杉本彩さん「ペットの生体展示販売という、野蛮なビジネスモデルをなくしたい」
2019年11月24日(日) HARBOR BUSINESS
公益財団法人動物環境・福祉協会Evaを設立し、動物愛護活動に取り組んでいる女優・杉本彩さん。
「動物に対する向き合い方にその国のモラルや民度が表れます」と語る彼女に、真の「動物愛護」について語ってもらった。
杉本彩さん
◆利益最優先のペットビジネスの犠牲になる動物たち
「生体展示販売によるペットビジネスがここまで巨大化している国は日本くらいのもの。街のあちこちにペットショップが存在し、動物たちがショーケースに陳列されて販売されている――。日本では当たり前の光景ですが、動物愛護先進国の人たちの目には、“信じられない野蛮な行為”に映っているでしょう」
そんなビジネスモデルがまかり通っている根源にあるのは「動物をモノ(商品)としか見ていない利益第一主義」だと杉本さんは言う。
「経済効果ばかりを優先し、『利益を出すためには動物をモノ扱いして販売するのも仕方ない』と考えるのが今のペットビジネス。だから大量生産・大量流通という日本の産業構造がそのまま当てはめられてしまうんです」
そうしたビジネスには、商品の売れ残りや余剰在庫がつきものだ。
「それは命ある動物であっても同じことです。犬や猫の商品としての“旬”は生後45日くらいまでの幼齢期とされ、小さくてかわいらしい姿は消費者からの人気もあって高い値段で販売できます。でもそうした時期はほんの数週間しかありません。犬も猫も成長するのですから。だからペットショップは、次々に幼齢期の子犬・子猫を販売することで利益を上げようとします。その一方で、大きくなって商品価値が下がった犬や猫は“セール品”として叩き売られ、それでも売れ残ったら余剰在庫として廃棄される運命をたどることになるわけです」
◆ペットビジネスの負の側面は、すべて「生体展示販売」に起因している
旬の商品を揃えて利益を上げるためだけに、大量生産・大量流通、そして大量廃棄される犬や猫。
ペットショップのショーケースの向こう側には、動物にとって残酷な負のスパイラルが渦巻いていると杉本さんは言う。
「大量生産のために“パピーミル”(子犬工場)と呼ばれる悪質なブリーダーが存在し、大量流通のためにオークションが行われ、大量廃棄からは“引き取り屋”という悪質な業者が生まれてくる。動物を苦しめるペットビジネスの負の側面は、すべて生体展示販売に起因していると言えるでしょう。利益ばかりを優先する資本主義の陰には、常に犠牲を強いられる“弱者”が存在しています。生体展示販売の裏側で何の抵抗もできずにモノ扱いされ続けている動物たちもまた、紛れもない弱者なのです」
◆法律上も動物は「モノ」扱いされている
もうひとつ、ペット問題に大きな影響を及ぼしているのが法律だ。
「動物愛護法の基本原則では『 動物は命あるもの』なのですが、刑法上では『器物』、民法上では『動産』と、いまだに『モノ』として一括りにされています。その根っこには『動物は人間の管理下にあり、人間が好き勝手に扱ってもかまわない』という傲慢さが感じられ、それが動物を商品としてしか見ない風潮の後押しにもなっているように思います」
また、悪質なペット業者が絶えない要因には、開業のハードルの低さも挙げられると杉本さんは言う。
「大きな問題のひとつは、動物愛護法ではペットショップや繁殖業者、ペットホテルやトリマーといった営利目的で動物の取り扱いを行う業者(第1種動物取扱業者)が登録制だということ。つまり、登録さえすれば簡単にペットショップや繁殖業を開業できてしまうんです。その昔はもっとハードルが低い届出制でした。こうした誰でも開業できるという“間口の広さ”が悪質な業者を産み出す温床になっているのは間違いありません。人と同じ尊い命を扱う業者に対しては、ザルのような登録制ではなく、免許制にするなど厳しい規制が不可欠だと思います」
◆動物の悲劇を助長する無責任な消費者
生体展示販売がなくならないのは、売る側だけでなく「買う側」の意識も関係していると杉本さんは指摘する。
「今は、ほしいものがほしいときにすぐに手に入る世の中です。でもその便利さや手軽さを動物との出会いにまで求めることの異常さに、買う側が気づかなければいけないんですね。生体展示販売によって、日本では誰もがほしいと思ったらその場ですぐにペットを購入できてしまいます。ショーケースを見て、抱かせてもらって『かわいいから』と、ぬいぐるみのような感覚で衝動買いする。きちんと面倒を見られるのか、ペットを迎えられる環境は整っているのか、整えられるのか、維持できるのか。冷静に検討もしないまま、その場の感情に流されて買ってしまう。買う側の安易で無責任な消費行動が、生体展示販売という残酷なビジネスモデルを成立させ、動物を苦しめ続けていることを自覚するべきです」
◆動物を迎えるルートはペットショップ以外にもたくさんある
では、“買う側”の立場としては何ができるのだろうか?
「まず、『疑う』ことです。ほんの少し想像力を働かせれば、誰もが生きている動物が『モノ』として売り買いされていることの異常さに気づくはず。あたかも動物への愛が溢れているかのように生体展示販売されている動物は、どういう環境で繁殖させられたのか。そうした疑問を投げかけることが悪質なペットビジネスを根絶させるための第一歩になるんです。また、動物を迎えるときに『ペットショップでは買わない』という選択をすることもひとつの手段になりますね。買う人がいるから売るというのが悪徳ペット業界の言い分です。ならば逆に言えば『需要がなければ供給は不要』ということになります。買う人がいなければ利益も生まれず、そんなビジネスは自然に淘汰されていくはずです。保護犬・保護猫など、ペットショップでなくても動物を迎えるルートはたくさんあります」
◆日本はヨーロッパ諸国より100年は遅れている
動物愛護先進国のドイツでは、国がペットショップへの規制を強めて厳しいルールを設けたことでビジネスが成り立たなくなり、生体展示販売が激減したという。
「動物にやさしい社会をつくるには、売る側を厳しく追及するだけでなく、買う側の意識や姿勢を変えていくことも不可欠なのです。日本における動物の置かれた状況は、イギリス、ドイツ、オランダといったヨーロッパ諸国とくらべて、100年は遅れていると感じています。もちろん日本にも、豊かな動物愛護の心を持っている人は大勢います。ただ、動物の視線に立って動物にとっての幸せを考える『動物福祉』という点では、まだ圧倒的に未成熟。いまだに平然と行われている生体展示販売は、その象徴とも言えます。『動物福祉』が守られないこの野蛮なビジネスモデルがなくならない限り、日本はいつまで経っても動物愛護先進国にはなれないでしょう」
来年には東京オリンピック・パラリンピックが開催され、多くの外国人が訪れる。
日本のペット産業は、彼らにとって奇異に映るだろう。
「『日本では、いまだに店頭で動物を売っているのか?』と世界が驚愕し、軽侮されるでしょう。“命の売買”に歯止めをかけられるのか。日本の民度が今、問われています」
◆生体展示販売根絶へ。動物愛護先進国・イングランドの決断
英国イングランドで2020年から施行される、動物福祉向上のための法律が話題になっている。
ペットショップなどの業者に対して生後6か月未満の子犬子猫の販売を禁止する法律、通称「ルーシー法」だ。
悪質なペット業者への規制を強化して、動物を虐待から守ることを目指した「ルーシー法」が施行されれば、事実上イングランドでは生体展示販売が「違法」となる。
つまり、ペットを迎えるためには認定ブリーダーからの直接購入か、動物保護施設から迎えるかを選ぶしかなくなるわけだ。
現状でもイギリスやドイツには、日本のようにショーケースに子犬や子猫を並べているようなペットショップはほとんど見られないが、ルーシー法は、動物の命と尊厳を守るよりいっそう強い盾になるだろう。
生体展示販売がまかり通っている日本も、イギリスの前向きな取り組みに学ぶべきではないだろうか。
⇒【画像】イギリスのロンドンでは、犬がキャリーケースに入れられることなく地下鉄に乗っている
<取材・文/柳沢敬法 写真/大房千夏 日本動物福祉協会 ロンドンの写真/谷口真梨子>
【杉本彩】
1968年、京都府生まれ。女優・作家・ダンサー。「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」の理事長として動物福祉の普及啓発活動にも力を注ぐ。著書に『それでも命を買いますか? ペットビジネスの闇を支えるのは誰だ』(ワニブックスPLUS新書)など
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