愛犬と同行避難、避難所で断られた
自宅は全壊、やむなく車中泊2週間
2019年12月14日(土) sippo(朝日新聞)
台風19号とその後の大雨ではペットと暮らす人たちも被災した。
県は国の指針に沿って、飼い主と一緒に避難する「同行避難」を地域防災計画に明記し、推奨しているが、避難所で断られた人もいた。
家族同然のペットを守りたい飼い主の安全を確保するため、自治体側には事前の準備や柔軟な対応が求められる。
「居場所が無かった」
須賀川市の自主避難所で、家族4人と愛犬のトイプードル「クッキー」と生活を続けた女性(32)は11月16日、疲れた表情で話した。
10月12日夜、近くを流れる阿武隈川の氾濫(はんらん)を恐れ、一家はクッキーと一緒に高台の避難所に向かったが、受け入れを断られた。
水害で平屋の自宅は全壊。女性はクッキーと2週間ほど避難所の駐車場で窮屈な車中泊を続けた。
その後、避難所で暮らす人の理解を得て、玄関脇に畳を敷き、段ボールで囲った一角にいた。
クッキーは痩せ、鳴き声も出さない。
女性は「クッキーなりに気を遣っているのだと思う」と話した。
避難所の出入り口付近の段ボールで囲った一角で飼い主と過ごすクッキー
2匹のトイプードルと暮らす本宮市の国分紀子さん(55)は「避難所では犬を受け入れてくれないだろう」と自宅2階にとどまったところ、周囲は浸水。
翌朝、消防のボートで救助された。
被災直後に頼ったのがドッグカフェとドッグホテル「Heart of WAN」(二本松市)だった。
かつて店舗は楢葉町にあったが、震災の津波と原発事故で被災。
二本松市に移って再開し、今回は犬5匹を預かった。
震災でペット連れ避難の課題が浮き彫りとなり、避難所の動物同伴エリアの必要性などを提言してきた。
店長の佐藤久美さん(46)は「あの大災害を経験した教訓がいかされず残念。一緒に逃げても、避難所に居場所がなければ飼い主は避難をためらう」と話す。
県は地域防災計画でペットの同行避難を明記するが、「避難所の具体的な運用は市町村に任せている」(担当者)。
今回、ペットを受け入れたと報告があった避難所は須賀川市と本宮市の6カ所にとどまり、災害用に犬用ケージ70個を用意していたが、貸し出しの要望は無かったという。
◆長野市は暖房付きコンテナハウスを用意
一方、県外では様々なペット対応があった。
同じく台風19号で被害を受けた長野市の避難所「北部スポーツ・レクリエーションパーク」は当初からペット連れの避難者を受け入れた。
市はマニュアルで、「避難者の居住区域へのペットの持ち込みは禁止。グラウンドなどに専用スペースを指定する」と決めていた。
しかし、当日は気温が低く、雨風が強かったため、現場の判断で避難所の一角をペット連れの人にも開放した。
避難が長引くと、動物が苦手な人から「鳴き声が気になる」など苦情が出てきた。
そこで県に集まったペットへの義援金約30万円を使って、犬を最大11匹受け入れられる暖房付きのコンテナハウスを敷地内に設置。
11月7日から使い始め、のべ22匹が利用した。
長野市がペット連れのために設置した暖房付きのコンテナハウス=市提供
長野市の暖房付きのコンテナハウスで過ごす犬=市提供
昨年7月の西日本豪雨でも岡山県内2市でペットの同伴を認める避難所が設けられた。
総社市では動物好きの片岡聡一市長の判断で、市庁舎3階をペット連れに開放した。
東日本大震災でペットの移動診療をした岩手大農学部の佐藤れえ子教授(小動物病態内科学)は「ペットが来ることを念頭に置いた避難所の運営マニュアル作りが必要。ペットを飼っている人もいない人も避難所で共生できるよう、行政が主導して、同行・同伴避難のための具体的な施策に取り組むべきだ」と話す。
◆ペットと同行避難
ペットを迎えに行って津波に巻き込まれたり、飼い主とはぐれたペットを保護するのに時間を要したりした東日本大震災の経験を踏まえ、環境省は2013年、災害時はペットと一緒に逃げることを基本とする指針をまとめた。
しかし、16年の熊本地震では避難所でのペット受け入れを巡りトラブルが相次ぎ、18年の指針の改訂版には「避難所でペットを人間と同室で飼えることを意味しない」と明記し、運用は避難所ごとに任せることにした。
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