戸塚の車窓から…ヤギ?のなぜ
「命の尊さ知って」 きっかけは5年前の事件 横浜
2020年3月4日(水) カナコロ(神奈川新聞)
◆ファン集い交流架け橋に
JR戸塚駅(横浜市戸塚区)の線路脇で、2頭のヤギが暮らしているのをご存じだろうか。
ともにメスで3歳の「命(めい)」と2歳の「結(ゆい)」。
地元で起きた事件をきっかけに2年ほど前、駅前で喫茶店を営む片山大蔵さん(51)が「子どもたちに命の大切さを知ってほしい」と飼い始めた。
そのかわいらしい姿が人々を引きつけ、今では子どもから大人まで多くの“ファン”が飼育小屋に足を運ぶ。
「生き物に触れることで命の尊さを知り、あのような事件が2度と起きないでほしい」。
片山さんの願いは実を結びつつある。
片山さんが差し出す餌を元気いっぱいに食べるヤギの「命」と「結」=横浜市戸塚区
小屋は同駅下りホームの目と鼻の先。
線路を挟んで金網越しに、真っ白な毛に覆われた2頭の姿がちらちら見える。
知人から譲り受け、福島からやってきた。
片山さんには忘れられない事件がある。
5年ほど前、地元の15歳の男子高校生が母親と祖母を殺害した。
「まさか戸塚で」と衝撃を受けつつ、「親戚や近所との付き合いが希薄になり、子どもたちが葬儀に参列する機会は減っているはず。ペットも飼っていなければ『死』を身近に感じることがないのでは」と考え、多くの人が行き交う駅前でヤギの飼育を決断した。
なぜヤギなのか。
片山さんは「都内の団地で除草にヤギを活用しているというニュースを見て、街中でも飼えるんだと興味を持った。順応性が高く、臭くもないようなので大丈夫かなと思った」と説明する。
すくすくと成長し、今では体重が飼育当初の3倍近くまで増え、約80キロに達するという。
◆「ヤギとともに笑顔も広がっていけば」
世話は午前と夕方の1日2回。喫茶店経営の合間に小屋を掃除し、近くを流れる柏尾川沿いの土手を散歩する。
「ヤギだ」「飼ってるんですか」と道行く人から声を掛けられ続け、小屋の前では餌の野菜を片手に、知らない人同士が言葉を交わすのが日常風景だ。
エフエム戸塚のパーソナリティーを務め、イベントを主催するなど、地域活性化に取り組む片山さんは「コミュニケーションを生み出すヤギはすごい。
一つの『まちづくり』につながっている」と胸を張る。
近い将来の目標は「赤ちゃんヤギ」の誕生。
「かわいいし、たくさん増えればほしいと言う人にあげるのもいいよね。それでヤギとともに笑顔も広がっていけば最高だ」と、自ら破顔した。
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