床実習におけるシェルター・メディシンの導入を検討しています。動物福祉の取り組みについては、ホームページなどで公開することを準備してますので、今後はそちらでご確認ください」と返ってきた。
このような実習に疑問を抱いている学生が気持ちを吐露した。
「どの実習も殺すほど必要だった、と納得したことがない。今は優れた模型もあり、代替法や動画で十分学べると思う」
「教員に実習の必要性について尋ねたら、『必ずしも必要ではないが、まぁやっとけば』『私もよく分からない』と返ってきました」
「教員から『自分たち専門家は一般の人と考え方が違う。外で実習の話をするな』と言われました」
中には「このような授業を受け続けると、学生全員が良心の欠如した人間になってしまうのではないか」と訴える学生もいる。

◆日本の動物実験はどこへ向かうのか
実習については、獣医大学が加盟する「全国大学獣医学関係代表者協議会(JAEVE)」の稲葉睦会長(北海道大大学院教授)が17年12月に東京大で開かれたシンポジウムで、「実習での生体利用は可能な限り減らす方針で、全国の大学の共通理解だと思っており、今具体的な取り組みを進めています」と発言した。
JAEVEは「代替法検討委員会」を設置しており、私は今年1月に久和茂(東京大大学院教授)会長に委員会の進捗状況を聞いたところ、メールで「公表できる状況ではありません。教育改革には非常に多くの課題があり、少しずつ改善作業を進めているところです」などと返信があった。
私は3年前から何度もこの件でJAEVEに質問しているが、返事をもらったことがない。
生理学、解剖学などでの小動物、両生類の使用については、「健康な状態の臓器を生で見る必要がある」という大学教員の主張をこれまで何度か聞いてきた。
どうしても生体実習が必要というのであれば、以下のことを守るべきではないかと思う。
まず動物実験(実習を含む)の国際原則である3R(細胞やコンピューターなどできる限り代替法を活用する、使用数を削減する、できる限り苦痛の軽減を図る)を守ること。
3Rは、1959年に英国で研究者の倫理基準として提唱された。
3Rは動物愛護管理法で理念に過ぎないが、代替法と削減は配慮義務、苦痛軽減は義務として明記されている。
日本の動物実験施設は自主管理体制で、自治体への届け出義務すらないため、施設内で実際に何が起きているか外部からは分からない。
獣医大は、動物実験計画を審議する学内の動物実験委員会で個々の実習の必要性、苦痛軽減の方法などについて議論を尽くすべきではないだろうか。
「動物福祉は世界の規定路線であり、健康な動物を傷付けたり、殺したりする実習は廃止していくべきです」と明言するのは獣医倫理学が専門の高橋優子酪農学園大准教授。
「例えば犬の解剖をするなら、飼い主の理解を得て病院で死んだペットを『献体』としてもらったり、保護したけれど死んでしまった犬を動物愛護団体から頂いたり、自然死した野犬を使ったり、あらゆる手段を尽くすしかない。結果が分かっていることを確認する実習は、動画やコンピューターなどで代替が可能です。手技を学ぶには、模型などで何度も練習を積んだ上で、臨床実習に注力すれば良いでしょう」とする。
獣医大学は教育機関として、学生が納得するような倫理的実践を示してほしい。
そして実習は動物実験でもある。アニマルウェルフェア重視の動きが世界的に広がる中、これが獣医大だけの問題ではなく、医薬品、化粧品、食品、化学製品などあらゆる分野で行われている動物実験にも共通することであることを、その恩恵を受ける私たちも認識する必要があるのではないだろうか。


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